災害関連死を防ぐために、いま必要なトイレ支援
能登半島地震発災から一週間が過ぎました。被災者自身の忍耐や努力は限界を超えています。
一刻も早く安心できるトイレ環境を確保するための外部からの支援が必要です。トイレ問題を設備問題として捉えるのではなく、関連死を防ぎ、尊厳と公衆衛生を確保するための緊急事項として位置付けるべきです。トイレを快適にすることは贅沢ではありません。
トイレが不衛生でアクセスが困難なトイレ環境では、トイレに行くことを避けるために水分摂取を控えてしまうことはわかっています。これはエコノミークラス症候群等で命を落とすことにつながります。
また、不衛生なトイレ環境は集団感染のリスクを高めますし、不衛生な環境では食事や医療も成り立たなくなります。
今後、寒さが増すとともに避難生活の長期化が予想されるため、早急に検討すべきトイレ対応を以下に整理します。なお、現場の状況について触れている内容は、1月6日~7日時点の状況となります。
1.トイレ対応の基本的考え方
被災状況によって、地域ごとに状況がかなり異なります。
1)複数の災害用トイレを組み合わせる
ですが、トイレ対応の基本的考え方は同じです。屋内のトイレ対応(携帯トイレ、簡易トイレ、バケツ洗浄)と屋外のトイレ対応(仮設トイレやトレーラートイレ等)を組み合わせて対応することが必要です。どちらかに依存するのではなく、両方を活用することが効果的です。
2)トイレの声かけが大事
また、トイレに行くことを声かけすることが大切です。避難所等ではトイレに行くタイミングを逃しがちです。声をかけて一緒に行くことで気分転換や運動にもなります。複数人で行くことは防犯の面からも有効です。高齢者にとっては時間を決めてトイレに行くこと自体が運動機能を維持・回復するうえで重要になります。
2.屋内のトイレ対応
1)携帯トイレと簡易トイレ
断水が続いている地域が多く、水の確保が困難な場合は、携帯トイレと簡易トイレが効果的です。建物内の便器に携帯トイレを取り付け使用します。処理方法は市町村によりますが概ね可燃ごみ扱いになります。
(以下は携帯トイレの使い方です。3:23頃から具体的な設置方法です)
簡易トイレの中には、電気式で袋を熱圧着させて臭気を漏らさないタイプもありますので、積極的に活用すべきです。
足腰の悪い人は建物内のトイレを使えることがよいですし、健常者であっても厳しい寒さの中、とくに夜間に屋外のトイレに行くのは容易でありません。
ただし、ほとんどの人が携帯トイレや簡易トイレを使ったことがないため、衛生的に運用するには人的サポートが必要です。今回の避難所でお会いした85歳の女性は、屋外の仮設トイレは寒いので携帯トイレが役に立つと言っていました。
使用後は、ごみ収集が再開するまで生活空間とは離したところで保管しなければなりません。ごみ収集車に入れて破裂したり、し尿が漏れ出たことがあるため、ごみ収集する作業員がし尿ごみであることを分かるようにごみ出しすることが必要です。
2)バケツの水で便器洗浄
排水設備や処理施設等が機能しており、プールの水などを確保できる場合、バケツで便器洗浄できます。この場合は、排水管等の詰まり防止のため、使用済のペーパーは分別することがよいです。ただし、以下の①~③の場合はバケツ洗浄することができないので、注意してください。
なかでも②と③に関しては、本来であれば専門業者に確認を依頼したいところですが、それにはかなりの時間を要するため、大きなトラブルを避けるための簡易な自主点検が必要だと考えています。
今後は、宅内の排水設備や浄化槽の専門支援も必要です。過去の災害では、悪質業者も確認されています。とくに排水設備等は自治体指定の業者で対応することが必要ですので、どういった業者であれば問題ないのか、住民への情報提供が重要です。
①下水道使用自粛のお願い
公共下水道が被災している場合は、市町村から下水道使用自粛のお願いなどの連絡があります。この場合は、下水道の使用を最小限にとどめるために、トイレは災害用トイレを使用することが求められます。
②建物周辺および敷地内の排水設備の自主点検
