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鉄板スパゲティが進化した「新・名古屋めし」が登場。 メニューに秘められた開発者の思いとは?

大竹敏之名古屋ネタライター
名古屋の飲食店が開発した「大人の鉄板ナポリタン」。味つけの秘密とその思いとは?

定番メニューにひと工夫を加えた新・名古屋めし

名古屋のご当地グルメのひとつ、鉄板スパゲティ。これを進化させた「新・名古屋めし」が登場しました。早くも人気メニューとなっているこのメニューですが、実は開発者のある思いが秘められていました。

開発、考案したのは名古屋市西区のイタリアンバール「アランチャ」のオーナーシェフ・伊藤秀樹さん。

「うちはイタリアンがメインですが、洋食メニューやいわゆる名古屋めしも扱っていて人気が高い。そのうちのひとつ、鉄板ナポリタンにちょっと工夫を加えたら思いの外おいしかったのでメニュー化することにしたんです」と伊藤さん。

ナポリタンの味わいを変える“秘密のブラックソース”の正体は?

“秘密のブラックソース”。どの飲食店にもある材料で簡単につくることができる
“秘密のブラックソース”。どの飲食店にもある材料で簡単につくることができる

一体どんなひと工夫なのか? まずは実食させてもらうことに。鉄板スパゲティはケチャップをからめたいわゆるナポリタンスパゲティの一種ですが、熱々の鉄板皿に盛って、とき卵を流し入れるのが名古屋流。さらに仕上げに“秘密のブラックソース”をかけるのが、この新メニューの特徴です。

真っ黒な液体はウスターソースのよう。しかし、これをからめたスパゲティを口に運ぶと、普通のソースとは明らかに異なるコクのある苦味が…。これは一体?

「正体はコーヒーなんです」と伊藤さんが種明かし。何と秘密のブラックソースとはコーヒーなのでした。「年配のお客さんは洋食にソースをかけるのが当たり前。でもただウスターソースをかけるだけでは面白くないので、試しにコーヒーをたらしてみたら、食べ終わってからもコーヒーの香りが残って、これはイケると思ったんです」(伊藤さん)

「大人の鉄板ナポリタン」のネーミングの通り、コーヒーの苦味によって、味わいにグッと深みが出て後味が引き締まります。ナポリタンはケチャップ味で子どもでも食べやすい料理ですが、これなら大人の味覚にもよりマッチしそうです。

レシピを公開するシェフの思いとは?

3月初旬に新メニューとして売り出すと評判は上々。ランチだけで週に100食が出るほどのヒット商品となっています

「いろんなお店に真似してもらいたいんです」というアランチャのオーナーシェフ、伊藤秀樹さん
「いろんなお店に真似してもらいたいんです」というアランチャのオーナーシェフ、伊藤秀樹さん

「大人の鉄板ナポリタンを“新・名古屋めし”として売り出したい!」という伊藤さんですが、思いはそれだけにとどまりません。「レシピを公開して、いろんなお店に真似してもらいたいんです」。その理由は、まさしく現在吹き荒れるコロナウイルス不況。売上ダウンに苦しむ喫茶店や洋食店がスクラムを組んで、話題性あるメニューによって活気を取り戻そうという狙いがあるのです。

また、このポジティブな取り組みの背景には、伊藤さんの店がコロナウイルスショックにも負けずに売り上げをキープしているという強みがあります。2年ほど前に除菌効果の高い空気清浄機を導入したところ、店内環境の清涼さがお客の安心感につながり、店のプライオリティ(優先順位)が高まっているのだといいます。普段から衛生面への意識が高く、お客の安全にも気を配ってきた店だからこそ、この苦境下でも業界全体に目を向けた活動ができるわけです。

アランチャは、名古屋で近年最も活性化に成功した商店街といわれる円頓寺(えんどうじ)商店街の一画。エリア全体が活気づくきっかけのひとつにもなった人気店
アランチャは、名古屋で近年最も活性化に成功した商店街といわれる円頓寺(えんどうじ)商店街の一画。エリア全体が活気づくきっかけのひとつにもなった人気店

大手食品商社もネットワークを活かして普及をバックアップ

アランチャの店頭の黒板。「新名古屋めし“かも”」と記した遠慮がちなアピールがほほえましい
アランチャの店頭の黒板。「新名古屋めし“かも”」と記した遠慮がちなアピールがほほえましい

新メニューの普及推進には食品商社も協力しています。アランチャと取引している商社が、喫茶店や飲食店に様々な食品を供給するネットワークを活かして、大人の鉄板ナポリタンの商品化を他店舗に提案しているのです。

「見た目に映えるのはもちろん味もおいしく、定番メニューに選択肢を与えられる。新しい名古屋めしとして定着することを期待しています」と担当者。名古屋では鉄板スパゲティを提供している喫茶店は多く、当然コーヒーもあるので、その気になればすぐにでもメニュー化できるのがこの試みのいいところ。現時点ではまだ検討段階の店舗が多いようですが、多くの店が賛同、採用してくれるようになれば、話題性がグッと高まりそうです。

コロナウイルスショックが長引く中、新メニューで話題をつくるというのはささやかな一手かもしれません。しかし、“これから”に向けた明るい話題を発信していくことが、停滞ムードを少しでも和らげることにつながるはず。疫病が広がるのは食い止めたいですが、地域、そして業界への思いがこめられたご当地メニューは大いに広がってほしいものです。

(写真撮影/すべて筆者)

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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