「大迫半端ないって」商標登録を無効にすることはできるのか?
今年の流行語大賞候補とも言われている「大迫半端ないって」が商標登録されていたことが話題になっているようです(参照記事「『大迫半端ないって』は商標登録済み Tシャツ作った男性、類似品に思い複雑」)。自分はサッカーに詳しくないので知りませんでしたが、この言葉は最近急に流行りだしたわけではなく、2009年頃からインターネット・ミームとして流行っていたものだそうです。
調べると確かに「OSAKOHANPANAITTE」(ローマ字大文字ブランクなし)の文字商標が被服類を指定商品として2014年に第5711702号として登録されています。
上記記事から見る限り権利者の方は大迫勇也選手や関連団体とは関係がなく、単にネットで流行っていた画像をTシャツにプリントするために商標登録したということのようです。これに対して本人の許可なしに勝手に登録してしまっていいのかと苦言を呈している人もいるようです。
このような「勝手出願」による登録が無効にできるかどうかを検討してみます(なお、無効にすべきであると言っているわけではありませんので念のため)。
商標法には以下のような商標は登録できないとの規定があります。
ここで言っているのは「他人の氏名」なのでOSAKOのみでは適用できません。もし「大迫勇也半端ないって」という商標登録であれば無効にできた可能性はあります(というかそもそも審査段階で4条1項8号違反を問われるでしょう)(関連過去記事「大勝軒による『山岸一雄』の商標登録出願が拒絶に」)。また、「他人の肖像」についても、Tシャツの絵柄をそのまま商標登録したのであれば問題になり得ます(Tシャツの絵は大迫選手ではなく対戦相手選手のものだそうですがいずれにせよその選手の承諾が必要)が、商標登録自体は文字商標なのでこれも関係ありません。(追記:ツイッターで指摘受けましたが、OSAKOが大迫勇也選手の「著名な略称」であるという主張も一応は可能かと思います(「ジャイアンツの江川」が江川卓氏の著名な略称を含むとした審決あり)。しかし、この条文の判定時が現在ではなく出願時および査定時(2014年)ということも加味すると結構ハードルは高いのではと思います。)
その他、公序良俗違反(4条1項7号)、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(4条1項15号)はいずれも厳しいと思います。
なお、無効審判の請求には利害関係人であることが求められますので、単にけしからんという動機だけで無効審判を請求することはいずれにせよできません。
商標制度が先願主義、かつ、商標は創作物ではなく選択物(既にある言葉を営業標識として選んでもよい)であるという建て付けである限り、インターネット・ミームのように何となく共有財ぽい状態になっている言葉を関係ない人が登録してしまう状況を完全に防ぐことはできません。ある言葉を誰にも商標登録して欲しくないということであれば関係者が自分で登録するしかないわけです(関連過去記事「そだねー、チバニアン・・・:商標のパブリックドメイン化は可能か?」)。