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『虎に翼』が、物語の中で丁寧に描いていく「多様性」

碓井広義メディア文化評論家
『虎に翼』佐田寅子を演じる伊藤沙莉さん(番組サイトより)

今週(第11週)の朝ドラ『虎に翼』。10日(月)に放送された、ある場面が話題になりました。

判事として、食糧管理法や物価統制令に関する案件を担当していた花岡(岩田剛典)が、闇米を食べることを良しとせず、餓死してしまいました。

ショックを受けた轟(戸塚純貴)は路上で泥酔。そんな彼を、よね(土居志央梨)が、カフェ「燈台」に連れてきます。

「仕方あるまい、それがあいつの選んだ道ならば」と、無理に自分を納得させるかのような轟。

すると、よねが、

「ホレてたんだろ? 花岡に。花岡と最後に会った時、そう思った」

轟は「なにをバカなこと言ってんだ」と言い返します。

「バカなことじゃないだろ。ホレたハレたは、カフェで死ぬほど見てきたからな」と、よね。

そして、

「別に白黒つけさせたいわけでも、白状させたいわけでもない。腹が立ったなら謝る。ただ、私の前では強がる意味がない。そう言いたかっただけだ」

轟はふと真顔になり、

「俺にもよくわからない。でも、あいつがいなかったら、俺は弁護士を目指していなかった。花岡が帝大をあきらめて明律で共に学べると知った時は嬉しかった」

続けて、

「戦争のさなか、あいつが判事になって、兵隊に取られずに済むと思うとうれしかった。あいつのいる日本へ生きて帰りたいと思えた」

そう本心を語ったのです。確かに、見ていて一瞬驚きました。

しかし同時に、第4週で以下のようなシーンがあったことを思い出しました。

寅子(伊藤沙莉)たちが学生だった頃です。

ハイキングの最中に寅子と花岡が口論となり、寅子に突き飛ばされた花岡が崖下に転落。大けがをしました。

花岡は、男女が一緒に学ぶことには無理があると言い出し、寅子を訴えて「痛い目に遭わせる」などと暴言を吐きます。

聞いていた轟は花岡を諭すように、

「花岡……俺はな、自分でも信じられないが、あの人たちが好きになってしまった……あの人たちは漢(おとこ)だ。俺が、漢の美徳と思っていた強さ優しさをあの人たちは持っている」

さらに、

「上京してからのお前、日に日に男っぷりが下がっていくばかりだ。俺は非常に悲しい!」

今思えば、轟の中で、花岡はずっと特別な存在だったのです。

人が誰を好きであろうと、他者が否定してはならない。当然のことです。

しかし、当時はまだ、それを表明することが困難な時代でした。

そして、これも当たり前のことですが、そんな時代にも、さまざまな性的指向を持つ人たちがいたのです。

ドラマの中の登場人物である轟もまた、自然な存在と言えるでしょう。

10日に2人が話をしていた「燈台」の店内の壁には、よねが筆で書いた「憲法14条」がありました。

「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」

ここには「性別」とありますが、それは単に男女を指すだけではないことを伝えていました。このドラマは、物語の中で「多様性」を丁寧に描いています。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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