道路のマンホールが飛び出していたり、敷地内の排水設備が敷設されているあたりが地盤沈下や隆起していたりする場合は、バケツ洗浄は避けてください。汚水が溢れたり、閉塞したり、逆流したりすることが考えられるからです。今回の地震は、排水設備や下水道管がかなりダメージを受けていることが考えられます。
熊本地震のとき、益城町は宅内排水設備の簡易な点検方法として以下の方法を提案していましたので、参考にしてください。上水が復旧した際にも、すぐに汚水を流さず、排水設備を簡易点検することで大きなトラブルを避けることができると考えます。
③浄化槽の自主点検
汚水を浄化槽で処理している場合は、その浄化槽が機能しているかどうかを確認する必要があります。環境省は、震度6弱以上・床下浸水以上の災害が起きた場合に備え、住民が暫定的に浄化槽の使用可否を判断できるように「災害時の浄化槽住民用チェックシート」を公開しています。下図を参考にチェックして、不具合があれば使用できません。
3.屋外のトイレ対応
1)洋便器はマストアイテム
避難所等に仮設トイレが配備されてきていると思います。しかし、数か所の現場しか確認出来ていませんが、和便器の仮設トイレがかなり設置されていました。
仮設トイレは洋便器にすべきです。その理由は、足腰が悪い人はもちろんのこと、子どもたちの多くは和便器が使用できないからです。実際に避難所で意見を聴いてみると、洋便器のニーズが高いです。便座を清潔に保つために、便座の除菌シートの支援も必要ですし、小便器専用の仮設トイレも必要です。
熊本地震のときに、高齢者が和便器の床にぺったりと座って用を足さざるを得なかったことがありました。このような事態はあってはならないと感じています。
また、トイレ入口の段差や階段をできるだけなくすような努力が必要です。これまでの厳冬期での災害を想定した訓練では、仮設トイレの床が小便の飛沫等で凍結することがわかっています。雨や雪で滑りやすくなっているため、転倒するリスクを軽減するためにも階段は極力なくしたいところです。
2)仮設トイレの配備と汲取り、清掃を一元管理すべき
仮設トイレの配備と汲み取り、そして衛生に配慮した清掃も含めた維持管理の連携が必要です。この点については、西日本豪雨のとき岡山県倉敷市は、災害時だからこそ安心できるトイレが必要だとして、仮設トイレの設置とともに維持管理を業者に依頼して巡回作業(汲取り、水補給、ペーパー補充、掃除)を実施しました。
新潟県中越地震では、県庁職員が中心となり、避難所に設置したトイレが被災者に使ってもらえているかどうかを調査しました。この取り組みも今回導入していただきたいところです。
今後、仮設トイレの配備とバキュームカーの手配は一元管理すべきです。仮設トイレの設置数や設置場所の情報共有はもちろんのこと、利用者の使い勝手や汲取り作業を考慮した配置も必要になるからです。
現状では、男女別のレイアウトや雨除けなど使い勝手を考慮した配置、照明の設置等を行い、すぐに使えるように配慮された避難所もありましたが、照明もなく夜は真っ暗で安心して使えないという避難所もありました。業者によってこのような差が出てしまうことは避けるべきです。
また、仮設トイレを調達する際は、掃除道具やトイレットペーパー、消臭剤等もセットで手配することが効果的です。これらは新潟県中越地震から学んだ教訓です。
3)し尿移送の広域連携
仮設トイレの大小便はバキュームカーで運びます。バキュームカーでの対応が止まると仮設トイレは使用できなくなり、衛生状態も悪化します。
被災地のバキュームカーの行き先であるし尿処理場が機能していなければ、仮設トイレのし尿を汲み取ることができません。また、バキュームカー自体が少ないので、対応が間に合っていません。
今回の現場では、行き場を失いながらも必死に汲取りながら巡回しているバキュームカーもありました。バキュームカーのタンクに溜められる限り汲取り続けるとのことでした。
し尿処理場の被災状況の早期把握と情報共有、処理場が機能喪失した際のし尿の移送先は平時から決めておくべきです。西日本豪雨のとき愛媛県大洲市は、県内外の処理施設に分散して移送しました。過去の教訓を仕組みとして生かすことが必要です。