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『ハコヅメ~たたかう!交番女子~』の「再開」を心待ちにする理由

碓井広義メディア文化評論家
『ハコヅメ』原作漫画(筆者撮影)

東京オリンピックが閉幕しました。

このオリンピックをめぐって起きた、たくさんの出来事。さまざまな意見や言説。

「戦いすんで日が暮れて」というより、作家の佐藤愛子さんの新著タイトルじゃありませんが、「戦いやまず日は暮れず」といった感がありますね。

もちろん、選手の皆さんには、「おつかれさまでした!」と言いたいです。

「たたかうペア」に拍手!

オリンピック開催中、バドミントンや卓球などのダブルスで、何組もの「たたかうペア」を見ました。

それぞれが、自分の強みを発揮するだけでなく、お互いの弱点をカバーし合いながらの勝負。

そこには、シングルの試合とはまた違う高揚感がありました。

ドラマ『ハコヅメ~たたかう!交番女子~』(日本テレビ系)も、まさに「たたかうペア」の物語です。

思えば、ドラマや映画で主人公となるのは刑事ばかりで、ハコヅメ(交番勤務)の女性警察官の「バディーもの」という点が新鮮です。

ヒロインの一人は、「もう辞めよう」と思っていた新人、川合麻依(永野芽郁)。

そして川合が組んだ相手は、訳あって交番に飛ばされてきた刑事課の元エース、藤聖子(戸田恵梨香)です。

たとえば、藤は路上に倒れていた不審な男(モロ師岡)の靴底を一瞥(いちべつ)して、空き巣犯だと見破る。

また自殺予告を繰り返す若者にも本気で対応し、結果的に彼の命を救います。

さらに、女子中高生をターゲットにした連続傷害事件。川合は自分が行った事情聴取で、少女に無神経な聞き方をしていたことを深く反省していました。

このあたりは、泰三子(やす みこ)さんの原作漫画『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』に細かなエピソードを加えることで、被害者の微妙な心理と川合の葛藤を描き、見事でした。

「ダブルヒロインドラマ」の醍醐味

このドラマを見ていると、川合にとっての藤は、上司というより指導者や助言者、いわゆる「メンター」と呼ばれる存在に近い。

仕事だけでなく、「女子会」と称して一緒に飲むことも、しっかりメンタル面のサポートになっています。

藤と川合、2人の「キャラクター」と「組み合わせの妙」がこのドラマの魅力の源泉でしょう。

さらに、ドラマ全体が肩の力の抜けたユーモアに包まれていることが大きい。

川合のことを指す「ナチュラルボーン・ヘタレ」、「無名のゆるキャラ感」といった、笑えるセリフ。

警察署内に漂う「おっさん臭」に困った2人が、息を止めて「アヒル声」で話す抱腹絶倒のシーンなどは、脚本の根本ノンジさんのお手柄です。

永作博美さんと芳根京子さんによる、NHKドラマ10『半径5メートル』もそうでしたが、職場の先輩・後輩という女性ペアが活躍する秀作ドラマが目につきます。

しかも、この先輩・後輩の関係が、役柄を超えて女優としての2人と重なって見えてくるところが秀逸です。

硬軟自在の演技を見せる戸田さん。その胸を借りて、のびのびと跳ね回る永野さん。

徐々に成長していく後輩を通じて、先輩の生き方や魅力も見る側に伝わってくる。「ダブルヒロインドラマ」の醍醐味です。

今週はまだ「特別編」ですが、永野さんの体調もよくなってきたらしいので、第5話からの再スタートを楽しみに待ちたいと思います。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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