【久留米市】「できることを、できるだけ」アップサイクルを通じて優しい社会を創造する
「SDGs」や「サステナブル」という言葉が一般化して久しい。
今年2月にはEUで「グリーンウォッシュ指令案」が採択され、実証できないエコロジカルな表現が禁止になった。
また、環境問題だけでなく、様々な不平等に対してもあらゆる対策が試みられている。
しかし、私たちの意識や行動、実生活には定着しているのだろうか。
久留米を拠点とし、廃棄物を減らすアップサイクル活動を行う「ippo」は、そう投げかける。
なぜ、この活動を行うようになったのか。
その想いを聞いてみた。
アップサイクルとは?
廃棄物を減らす取り組みと言えば、リサイクル・リユース・リデュースの『3R』がよく知られているだろう。
しかし、ippoが取り組んでいる『アップサイクル』はまだ聞き慣れない人も多いかもしれない。
「アップサイクルとは新たな価値を与えて再生することで、『創造的再利用』とも言われています。元々アクセサリー作りやアート作品を作るのが好きだったんですが、モノづくりをしていると大なり小なりゴミが出てしまい…。『創作活動という自分の欲のためにゴミを出していいのだろうか』と、それらのゴミが“エゴのかたまり”に思えてきたんです。そんなときにアップサイクルを知りました」
そして、アップサイクルについて調べていくと、廃棄予定だった花のアップサイクルに取り組む「日本サステナブルフラワー協会」の存在を知り、すぐに講座を受講。
フラワーロスのことやボタニカルキャンドルの作り方などを学び、ディプロマも取得する。
「元々は何か新しいことを始めるときはかなりリサーチや準備をしてから物事を進めるタイプなんです。しかし、アップサイクルを知って『私がしたいのはコレだ!』と思って。すぐに行動してましたね」
また、前職では地域情報誌の編集長を務めており、様々なモノづくりの現場を見る機会があった。
そこには必然的に出てしまうゴミがあり、生産の過程上仕方ないとは言え、自身の経験から「もったいないな」「もっとワクワクするものに生まれ変わらせられるハズ」と感じていたという。
そうした経験もあり、花に限らない、様々なモノのアップサイクルの輪を広げていく活動をスタートさせる。
私のいらないモノは誰かの宝
きっかけとも言える廃棄予定だった花への取り組みとして、花農家から継続的に仕入れる規格外のバラのほか、ippoが取り扱うアップサイクルのジャンルは多岐に及ぶ。
「素材としても面白く、人気も高いのは『くくり糸』ですね。久留米絣の柄をつくるために使用するもので、ランダムな色合いやうねりがあるのが特徴です。前職で久留米絣に関する取材をしたことがあって、その存在は知っていたのですが、いざ『くくり糸』にフォーカスしてみると、その膨大な量に驚かされました」
また、籃胎漆器の制作過程で出てくる竹節を、キャンドルや針山の土台として作品にしたり、工作の材料として幼稚園に提供したことも。
「捨てなければならない人と、それを使いたい人とを繋ぐ存在になりたいんですよね。まだ課題が多いのですが、廃材マーケットのような形をつくれたらと考えています」
また、昨年末にはこんな出来事があった。
「作家仲間を経由して、廃業した縫製工場を買い取った方から相談があったんです。大量のミシン糸や工業用ミシン台、事務用品などが残っていて、どうにかしたいという内容でした。処分を急がれている事情もあって、これは私がチマチマやっていても埒があかないと思いました」
そこで先方の許可を得て、SNSで欲しい人はいないか呼びかけたところ、X(旧Twitter)だけでも1.4万のリポストがあり、134万リーチというバズが起こった。
「私自身こんなに反響があるとは思ってなくて…。『着払いで良ければ発送もOK』と書いていたこともあってか、ブワッと広がりました」
結果、発送依頼は100件近くに上り、現地にも多くの人が訪れた。
最後の最後に残ったものは刺繍屋さんが引き取り、廃棄されるものはゼロになったという。
「ご相談いただいた方も正直『誰が欲しがるんだろう?』と思っていたそうなんですが、結果を見て『自分にとっては不要なモノでも誰かの宝になるんだ』ということを実感したと言っていただきました」
筆者も足を運んだが、大人から子どもまで目をキラキラとさせてお目当てのモノを探す様子はまさに宝探しのようだった。
