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OISTの次期学長就任が決定された

鈴木崇弘政策研究者、PHP総研特任フェロー
OISTの次期学長が公表された 写真:OIST提供

 沖縄科学技術大学院大学(OIST)は、世界中の候補者の中から総合的な選考を行った学長兼理事長選考委員会の推薦を受けた同理事会が選出したことで、カリン・マルキデス博士が、2023年6月1日付で次期学長に任命されることを発表した(注1)。

 マルキデス博士は、スウェーデン出身で、元々は化学分野の研究者だが、スウェーデンのイノベーションシステム庁「VINNOVA」副長官(注2)、同国チャルマース工科大学学長兼理事長、アルメニア・アメリカン大学(カリフォルニア大学提携校)の学長などを歴任し、大学を含む組織運営のプロ中のプロだ。スウェーデン王立科学アカデミーの会員やノーベル化学委員会の委員、さらに日本の国立研究開発法人理化学研究所のアドバイザリー・カウンセルなども務めている。その意味では、日本の研究などに関する知見もあるといえるだろう。

             カリン・マルキデスOIST次期学長 写真:OIST提供
             カリン・マルキデスOIST次期学長 写真:OIST提供

OISTのHPによれば、チェリー・マレイOIST理事会議長は、「マルキデス博士は人望が厚く、尊敬される包摂的なリーダーであり、世界クラスの大学を前進させるためのリーダーシップと戦略的理解を備えています。国際的な経験を持つマルキデス博士は、開学から10年を迎え成長し続けるOISTにとって最適な人物です。」と指摘している。

 OISTは、設立後10年程度であるが、昨年はその兼任教授からノーベル賞受賞者が生まれたことや卓越した業績などから、小規模ではあるが、高い研究レベルで知られ、国際的にも高い評価を得ている。

        スバンテ・ペーボ兼任教授がノーベル賞を受賞 写真:OIST提供
        スバンテ・ペーボ兼任教授がノーベル賞を受賞 写真:OIST提供

 他方、筆者のOISTでの滞在研究の経験(注3)からすると、OISTは、設立以来約10年が経ち、初期の研究レベルの向上に注力してきた段階から、これまで以上に社会的役割を期待される存在になる必要性が求められる「第二ステージ」に入ってきているといえる。その意味では、OISTにとって、これからの5年間は、今後のさらなる高次なレベルでの役割が問われる非常な重要な時期になるといえるだろう。

 またOISTは、筆者が拙記事「『変われない』日本が、3つの事例から学べること」(Yahoo!ニュース 2023年1月2日)でも論じたように、日本社会において、日本の社会や従来の組織とは大きく異なる試みにチャレンジしてきており、新しい可能性を生み出しうる数少ない一つの希望だ。OISTには、何としても成果を生み出し続け、日本社会に刺激とインスピレーションを与えてもらいたいと考えている。

 以上のようなことから、マルキデス次期学長のリーダーシップや活躍に大いに期待すると共に、同次期学長およびOISTの今後に注目してきたいところである(注4)。

(注1)OISTは、前学長ピーター・グルース博士は、2022年12月31日をもって学長・理事長を退任し、理事であるアルブレヒト・ワグナー博士が、現在臨時学長を務めている。

              前学長ピーター・グルース博士 写真:OIST提供
              前学長ピーター・グルース博士 写真:OIST提供

           現在の臨時学長アルブレヒト・ワグナー博士 写真:OIST提供
           現在の臨時学長アルブレヒト・ワグナー博士 写真:OIST提供

(注2)「VINNOVA」は、スウェーデン国内のイノベーション創出活動をバックアップする政府官庁のこと。その詳細に関して、次の記事を参照のこと。

「【VINNOVA】スウェーデンイノベーションシステム庁とは!?」It’s Lagom 2018年10月1日

「スウェーデン・フィンランド‐産業デジタル化に取り組む」JETRO(地域・分析レポート)2017年8月15日

(注3)このような機会を提供していただいた、ピーター・グルース前学長をはじめとしてOISTおよびその教職員の皆さん方には感謝申し上げたい。また、その研究成果については、次の論文などをご参照ください。

「OISTの挑戦にみた日本変革のヒント」Voice2023年2月号

(注4)マルキデス次期学長は、スウェーデンにおけるイノベーションやR&Dのけん引役として重要なイノベーションシステム庁「VINNOVA」の副長官も経験している。これに対して、OISTは、「第二ステージ」において、その研究成果の社会への実装化への期待が高まっており、同次期学長は正に適役の人材といえるだろう。

 またOIST関係者から聞いたところによると、次期学長は当初2年間の給与は抑えられ、その成果次第で給与が上げられるという給与体系になっているそうだ。その意味からも、次期学長が活躍され、成果が出てくることが期待できそうだ。

政策研究者、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。経済安全保障経営センター研究主幹等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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