「露朝蜜月」は米国の責任 重くのしかかる米朝首脳会談決裂のツケ!
ロシアのプーチン大統領が今日(18日)、北朝鮮を国賓訪問し、金正恩(キム・ジョンウン)総書記との会談に臨む。
プーチン大統領にとっては旧ソ連時代も含めてロシアの最高指導者として初の訪朝となった2000年7月以来、実に24年ぶりの訪朝となる。また、金総書記との会談は昨年9月のウラジオストクでの会談以来、9か月ぶりである。
今回の露朝首脳会談で国際社会が注目しているのは軍事分野での協力である。
具体的には北朝鮮の対露武器供与の規模とロシアのミサイル開発や衛星分野への技術支援の他に露朝2国間及びや中国を含めた3カ国の軍事演習の有無と「一方が戦争状態に入った場合、直ちにあらゆる手段で軍事的支援を提供する」ことを謳った63年前の「友好相互援助条約」が復活するかに関心が集まっている。
合同軍事演習についてはゲラシモフ総参謀長が2015年1月30日に北朝鮮、ベトナム、キューバなどと陸海空軍が参加する合同軍事訓練計画を一方的に発表していた経緯があるだけに気にならざるを得ない。
北朝鮮とロシア間には相互防衛義務はない。ちなみに1961年7月に交わされた「友好相互援助条約」はロシアが1989年に韓国と国交を樹立したこともあって1996年には失効している。4年後のプーチン訪朝時の「平壌宣言」では「軍事的支援を提供する」の条項が「速やかに接触する」に取って代わり、それも2001年の金正日(キム・ジョンイル)前総書記の訪露時の「モスクワ宣言」では削除されていた。
今でこそ、両国は首脳同士の相互訪問により蜜月関係にあるが、2018年までは冷えた関係にあった。
ロシアが人工衛星と称した度重なる長距離弾道ミサイルの発射や核実験に反対し、国連安保理で米国主導の北朝鮮非難決議や制裁決議に賛同したことに北朝鮮が猛反発し、ロシアとの関係に距離を置き始めたからである。
ロシアは2006年から2017年まで国連安保理で採決された10回にわたる北朝鮮制裁決議全てに賛成してきた。それもこれも、プーチン大統領自身が北朝鮮の軍事路線を容認しなかったからだ。
例えば、プーチン大統領は2013年に訪露した安倍晋三総理(当時)との首脳会談で「国際社会の呼びかけにもかかわらず,核兵器・弾道ミサイルの製造を執拗に放棄しようとしない北朝鮮の行為を非難する」との共同声明を発表していた。
また、2016年にもウラジオストクでの東方経済フォーラムでの演説で「北朝鮮は国際社会が採択した決議に従うべきだ。国連安保理の決議を尊重、履行し、挑発的な行動を中断すべきだ。ロシアは核兵器拡散に断固反対する」と発言し、翌2017年にも北京で開催された一帯一路首脳会議に出席した際に「北朝鮮の弾道ミサイル発射は非生産的な危険な行動である。我々は核保有国クラブの拡大に無条件反対する」と発言していた。
北朝鮮が2016年9月に5度目の核実験を強行した時は制裁決議を履行するため医療分野を除いた北朝鮮との科学技術協力の暫定的中断や北朝鮮に対する一連の商品、原資材、装備の中断などが含む大統領令に署名していた。
ラブロフ外相に至っては2017年の国連演説で「我々は北朝鮮の核とミサイル冒険を断固糾弾する」と述べ、同じ年の10月にソチで開かれた国際青年祝典でのセミナーでは「ロシアは北朝鮮の肩を持つようなことはしない。北朝鮮は国連安保理の決議を深刻に違反しているばかりか、挑戦的な行動をしている」と北朝鮮に事実上、三下り半を突きつけていた。。
これに対して北朝鮮もまた「我々の前では衛星発射は主権国家の自主的な権利であると言いながら、いざ衛星が発射されるや国連で糾弾する策動を行った」とか、 「米国の策動に追随し、主権国家の自主権を乱暴に侵害した」とか、「世界の公正な秩序を打ち立てることに先頭に立たなければならない大国までもがおかしくなり、米国の横柄と強権に押され、守るべき初歩的な原則もためらわずに投げ出してしまっている」と、ロシアを指して「米国にへつらう、追随勢力」と批判し、ロシアへの不快感の露わにしていた。
