ノルウェー若者が「時間割に」と望む「フェミニズム自己防衛術」とは?
ノルウェーには各政党に「青年部」という部署がある。10~20代の若い世代が中心となったグループで、青年部がノルウェー社会に与える影響力は大きい。
青年部は独自の政策も作っており、提案を受けた政党(母党)や国会は「若者が必要とする政策」として実現を議論することもある。
母党を批判することも青年部の仕事であり、青年部なしでは大人が中心の母党や政治家たちは若い世代が必要とする「未来の政策」をつくれないため、青年部は国にとって重要な機関だ。
各政党の青年部は頻繁に勉強会やセミナーなどを開催している。筆者にとっても非常に勉強になる場で、議論の仕方、「年配の大人に圧力をかけられたらどうしたらいいか」など、さまざまなことを学ぶ場だ。
今回は「左派社会党」の青年部が週末に勉強会をするというので取材をしてきた。南部の複数の青年部の部署が集まり、2泊3日で小学校を借りてオスロで開催された。
今回の勉強会では中学生~大学生の14~23歳が3県から集まり、出席者は60人で、女性の姿が多かった。
勉強会のプログラムで特に気になったのは「フェミニズム自己防衛術」の時間だった。
女性が身を守る手段として、青年部は政策として自己防衛術を学校での義務教育にすることを提案しているが、まだ母党でも政策としては実現には至っていない。
「時間割にどう取り込むか」ということで、母党では政策として党大会で採用することに、ためらいの声があるそうだ。
しかし、青年部ではすでに自己防衛術を勉強会などで党員に伝授していた。
「フェミニズム自己防衛術」は「自己防衛術」とは違うのか?
意外だったのは「フェミニズム自己防衛術」の内容だ。
「フェミニズム」と名前が付くことで、体を動かして防衛術を学ぶだけではなく、「フェミニズムやジェンダー問題を話し合う」「女性が受ける暴力について考える」意識面の教育にもフォーカスしていた。
というわけで、すぐに体を動かす時間が始まるわけではなく、まずは参加者で体育館に座り、ゆっくりと時間をかけて考えて話す時間が始まった。
フェミニズムという言葉を聞いて、何を思い浮かべる?
「フェミニズムという言葉から連想するものは?」という問いでは、自由、ジェンダーロール、納税、男性優位主義などが挙がった。
- 「登校前に化粧をする自分に疑問を感じる。誰も気にしないのではないか。男子が同じように周囲からの視線を気にしないのはなぜなのだろう。私の選択は、社会からどう影響を受けているのだろう」
- 「看護師に男性は少ない。いたとしても、男性の看護師だけで集うグループが休憩時間などにできやすいのは、なぜだろう」
- 「成績の良い女子が、電気を学ぶ科目を専攻すると、周囲が驚くのはなぜだろう」
- 「男性と言うだけでパワーを持てる社会構造にはジェンダーバランスが欠けている」
ジェンダーロールとは何か?
ジェンダーロールという言葉から思い浮かぶエピソードを参加者は話し始めた。
- 「男子が教室で騒いでいい、ケンカしてもいい。女子はおとなしく、家で料理という空気はおかしい」
- 「学校で男子が女子をナンパするのは、いじめのようだ」
- 「労働党で元副党首が女性党員にセクハラをしていた問題で、女性が告発すると社会や党内から批判をうける。まるで二重の抑圧のよう」
- 「男性のほうが周囲を気にせずに振る舞う。私は歩道を歩く時は周囲の人が歩きにくいのではと気にして歩く場所を選ぶけれど、男子は気にしないで堂々とまっすぐに道路を歩く」
身体の動きが自分の自信に影響することを知って
ボディジェスチャーを学ぶ時間では、「もうすぐプレゼンがあり、緊張している」「親友とケンカして、イライラして落ち込んでいる」「女性の日に、パレードに参加して歩く」「お気に入りのバンドのコンサートに向かう」など、異なる場面を想定して、実際にそのシーンを思い浮かべながら歩いたり、声に出したりする。
身体の動きで、目線、声のトーン、歩き方、自己肯定感が変わることに気づく時間だ。
「パンツをくれる?」と友達に言われた時に、断る練習をしたり、身体的な暴力、精神的な暴力、デジタル暴力の違いも話し合った。
高校1年生のケイティさん(16)は、自己防衛術のクラスに参加したかった理由を、「夜に通りを歩いていると不安を感じることがあり、もっと安心して外出できるように学びたいと思った」と話した。
筆者は自己防衛術のクラスと最初に聞いた時は、開始早々に身体を動かす時間が始まると思い込んでいた。「フェミニズム自己防衛術」のクラスでは、前半はたっぷりと時間をかけて「話し合って気づく」ことに重点が置かれていることは、新鮮な驚きだった。
「こういう授業があったら受けたかったな」と思うのは、筆者だけだろうか。
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