「動くかどうか分からない工業用ミシンもあっという間に貰い手が決まりました。ご自身で革製品を作っている方もいれば、フィリピンに持って行って修理してみて、ダメなら鉄にするという人もいて。私にとってもいろいろと想定外な出来事でした」
ippoが目指す世界
手探りのままスタートしたのが2年前。
様々なマルシェに出店し、アップサイクル作品の販売を始めて気づいたのは「意外と関心が薄い」ということだった。
「『サステナブルだから』という理由で関心を持ってくれるのは10分の1くらいですかね。今はまだ、それらは買う理由を補強する要素でしかないんです。だから、より良い作品をつくらなければと思いました」
とは言え、目的はアップサイクル作品を売ることではない。
「活動資金を得るためにも作品が売れないと困りますが、作品はあくまでも“きっかけづくり”。作品を通じて、見過ごしていた、もしくは見えていなかった廃棄物の問題について知ってもらうための情報発信の手段なんです」
そして、ippoが目指すところはまだその先にあるという。
「例えば、廃棄される花は『規格』があるから生まれているわけです。もちろん、規格自体は必要なものだと思っています。ですが、自ら望んだわけでもないのに『規格外』にされた花たちの受け皿が少ない。これって、格差や貧困、障害といった社会課題と重なる部分だと思うんですよね。そういう社会課題を自分事にしてもらう“1歩”になりたいと考えています」
メディアで見かけることも多い社会課題への取り組み。
しかし、「すごいな」「大変だな」と思っても、そこから自らの行動に繋げられている人は少ないのではないだろうか。
「そういう情報に接したときに、1度『自分にどう関わっているのか』を考えてみて欲しいんです。その上で、1人ひとりができることをできる範囲で続けてもらえれば、きっと優しい社会が広がっていくと信じています」
それぞれの“1歩”を踏み出そう
ippoの作品や取り扱う素材はネットショップのほか、福岡県内3ヶ所で委託販売で購入可能。
そして、4月は大阪の百貨店、5月は名古屋の複合商業施設、6月には博多阪急でのポップアップが決まっている。
また、現在は結婚式で使用したブーケなどの思い出の花をキャンドルやアートキャンバスにするというオーダーが増えているそうだ。
一方で、企業のサステナブル事業への参画や、廃棄物の回収・再利用の相談に飛び回る傍ら、今年はワークショップに力を入れたいと考えているそうだ。
その1つとして、[石橋文化センター]で行われる「春の花まつり2024」でワークショップが開催される。
「元々はただのワークショップのご依頼だったのですが、『せっかくなら[石橋文化センター]さんのモノを使いませんか?』とご提案して、園内のツバキの実の殻を使ってアートキャンバスを作ることになりました」
今のところ、この先久留米でのワークショップの予定は未定なのだそう。
ippoの取り組みに興味がある方はもちろん、とりあえずアートキャンバスをつくってみたいという方も気軽に“1歩”を踏み出してみてはいかがだろうか。
ippo
【Instagram】https://www.instagram.com/ippo.upcycle/
【X(旧Twitter)】https://twitter.com/ippoupcycle
【ネットショップ】https://ippoupcycle.base.shop/
【委託販売先】Ring(福岡県久留米市西町1078-24 稲吉ビル101/https://www.instagram.com/ring.sawa.1975/)、空いろのたね(久留米市花畑3丁目4-1/https://www.instagram.com/soraironotane2004/)082KITCHEN(福岡市東区香住ケ丘6-5-11/https://www.instagram.com/082kitchen/)
つばきワークショップ〜ツバキの実を使用したお花のアートキャンバス作り〜
【日時】2024年3月16日(土) 第一部11:00〜12:30、第二部14:00〜15:30
【場所】石橋文化センター 楽水亭ギャラリーショップ(久留米市野中町1015)
【料金】2,800円
【定員】各10名(先着順)
【持ち物】汚れても良い服装 or エプロン
【申し込み】石橋文化センター(TEL. 0942-33-2271/FAX. 0942-39-7837)
【URL】https://www.ishibashi-bunka.jp/event/haruhana2024/