ギャラクシー賞「大賞」、そして「優秀賞」を受賞した番組とは?
5月31日、都内のホテルで、放送批評懇談会が主催する第61回「ギャラクシー賞」の贈賞式が行われました。
事前に公表されていた「テレビ部門」の入賞作は、ドラマとドキュメンタリーを合わせた14本です。
当日、その中から「大賞」1本と「優秀賞」3本が発表されました。大賞に選ばれたのが、連続ドラマW『フェンス』(WOWOW)です。
緊張感に満ちたクライムサスペンス『フェンス』
物語の舞台は、2022年に本土復帰50年を迎えた沖縄。
雑誌ライターの小松綺絵(松岡茉優)は、米兵による性的暴行事件の被害を訴えるブラックミックスの女性、大嶺桜(宮本エリアナ)を取材するためにやって来ました。
桜の経営するカフェバーを訪ね、彼女の父親が米軍人であることや、祖母・大嶺ヨシ(吉田妙子)が沖縄戦体験者で平和運動に参加していることを聞き出します。
また、綺絵は都内のキャバクラで働いていた頃の客だった、沖縄県警の伊佐兼史(青木崇高)に会い、米軍犯罪捜査の厳しい現実を知ります。
浮かび上がってくる事件の深層。
ジェンダー、人種、世代間の相違、沖縄と本土、日本とアメリカといった、さまざまな「フェンス」を乗り越えようとする人間たちの姿が描かれていきます。
脚本は、『アンナチュラル』(TBS系)などの野木亜紀子さん。
県警と米軍の力関係や軍用地売買など、現在の沖縄が抱える多様な問題も取り込んだ、緊張感に満ちたクライムサスペンスでした。
ちなみに野木さんは、この作品で第74回「芸術選奨」放送部門の文部科学大臣賞も受賞しています。
出色の調査報道『“冤罪”の深層~警視庁公安部で何が~』
また、3本の優秀賞作品の中で注目したいのが、NHKスペシャル『“冤罪”の深層~警視庁公安部で何が~』です。
4年前、横浜市にある中小企業の社長ら3人が逮捕されました。容疑は、軍事転用が可能な精密機械の中国への不正輸出でした。
身に覚えのない経営者たちは無実を主張しますが、警察側は無視します。長期勾留の中で、1人は病気で命を落としました。
ところが突然、「起訴取り消し」という異例の事態が発生します。「冤罪(えんざい)」だったのです。
会社側は国と東京都に賠償を求めて裁判を起こします。証人となった現役捜査員は、法廷で「まあ、捏造ですね」と告白しました。
制作陣は、関係者への徹底取材で「捏造」の構造を探り、「冤罪」の背景に光を当てていきます。
中には、勇気を奮って内部告発を行い、組織の暴走と腐敗を止めようとした捜査員もいました。
しかし、捏造の当事者やその上司には反省も罪の意識もありません。彼らにとっては捏造も「正当な業務」だったのです。
この番組を見ていて戦慄するのは、この事件が他人事ではないからです。公安部が狙いを定めたら、証拠も含めて「何とでもなる」という実例と言っていいでしょう。
現在のこの国が抱える、リアルな「闇」に迫る出色の調査報道でした。
『フェンス』も、『“冤罪”の深層~警視庁公安部で何が~』も、ぜひ受賞記念の再放送を行って欲しいと思います。