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全国5000万世帯に布マスク配布 布マスクと不織布マスク、どっちがいいの?

加藤篤特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

2020年4月1日、新型コロナウイルス感染症対策本部は、経済対策として全国5000万世帯に布マスクを配布する方針を明らかにしました。

店頭でのマスクが不足しているため、新たな素材でマスクを制作したり、身近なものでマスクを手づくりするなど、さまざまな試みがされています。その一方で「ガーゼ等でできた布マスクは効果があるの?」「不織布製のサージカルマスクじゃなきゃ意味がないの?」などの意見も挙がっています。

医療従事者を、医療用マスク(不織布製のサージカルマスク)をしたグループ、布マスクをしたグループなどに別けて行ったランダム化比較試験では、インフルエンザ様症状の患者さんがいる病棟やウイルス感染が確認された病棟においては、布マスクは医療用マスクよりも、統計学的にリスクが高くなる。このため、感染リスクが高い場合には、布マスクは医療従事者に推奨しないという論文があります。

A cluster randomised trial of cloth masks compared with medical masks in healthcare workers

WHOの資料においては、新型コロナウイルス感染症のヒトからヒトへの感染を防ぐ観点から、様々な看護状況において感染予防を考えた場合、布マスクは推奨しない、という内容もあります。

Advice on the use of masks the community, during home care and in health care settings in the context of the novel coronavirus (2019-nCoV) outbreak

以上からすると、布マスクは効果が無いと思われ、不安になると思います。

そこで今回は、マスクの基本的な役割と効果について、北里大学 医療衛生学部 公衆衛生学研究室の伊与亨氏に話を聞きましたので、以下、その内容をご紹介します。

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前述の論文などは、いずれの内容も、患者さんがいる医療機関で感染している人や、自宅で病気になった人を看護する場合の指針となっています。

改めてマスクの目的を「空間に浮遊するウイルスを吸わないようにする」と「相手を感染させない」に分けて説明します。

目的1 空間に浮遊しているウイルスや花粉等の粒子を吸わないようにする

これは、患者さんからの感染を医療従事者が防ぐための手段としてマスクを使用することになります。

この視点で考えると「N95マスク」は、かなり効果があります。ただし、効果がある反面、空気を吸うことが大変になります。日常生活で使用することはまずありません。

「不織布でできたサージカルマスク(以下、サージカルマスクと称します)」は、マスクは顔との間に隙間ができるので、N95のような効果は期待できません。一般的には、風邪の予防をしたい、花粉症対策として、皆さん使われていると思います。

なお、「N95マスク」も「サージカルマスク」も、いずれも洗って再利用するものではありません。使用したら捨てるものです。なんとか使おうと思い、エタノール消毒をすると、ウイルス等の粒子捕捉効果は低下すると製造メーカは説明しています。

最後に「布マスク」ですが、ウイルスや花粉等の粒子を吸わないようにする「N95マスク」や「不織布マスク(メディカルマスク)」には明確に性能が劣ります。ウイルス等の粒子はガーゼを簡単に通過しますので。

前述の論文のとおり、医療従事者などには布マスクの使用をすすめないという考えで良いと思います。

では、なぜ「布マスク」の装着が、最近推奨されるようになったかについて説明します。

目的2 相手を感染させない

これは、感染経路の遮断の目的で、咳やくしゃみの飛散防止・低減のためにマスクを使用することになります。

自分が感染している場合、または、感染している可能性がある場合、咳やくしゃみが頻繁にある場合、ひょっとしたら気がついていないけど感染しているかもしれない場合など、咳やくしゃみ・つばの飛沫飛散を防止・低減するために使用します。相手を感染させないためのマスク使用です。

飛散防止によって相手を感染させないことを目的とした場合、「N95マスク」までの高性能は不要です。逆に一般の人がこれを使うと医療用が不足してしまいます。そもそも呼吸が苦しくなり生活には不向きです。

つぎに、「不織布マスク(メディカルマスク)」も、相手を感染させないという目的で使用できます。ただし、現在は品不足となっていまので、消毒用アルコールなどで消毒してなんとか繰り返して使うとするように考える人もいるかと思います。この場合、ウイルス捕捉効果は低下しますが、相手を感染させないという目的ならば、なんとか代用可でしょう。ただし、本来の使用方法である1回使ったら捨てるという使用方法が良いことには変わり有りません。

最後は、「布マスク」です。「サージカルマスク」よりも濾過機能は明らかに落ちますが、飛沫飛散の防止・低減では有効です。しかも、洗って何回も使えるので、大変リーズナブルです。界面活性剤である洗剤で洗いますと、ウイルスも落ちやすくなります。このように「布マスク」は、相手に感染させないという目的なら効果的に使えます。昔、マスクといったらガーゼでできたマスクだったという記憶のある方もいるでしょう。

サージカルマスクであれ、布マスクであれ、感染経路の遮断などのため、咳、くしゃみ、つばなどが飛ばないようにするという目的を良く理解して、使用する必要があります。布マスクは自分のためではなく人のため。他人を思いやる感染症対策。まさに「情けは人のためならず(人に情けをかければ、それが回り回って自分に良い報いとして返ってくるという意味のことわざ)」です。

とくに、学校では、相手を感染させないという目的、すなわち咳エチケットでマスクを使用することが必要でしょう。マスク以外では、咳やくしゃみが出るときハンカチなどで口を押さえる、腕で口を覆うなども咳エチケットとなります。極端なことをいうと、タオルを使って、鼻から下、口の部分まで覆面するということでも良いのです。でも、このような方法だと、いつ外れるかわかりませんし、使い勝手もよくありませんので、マスクの推奨となるわけです。特に、くしゃみはいつ出るかわかりません。ハンカチを探している間に「ハックション」では、咳エチケットに反します。なお、布マスクは1日使ったら必ず洗浄し、清浄な状態にする注意を怠ってはいけません。繰り返し洗って使えると申しましたが、それにも限度があるという常識も必要です。きれいな状態で繰り返し布マスクを使うためには、それなりの努力・注意をしましょう。

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特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事

災害時のトイレ・衛生調査の実施、小学校のトイレ空間改善、小学校教諭等を対象にした研修会、トイレやうんちの大切さを伝える出前授業、子どもの排便に詳しい病院リストの作成などを実施。災害時トイレ衛生管理講習会を開催し、人材育成に取り組む。TOILET MAGAZINE(http://toilet-magazine.jp/)を運営。〈委員〉避難所の確保と質の向上に関する検討会・質の向上ワーキンググループ委員(内閣府)、循環のみち下水道賞選定委員(国土交通省)など。書籍:『トイレからはじめる防災ハンドブック』(学芸出版社)、『もしもトイレがなかったら』(少年写真新聞社)など

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