厚木のFA18、6割飛べず? 在日米軍、東京新聞の「憶測」記事に遺憾表明
東京新聞は2月17日付朝刊で「厚木の米軍機FA18 6割飛べず? 部品なし修理不能 米専門紙惨状掲載」と題する記事を掲載した。これに対し、在日米海軍司令部(神奈川県横須賀市)は23日、「記事には多くの憶測が含まれており、日本国民の皆様の誤解を招き、誤った情報を与える恐れがある」として見解を発表。艦載機が厚木航空基地に配備されている第5空母航空団は「常に日本を防衛する即応態勢にある」と説明し、「米海軍に事実やコメントを求めることなく東京新聞がこのような憶測を掲載されたことは残念」と遺憾を表明した。同司令部の広報部長も日本報道検証機構の取材に応じ、国防予算不足で厚木に配備されたFA18戦闘攻撃機のうち約30機が稼働できないという憶測は「誤りです」(false)と明言した。(追記あり)
米海軍全体のFA18稼働不能6割 これを厚木基地にも当てはめ
東京新聞の記事は前半で、米軍事専門紙「ディフェンス・ニュース」の報道を参照する形で、米国防費の予算不足で米海軍艦艇や航空機が修理できず、次々と稼働できない状態になっていると報道。「航空機は53%が飛行不能に陥り、なかでもFA18は62%が稼働していない」と指摘した。
記事の後半では、この問題が在日米軍に与える影響について「62%が稼働不能という数字を神奈川県の横須賀基地を事実上の母港とする原子力空母『ロナルド・レーガン』の艦載機が配備された厚木基地にあてはめると、FA18は約五十機のうち約三十機が稼働できないということになる。稼働可能なFA18が二十機程度となれば、本来、空母に搭載するFA18の四個飛行隊のうち、二個飛行隊しか運用できないことになる。圧倒的な航空攻撃力を誇る空母機能の半減を意味し、日本防衛に資するはずの米軍の戦力に疑問符がつく。飛行時間の不足は事故に直結するおそれもある」と記していた。
記事には、米海軍や専門家に取材した形跡はなかった。ただ、市民団体が昨年11月から今年1月までFA18の飛行状況を調べた結果から「稼働する機体が少ないことを裏付ける結果になっている」と自らの推測の妥当性を印象づけていた。
「帰港後の稼働率低下は予算や航空機の状態とは無関係」
在日米海軍司令部は23日、見解をFacebookやTwitterで発表。「東京新聞はなぜ厚木航空施設におけるスーパーホーネットの即応性に関し、米海軍に問い合わせることすらせず、米海軍航空機の即応性や日本防衛に対する米海軍の能力について憶測の記事を掲載されたのでしょうか」と疑問を呈したうえで、「東京新聞の読者の皆様、ひいては日本の国民の皆様は真実を知る権利があるのです。それはすなわち、第5空母航空団が完全に任務遂行可能であり続け、空母ロナルド・レーガンの艦上から展開し、地域に安全と安定を提供し、常に日本を防衛する即応態勢にあるという事実です」と強調した。
その後、同司令部広報部長のロナルド・フランダース中佐が日本報道検証機構の取材に応じ、コメントを寄せた。
フランダース氏は「予算上の制約が米海軍が世界中に保有しているFA18(ホーネットとスーパーホーネット)の即応性に影響を与えていることは事実」と認めた。(*1) 一方で、フランダース氏は「第5空母航空団の即応性を高く保つことは、米海軍の最優先事項の1つ」と指摘。米海軍の予算不足の問題は第5空母航空団には「当てはまらない」と指摘した。
FA18戦闘機には開発時期の異なる複数のバージョンがあるが、厚木にあるのは最新鋭のFA18E/F(通称スーパーホーネット)で「いつでも運用できる状況」にあるといい、「約30機が稼動できない状況にあるという憶測は誤りです」と述べた。23日の見解では、厚木に配備されたスーパーホーネットは「米海軍の前方展開戦闘飛行隊を最大限の即応性で維持する為に必要となる、すべての部品と飛行時間を有しています」と説明していたが、記事の推測が事実に反することをより明確に表明したといえる。
記事が取り上げた市民団体によるFA18飛行状況の調査結果についても、フランダース氏は「展開から帰還した2016年11月以降、第5空母航空団に所属するスーパーホーネットの稼働率は多少低下しましたが、これはホリデーシーズンの影響であり、予算や航空機の状態とは無関係です」と説明した。空母「ロナルド・レーガン」は昨年11月21日に横須賀に帰港して以降、定期整備の期間に入っているという。