こうした冷めた露朝関係が急転したのは2019年4月、即ちハノイでの米朝首脳会談決裂2か月後の金総書記の訪露からである。
金総書記とウラジオストクで会談したプーチン大統領は記者会見で「北朝鮮の安保と主権を保障することが必要だ。彼らにとっては必要なのは体制安全保障だ。我々みな、これについて考えてみる必要がある」と発言し、北朝鮮の立場を擁護する側に回った。
金総書記もこれに応える形でプーチン大統領の歓迎宴で「戦略的で伝統的な両国の親善関係を新世紀の要求に沿って強化、発展させることが我が政府の確固不動な立場であり、戦略的方針である」と「ロシア重視」を表明し、これが今日のロシアのウクライナ侵攻支援、対露武器供与に繋がっている。北朝鮮はロシアとは反米共同戦線に立っていることからこの時からプーチン大統領を「同志」と呼んでいる。
米国の核開発の中核を担うロスアラモス国立研究所の所長を務めたこともある米スタンフォード大のヘッカー名誉教授は昨年11月にソウルで行った講演で「5年前(2018年)まではこうした事態を憂慮することはなかった」と、吐露していた。
米朝の歴史的和解の夢を描き、2018年6月にシンガポールでの初の米朝首脳会談に臨んだ金総書記はハノイでの2度目の会談が決裂するや、米国との対話の扉を完全に閉ざしてしまった。
決裂の原因は「ビッグディール」(一括方式による完全なる非核化)を要求した米国と「スモールディール」(段階的、ギブアンドテーク方式)を求めた北朝鮮との溝が埋まらなかったことによる。トランプ大統領は会談後、「北朝鮮は経済制裁の全面解除を望んでいたが、我々が望むのをくれなかった」と決裂の理由を説明していた。
一方、北朝鮮の崔善姫(チェ・ソンヒ)現外相は「我々は(見返りとして)寧辺核団地全体、その中にある全てのプルトニウム施設、全てのウラニウム施設を米国の専門家の立会いの下で永久的に廃棄することを提案した。歴史的に提案したことのない提案を今回、行ったが、米国は受け入れなかった。米国は千載一遇のチャンスを逃した。今後、こうした機会が再び米国に与えられるかはわからない」と発言し、金正恩総書記は帰国する途中「一体何のためにこんな汽車旅行をしなければならなかったのか」と悔しがり、帰国から約2か月後に開かれた最高人民会議(国会)での演説でハノイ会談について「我々が戦略的決断と英断を下したのが正しかったのかとの強い疑問が湧いた」と自問自答し、「今この場で考えてみると、制裁解除問題に喉が渇き、米国との首脳会談に執着する必要はないと考えている」と、その後、ミサイルと核開発に回帰してしまった。
このことについてヘッカー氏は著書の中でハノイ会談までのトランプ大統領と金総書記間の書簡の往来を取り上げ「類例のない意思疎通で北朝鮮の変化をもたらすかのように見えたが、トランプは北朝鮮を最大限に圧迫する作戦を放棄しなかった」として決裂の責任の一端が米国にあると論じていた。
米国はバイデン政権になって非核化するならば北朝鮮が求めている段階的、同時行動の措置に応じる用意があると再三呼び掛けているが、時すでに遅しで、金政権はハノイ会談の屈辱による対米不信から一切無視し続けている。
仮に米朝会談が決裂せず、1回目のシンガポールでの首脳会談で発表された共同声明のとおりに米朝が敵対関係を清算し、新たな関係(国交正常化)を築き、北朝鮮を抱き込んでおけば、「火星17」や「火星18」と称するICBMの発射も今日の北朝鮮によるロシアのウクライナ侵攻支持も武器供与も防げていたはずだ。