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【政策会議日記5】予算の無駄削減はできたか(行政改革推進会議)

土居丈朗慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)

1月20日昼に開催された、安倍晋三首相が議長の行政改革推進会議第9回会合において、私も議員として出席し、昨年行った外部有識者による無駄削減の点検作業(行政事業レビュー)の結果が、2014年度予算案にどう反映されたか報告されました。第2次安倍内閣での行政改革推進会議の位置づけについては、拙稿「【政策会議日記1】独法改革が目指すもの(行政改革推進会議)」をご覧下さい。

行政事業レビュー

行政改革推進会議第1回会合(2013年2月27日)にて、予算における「無駄の撲滅」を図るべく、行政事業レビューを実施する方向性を打ち出しました(末尾注参照)。行政事業レビューは、各府省自らが、外部性・公開性を確保しながら、予算の執行状況を点検し、その結果を事業見直しに反映させる取組であり、予算のPDCAサイクルの具体化を図るものです。行政事業レビューは、実は、民主党政権期の行政刷新会議の下でその統一的なルールを策定して、各府省で行われたのが最初でした。行政刷新会議(当時)が行っていた事業仕分けの内生化、定常化を図るために、予算要求をする前に各府省で行うこととしました。

第2次安倍内閣では、民主党政権期の事業仕分けはやめることにしましたが、各府省が行う行政事業レビューは実施することとし、行政改革推進会議がその実施状況を監視するという形で引き継ぎました。また、事業仕分けを行った時期に国の全事業についてレビューシートが公表されており、この蓄積を活用することにしました。行政改革推進会議では、行政事業レビューを毎年実施することにより、事業のより効果的かつ効率的な実施、国民への説明責任の確保、透明性の確保を図り、もって国民に信頼される質の高い行政の実現を図るべきである、と打ち出しました。

行政事業レビューの段取りは、今回の第9回会合での資料3-2 : 平成25年における行政事業レビューの取組と今後の課題について(案)(PDF)の1ページに記されています。その過程で、重要になってくるのが、6月頃に行われる「公開プロセス」と、11月頃に行われる「秋のレビュー」です。

各府省では、来年度予算での予算要求をする際、大臣官房(その責任者である官房長等)がその要求を取りまとめるので、府省ごとに官房長等を中心に行政事業レビュー推進チームを組織して、事務事業の予算規模や実施内容を精査します。各府省の事務事業の中から、外部有識者を交えたさらなる精査が必要なものを選び出し、国民にリアルタイムで公開する場で議論するのが、各府省で行われる「公開プロセス」です。公開プロセスおよび後述する秋のレビューに参加する外部有識者で組織されるのが、行政改革推進会議の下に設けられる歳出改革ワーキンググループで、私はその座長を仰せつかっています。

公開プロセスは、各府省がまだ予算要求を出す前という段階で行うという点に意義があります。来年度予算の概算要求を出してしまうと、各府省はその予算要求について引くに引けない状態になります。要求通りに認められないと面子に関わる局面もあります。そうした段階で、その予算要求に無駄があると指摘されても、容易にその指摘を聞き入れてもらえない恐れがあります。しかし、予算要求を出す前の段階なら、外部有識者の指摘を受けて修正しても、各府省の面子がつぶされるということにはならず、各府省内部で再検討できる余地があるのです。

公開プロセスの結果は、各府省が財務省に提出する来年度予算の概算要求に反映することとされています。ただ、どの程度反映するかは各府省の判断に委ねられています。その反映状況は、行政改革推進会議有識者議員懇談会第2回会合(2013年10月15日)で報告されました。ただ、公開プロセスの結果を十分に踏まえた予算要求になっていない事業もいくつかあったため、行政改革推進会議が引き取り、再度外部有識者を交えたさらなる精査を行うことにしました。それが、「秋のレビュー」です。

秋のレビューでは、来年度予算編成が大詰めを迎える直前の11月下旬に、行政改革推進会議の事務局(内閣官房行政改革推進本部事務局)の下、予算要求部局と予算査定部局が外部有識者を交えて、国民にリアルタイムで公開する場で議論します。

そして、今回の第9回会合で、秋のレビューでの指摘が2014年度予算にどのように反映されたかが報告されました。秋のレビューで内容を精査した10府省の55事業で、予算要求から合計で4789億円を削減することができたということです。

秋のレビューは、単に予算を削減させるだけがすべてではありません。予算計上は認められたものの事業の実施方法に改善を要するものもあります。そうした観点で、今後鍵となるのが、今回の第9回会合資料2「秋のレビュー」等の指摘事項に対する各府省の対応状況(PDF)といえます。

各府省側からすると、行政改革推進会議から言われて行政事業レビューをやらされている、ということにならないよう、せっかく実施したからには、その成果が予算編成や事業実施によりよく反映できるようにする必要があります。そこで、各府省にも秋のレビューなどで指摘された事項についてどう対応してゆくかを検討してもらい、その対応状況の報告を求めました。それを取りまとめたのが、この資料2「秋のレビュー」等の指摘事項に対する各府省の対応状況(PDF)です。この資料は、各府省が今後の改善にいわばコミットしたものともいえるものです。行政事業レビューを実施したけれども各府省は何もしない、ということにならないよう、各府省の対応策をこの資料で国民に公表して後戻りできないようにし、もし今後対応に不備があれば行政改革推進会議から改善を促進することもあり得る、という位置づけといえます。

これまでも行われてきた行政事業レビューですが、ここまでコミットした形で各府省に指摘事項に対する対応を明示したのは、初めてといえるでしょう。ここに、1つの進歩が見出せると思います。ただ、まだまだ改善の余地がありますから、行政改革をさらに進めてゆく必要があります。

* * * *

行政改革にまつわる言葉遣いは、政党ごとにこだわりがあってか、政権交代に伴い前政権での言葉遣いを忌避する傾向があるようです。例えば、「無駄の撲滅」は自民党が福田康夫内閣の頃から使っており、民主党政権では用いられませんでしたが、野党時代の自民党は使い続け、第2次安倍内閣になって政権内でも復活しました。「行政刷新」は民主党で使われ、民主党政権となって行政刷新会議が設らけ、事業仕分けを行いました。事業仕分けでは、自民党政権時代に実施していた事業を廃止したり縮減したりしたこともあってか、自民党内の一部に忌避感が強いようで、第2次安倍内閣になって行政刷新会議と事業仕分けは廃止されました。

そんな中、行政事業レビューは、民主党政権で始まりましたが、第2次安倍内閣でも継続することになり、言葉遣いをめぐる好き嫌いを1つ乗り越えられたかもしれません。行政改革に関わる学識者としては、政権交代に伴う言葉狩り的な様相には巻き込まれたくありませんが、どの政権であれ、行政が効率的に運営されるように願うばかりです。

慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)

1970年生。大阪大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。慶應義塾大学准教授等を経て2009年4月から現職。主著に『地方債改革の経済学』日本経済新聞出版社(日経・経済図書文化賞とサントリー学芸賞受賞)、『平成の経済政策はどう決められたか』中央公論新社、『入門財政学(第2版)』日本評論社、『入門公共経済学(第2版)』日本評論社。行政改革推進会議議員、全世代型社会保障構築会議構成員、政府税制調査会委員、国税審議会委員(会長代理)、財政制度等審議会委員(部会長代理)、産業構造審議会臨時委員、経済財政諮問会議経済・財政一体改革推進会議WG委員なども兼務。

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