米国の軍事情勢に詳しい西恭之・静岡県立大特任助教は、当機構の取材に対し「2014年以後の米海軍の練度と訓練のサイクルをみると、米国本土を拠点とする空母と空母航空団は作戦行動や飛行訓練をほとんど行わない期間が36か月間のうち16か月間ある。一方、日本に前方展開している空母と第5空母航空団はそうした期間が12か月のうち最大でも4か月程度しかない。この差を考慮せず、米海軍全体の艦艇や航空機の稼働率の平均値を、第5空母航空団に当てはめることがそもそもの誤りだ」とコメントした。(*2)
また、米海軍は、旧型のFA18A/C(通称ホーネット)と新型のFA18E/F(スーパーホーネット)を保有しており、米軍事専門紙が報じた「FA18の62%が稼働不能」の中には、稼働率が相対的に低いホーネットも含んでいるとみられる。西氏は「厚木に配備されているのはスーパーホーネットの中でも比較的新しいバージョンで、稼働率は比較的高いとみられる。FA18全体の平均稼働率を、厚木のスーパーホーネットに当てはめているのもおかしい」と話している。(*3)
当機構は東京新聞に対し、米海軍への取材をせず憶測の記事を掲載したと指摘されたことなどについてコメントを求めたが、編集幹部は回答は控える、と答えた。記事を担当した半田滋編集委員にも直接、在日米海軍司令部の見解への反論がないか尋ねていたが、返事はなかった。
【追記】
東京新聞は3月1日付朝刊で、在日米海軍から反論があったことを掲載した。同紙の再反論はなく、当初報道を補強する事実も示されなかった。(3/5 2:00)
ロナルド・フランダース中佐(広報部長)のコメント(全文)
(訳)
第5空母航空団の即応性を高く保つことは、米海軍の最優先事項の1つであり、厚木を拠点とする全てのFA18の運用即応性は非常に高いものとなっています。米海軍厚木航空施設を拠点として運用されているスーパーホーネットは、FA18E/Fの中でも最新鋭型であり、いつでも運用できる状況にあります。
厚木を拠点とする約50機のスーパーホーネットのうちの約30機が稼動できない状況にあるという憶測は誤りです。予算上の制約が米海軍が世界中に保有しているFA18(ホーネットとスーパーホーネット)の即応性に影響を与えていることは事実ですが、そのことは日本に配備されている第5空母航空団には当てはまりません。
運用計画の詳細については言及しませんが、米海軍飛行隊の飛行スケジュールは、定期整備や飛行時間管理を含む様々な要因によって決まります。また、2016年11月に海外展開から帰還した以降、第5空母航空団に所属するスーパーホーネットの稼働率は多少低下しましたが、これはホリデーシーズンなどの影響であり、予算や航空機の状態とは無関係です。
(訳文は、在日米海軍司令部広報担当者の仮訳をベースに日本報道検証機構が一部修正した。)
(*) 米海軍のコメントは「F/A-18」と表記されているが、本稿では「FA18」に表記を統一した。
(*1) 米国の国防予算不足で多くの米海軍艦艇、航空機が稼働不能になっている問題は、米海軍のモーラン副作戦部長が2月7日、米下院軍事委員会で証言し、米軍事専門紙「ディフェンス・ニュース」の報道を事実上追認している。
(*2) 米国のシンクタンク「戦略予算評価センター」(CSBA)の研究報告書に、練度と訓練のサイクルに関する米海軍の現行制度の説明がある(PDFファイルp.101-103、図47参照)。西恭之・静岡県立大特任助教の情報提供。
(*3) なお、東京新聞の記事には「約千七百の航空機は53%が飛行不能」と記された部分があるが、「米海軍が保有する航空機の53%に当たる約1700機が飛行不能」が正しいとみられる。記事が引用したディフェンス・ニュースの記事には「According to the Navy, 53 percent of all Navy aircraft can’t fly ー about 1,700 combat aircraft, patrol, and transport planes and helicopters.」と書かれており、これを誤訳した可能性がある。