間近に迫った「プーチン訪朝」 国際的に全く注目されなかった「24年前の訪朝」
ロシア紙「ベドモスチ」(10日付)が報じたところによると、プーチン大統領は数週間以内に北朝鮮を訪問する予定のようだ。正確な日はまだ確定されてないとのことだが、両国の間ではすでに訪問日程は決まっているものと推測される。
両国にとっての節目の日をみると、今月25日はロシアの前身、ソ連が全面的に支援した朝鮮戦争勃発の日である。来月は8日に旧ソ連が朝鮮半島解放後に指導者として推挙した金日成(キム・イルソン)主席死去30周忌が、19日にプーチン大統領初訪朝24周年が控えている。訪朝のタイミングとしては悪くはない。
今回はロシアがウクライナに侵攻し、北朝鮮がロシアに武器を供与していることもあってプーチン大統領の訪朝は何かと注目されているが、2000年の初訪朝は大統領に就任(5月7日)して間もない、ロシアの最高指導者としては旧ソ連時代も含めて初めてであったにもかかわらず当時、あまり注目されなかった。
というのも、当時は沖縄で開かれたG8サミット(7月21~23日)に参加する途中に平壌に立ち寄ったに過ぎなかったからだ。それと、訪朝直前に北朝鮮を巡って慌ただしい動きが、それも国際的に脚光を浴びる出来事が相次いで起きたことにも起因している。
一つは、5月29日から31日にかけての金正日(キム・ジョンイル)総書記(当時)の初訪中である。
金正日氏は父親の金日成主席が1994年に死去したのに伴い政権を引き継いだもののどういう訳か最友好国であるはずの中国に挨拶に訪れることはなかった。それが、後継者となって6年目にして、正式に総書記のポストに就任してから3年目にしての、金正日氏自身にとっては1983年以来17年ぶりに電撃訪中したことで国際社会から注目を集めた。
もう一つは、前月に史上初の南北首脳会談が行われたことである。
韓国の金大中(キム・デジュン)大統領が6月13日から15日まで韓国の歴代大統領としては初めて北朝鮮を訪問し、金正日総書記と会談した。南北分断から55年目にして実現した南北首脳会談のニュースは世界中を駆け巡った。
当時のプーチン訪朝はこれらビッグニュースの陰に隠れた感じとなった。また、この年は15年ぶりの南北離散家族の再開(6月27~30日)、シドニー五輪での初の南北共同入場行進(9月)、オルブライト米国務長官の訪朝(10月23~24日)、金大中大統領の韓国初のノーベル賞(平和賞)受賞、さらには北朝鮮と英国、イタリア、スペインなどEU諸国との相次ぐ国交樹立などが重なってプーチン訪朝はこの年の世界10大ニュースとはならなかった。
プーチン訪朝前の露朝外相会談で「ロ朝友好条約」がすでに締結されていた。
友好条約には「締約一方は締約相手方の主権、独立及び領土保全に反するいかなる行動、措置も取らない」との一筆が盛り込まれていたが、軍事同盟条項や経済協力条項は削除されていた。
ちなみに金日成時代の1961年7月に締結された「友好協力相互援助条約」には「一方が外部から武力侵攻を受けて戦争状態に入った場合、他方は直ちにあらゆる手段で軍事的支援を提供する」ことが書き込まれていたが、ソ連が崩壊し、ロシアとなってからは廃棄され、1996年9月に失効していた。
平壌に到着した日(7月19日)に行われた露朝首脳会談では両国間の親善及び協調関係の確認、米国のNMD(迎撃ミサイルシステム)体系への反対など11項目に及ぶ共同宣言(「平壌宣言」)が出された。
宣言の第2項は「両国は北朝鮮、ロシアに対する侵略脅威が造成された場合、平和や安全に脅威を与える状況が造成された場合、協議と相互協力をする必要がある場合は速やかに接触する」となっていたが、翌2001年7月に金正日氏がロシアを非公式訪問した際に発表された共同宣言(モスクワ宣言)ではこの第2項は削除されていた。その代り、「北朝鮮のミサイル計画は平和的計画を帯びており、北朝鮮の主権を尊重する国には脅威とならない」の項目が新たに挿入されていた。
エリツィン前政権(1991-1999年)が国交を結んだ韓国への配慮からロシア人ミサイル設計技術者や科学者らの北朝鮮入りを阻止していたこともあって、プーチン大統領は首脳会談の場でソ連解体後に北朝鮮に亡命したロシア人技術者らを帰国させるよう求めたが、ロシア人亡命者らは北朝鮮から給料として月8千ドルを保証されるなど好待遇を受けていたこともあってそのまま北朝鮮に留まったと言われている。
また、北朝鮮が1998年8月に咸鏡北道花台郡の舞水端基地から太平洋に向け「人工衛星」と称して長距離弾道ミサイル「テポドン」を発射したことが国連安保理で取り上げられ、「遺憾の意を示す」報道発表(プレス声明)があったこともあってプーチン大統領は首脳会談で「ロシアが北朝鮮に替わり、衛星を発射してあげても良い」と、提案したが、北朝鮮はこれには応じなかった。
今回の訪朝は昨年9月の金正恩(キム・ジョンウン)総書記の訪露への答礼になるが、どのような手土産を持参するのか、首脳会談ではどのような内容の共同声明を発表するのか、さらには北朝鮮からどのような土産を持って帰るのか、前回とは異なり、欧米を含む国際社会から大きな注目を集めることであろう。