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オウム死刑囚全員に死刑執行:私たちの中にあるオウム(今回元幹部ら6人に死刑執行)

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
前回教祖ら7人が死刑にされた時の写真(写真:ロイター/アフロ)

< オウム真理教はとんでもない犯罪テロ集団だった。しかし、私たちの心にも、オウム的なものは潜んでいないだろうか。>

■オウム真理教元幹部ら6人に死刑執行(死刑囚13人全員に死刑執行)

7月6日に教祖の麻原彰晃こと松本智津夫元死刑囚ら7人が一度に死刑執行されたのに続き、今日7月26日、残り6人の死刑が執行されたと報道された。これで、オウム真理教事件で死刑判決が出た13人全員に刑が執行されたことになる。

 <「オウム」元幹部ら6人の死刑執行 13人全員、同じ月に

■死刑執行の衝撃

前回の7人の死刑執行時には、各メディアがこぞって大報道を行い、おそらく事前に用意されていたオウム真理教事件を振り返る番組も続々と放送された。一方、ヨーロッパをはじめ、死刑を廃止している世界の国々からは驚きと非難の声も聞かれた。

たとえば、次のような声明である。

「EUは、いかなる状況下でも極刑の使用に強くまた明白に反対し、その全世界での廃止を目指している。死刑は残忍で冷酷であり、犯罪抑止効果がない。さらに、どの司法制度でも避けられない過誤は、極刑の場合は不可逆である。われわれは、日本政府に対し、死刑を廃止することを視野に入れたモラトリアム(執行停止)の導入を呼びかける」。

今回、残りの死刑囚の執行も近いとは思われていたが、こうしてまた一度に執行されたという報道を聞くと、やはり衝撃を感じる。

死刑執行は、法的には「判決確定の日から6ヶ月以内にしなければならない」とあるが(刑事訴訟法475条第1項)、実際には再審の請求の問題などもあり、何年何十年と執行されないこともある。

これだけの大事件であり、刑が執行されなければ、社会正義が保たれないという意見もあるだろう。だが、「やさしい日本人」が、死刑に関してはなぜ世界標準から外れるのだろうか。「やさしい」からこそ、被害者感情に寄り添って死刑を求めるのかもしれない。

また、13人が続々と死刑執行されたことが、現在のオウム真理教の後継団体にどのような影響を与えるかはわからない。

■私たちの中にあるオウム

オウム真理教事件に関しては、法的には事件の解明がなされ、死刑判決の確定と執行が行われた。だが、心理学的、社会的には、未解明な部分も多いだろう。私たちは、第二のオウム真理教事件を防止する知恵と力をどれほど得ただろうか。

さらに、無差別テロ事件とまではいかなくても、オウム的な問題はむしろ広がっているようにさえ思える。

オウム真理教は、自分たちこそが正義であり、目的のために市民をポア(殺害)することは、善であると考えた。

今、目的のためには手段を選ばないとする発想が広がってはいないか。今日7月26日は、相模原殺傷事件から2年に当たる日である。この事件の被告は、コミュニケーションが取れない重度障害者を殺害することは善だと考えていた。

命を大切にしたり、真実や客観的な事実を大切にしたり、平等や愛や誠実さを重んじる心は、今堂々と破られようとさえしているようにも思える。

自国ファーストの考えは、世界に広がろうとしている。立派なはずの国家公務員や大企業による不正事件報道も続いている。

ネットや、街の中で、差別的言動がなされている。フェイクニュースを流してでも、敵を倒そうとする人もいる。殺人は犯さないが相模原事件の被告の意見に賛成だと語る人は、少なからずいる。

オウム真理教内部では、国政選挙に敗北した後、得票数が操作されたとの陰謀論が広がっていった。また、サリン生成など科学の悪用を行ったが、同時に麻原彰晃の遺伝子は特別だなどニセ科学も使われている。今、私たちの社会に、様々な陰謀論やニセ科学が広がっている(「フリーメーソン陰謀論の心理:テンプル騎士団、薔薇十字団、イルミナティ、都市伝説を信じる理由と危険性」)。

「江戸しぐさ」は、歴史的な客観的事実とは異なるのだが、良い話なのだから良いではないかと考える人もいる(「江戸しぐさ」はやめましょう。:何が問題か。なぜ広がったか」)。

カルト宗教問題は、大きな報道があるときもない時も、相変わらず続いている(日本脱カルト協会)。カルトは、もっとも良い若者を狙う。カルトは家族を奪い、財産を奪い、人生を奪う(「カルトの人々の現実:マインドコントロールの被害者と面談してY!ニュース有料」

またカルトでも異端でもないはずの宗教者が、国宝の社寺に油をまいたとされる事件も発生した(「神社油まき清め男の正体:カルト宗教でもなく異常者でもないからこその社会的問題」2015)。この事件で逮捕状が出ている男性が、社会的には立派な人だからこそ、この問題には大きな問題が存在している)。

霊媒者、心霊者などとされる個人によって財産や命が奪われる「個人カルト」「少数カルト」の問題も、起き続けている(「個人カルトの恐怖」)。

相模原障害者殺傷事件も、オウム真理教による事件も、許されるものではない。しかし、相模原事件の被告のような男は、事件前から一生病院へ入れておけば良かったなどと語る人の心に、オウム的な心はないだろうか。

今回の死刑執行も社会正義の実現かもしれない。だが、死刑執行に喝采をあげ、死刑執行を批判する人々に対して「お前もテロリストだ!」「死ねばいいのに」などとネット上で公言する人の心には、オウム的な心は潜んでいないだろうか。

いや、彼らだけの問題ではない。私たち一人ひとりの心に、オウム的な心は潜んでいる。

オウム真理教の死刑囚13人に死刑は執行された。だが、この社会と時代から生まれたオウム真理教の問題は、教祖と幹部が死刑になっても、まだ依然として続いているのだ。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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