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元野良猫のいちごちゃんがリンパ腫に。保護団体はなぜ飼い主と同じ治療ができたのか?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:イメージマート)

「野良猫」「地域猫」※と呼ばれる自由気ままに生きる猫たちは、幸せそうに見えるかもしれませんが、交通事故や人間から虐待を受けるなどの危険が潜んでいます。たとえエサだけをもらっていたとしても、危険な地域にいたいちごちゃんは、ネコリパブリックに保護されました。

猫を保護して飼うことでも大変ですが、猫は生きているものなので、当然病気になることもあります。保護団体にいる猫がリンパ腫などの重い病気にかかった場合、どこまで治療をするのかをいちごちゃんの例から考えてみましょう。

※地域猫とは、外で生活して不妊去勢手術をして地域の人が世話をしている猫です。

急に元気がなくなり、顔が腫れたいちごちゃん

撮影は筆者 
撮影は筆者 

いちごちゃんは、2020年に生まれたためまだ3歳です。

猫エイズウイルスや白血病ウイルスも持っていません。しかし、元気がなくなり、食べなくなり、顔が腫れてきました。

保護猫カフェの近くの動物病院で画像診断や病理検査を受けたところ、リンパ腫であることが判明しました。リンパ腫は命にかかわる病気で、治療をしないと1カ月以内に亡くなることもあり、治療が上手くいっても1年生きることは難しい病気です。

飼い猫であれば、飼い主が全力で治療をする場合が多いのですが、いちごちゃんは保護猫カフェの猫です。温度管理された部屋でエサと水を与えるだけという選択肢も当然あります。

もちろん、保護猫活動をしている人は猫が好きで、全員が幸せになってほしいと思っていますが、治療費がかかるため、積極的な治療が難しい現実があります。

いちごちゃんが元気になるような治療を

筆者がいちごちゃんを診たときは、右目が腫れているので左右の目の大きさが違い、右の鼻から血を出していました。食べはしましたが、動きが鈍かったです。

提案した治療は、保護猫カフェで注射と内服薬の投与、キャットフードの変更、そして噴霧器をしてもらうことです。

保護猫を施設から車に乗せて、病院に連れてくるだけでもたいへんですが、そのうえ、上記のことをしてもらわないといけないのです。

飼い猫でも、なかなかそこまでやれないこともあります。しかし、保護猫カフェのスタッフのAさんは、二つ返事で承諾しました。

保護猫カフェを訪問

撮影は筆者 いちごちゃん
撮影は筆者 いちごちゃん

筆者は、いちごちゃんがどんな環境でいるのかを知りたく保護猫カフェ「ネコリパフリック大阪店」に見学に行きました。Aさんにいちごちゃんに会いにいってもいいのかと尋ねると、「店の一番、前にいますから」とAさんは、笑顔で答えました。

保護猫カフェの室内は、エアコンが効いており22度程の快適な室内でした。いちごちゃんは、2段のケージの中にいて、扉は開いていましたが、寝ていました。

ちょうど内服薬の投与の時間だったため、スプーンで薬を混ぜたものを与えられていました。治療をすると嫌がることもある猫ですが、いちごちゃんは素直に薬を飲み込んでいたため、かわいがってもらっているのだなと思って見ていました。

なぜ、いちごちゃんは治療ができたのか?

撮影は筆者
撮影は筆者

ネコリパフリック大阪店には、複数のスタッフが在籍しています。

筆者が提案した治療もしっかりしてもらうことができます。また、スタッフ同士の連絡が密に取れており、どのスタッフにいちごちゃんの様子を尋ねても、健康状態を的確に把握していました。

大阪の保護猫カフェを運営しているネコリパブリックは、サイトによると、保護猫団体や愛護団体ではなく、自己のビジネスとして保護猫活動を推進する「ブランド」を目指しているとのことです。

他の保護猫団体とは異なり、ビジネスをしていることが大きな特徴です。保護猫活動をビジネスとして成立させることは、容易なことではありませんが、大阪店では猫のグッズの販売や宿泊施設の提供など、様々な事業を展開しているようです。詳細については、サイトをご覧ください。

ネコリパフリックのサイトは以下です。

https://www.neco-republic.jp/

保護猫の医療費問題

イメージ写真
イメージ写真写真:イメージマート

野良猫を保護して、室内で飼うだけでも光熱費やエサ代、トイレ用品代など経済的な面や人手が必要です。

そのうえ、保護した猫ががんなど重い病気になれば、医療費の問題になります。NPOなどの猫の保護団体は寄付やクラウドファンディングなどでお金を集めますが、うまく集まらないケースもあります。

当然ですが、猫は生きているものなので病気になることもあり、このようなネコリパフリックのように保護猫活動がビジネスになるような仕組みが作れれば、救える命も増えるでしょう。

野良猫はもとは、人間が飼育放棄した猫なので、望まない命を増やさないためにも、猫を飼う場合は不妊去勢手術をして、野良猫のいない社会を目指していただきたいです。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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