そだねー、チバニアン・・・:商標のパブリックドメイン化は可能か?
「そだねー」商標登録問題は、どうやら北見工業大学関係者が商標権を取得することで丸く収まりそうです(参考記事)。しかし、流行り言葉が商標登録されることによって、その言葉に直接関係のない人が商標の使用を独占してしまうリスクは今回に限った話ではなく常に存在します。たとえば、「チバニアン」は命名者である研究機関が異議申立を行なうことで、印刷物については取消しできましたが、その他の指定商品については特定個人に権利が帰属したままです(参考記事)。
商標権だけでなく、特許権、著作権等、多くの知的財産権制度は特定の人の「独占」が基本になっています。しかし、知的財産を独占せずに誰でも自由に使って欲しい、あるいは、関係者だけに使って欲しいというニーズは存在します。
特許権の場合には単に発明を公開してしまえば新規性がなくなりますので、発明者を含めて誰も特許は取れなくなります(「自由技術」と呼ばれる状態になります)。アイデアを普及させるために敢えて特許化せず、かつ、公表により誰も特許化できないようにすることは有効な選択肢のひとつです(辛子明太子の製法などはその例です)。公開日付の立証等を確実にしたいのであれば、特許出願だけして出願公開後に取り下げるか、出願請求をしないでそのままほっぽっておくという手もあります。
著作権の場合は、著作権を放棄した旨を新聞広告等で発表してパブリックドメイン化する方法もありますが、クリエイティブコモンズの表記を付けることで、著作権を維持したまま公衆に対して無償でライセンスすることで自由に使ってもらうことが可能です。
ところが、商標権の場合は、前記事でも書いたとおり、創作者に権利が付与されるという構造になっていない(その言葉を選択して最初に出願した人に権利が付与される)ので上記のようなやり方が取れません。みんなで忖度して出願しないようにしても、全然関係ない人が抜け駆け出願してしまうことは防げません。ある言葉を商標として特定の人に独占させずにみんなで使えるようにしたい(いわば商標をパブリックドメイン化したい)というのであれば、誰か信頼できる人が商標権を獲得して、かつ、その権利を行使しないようにするというやり方しかありません。「信頼できる人」とは誰なのかという問題もありますし、商標権の取得にはコストがかかります(全類で権利を押さえると印紙代だけで100万円以上かかります)ので、常にこのやり方が有効というわけではありません。たとえば、「チバニアン」を命名した研究機関に商標権を全類押さえてくださいというのは無茶な話です。
商標制度上は歴史上の有名人物の名前等、特定の人に独占させることが好ましくない商標は「公序良俗違反」(4条1項7号)として拒絶される運用となっています。この規定を柔軟に運用することで、時の言葉を関係ない人が商標として独占してしまうという問題を多少は防げると思いますが、「公序良俗違反」規定の濫用もまた問題なので悩ましいところです。