英国、フィンテックの国際センター目指す(上)
英国のフィリップ・ハモンド財務相は3月下旬、ロンドンで開かれた財務省主催の第2回フィンテック国際会議で、仮想通貨のリスクとメリットを調査するため、イングランド銀行(中銀)と金融行為監督機構(FCA)を含めた省庁横断の「仮想通貨対策チーム」を発足させると発表した。この背景には英国が来年3月のEU(欧州連合)離脱後、ロンドンの金融街(シティ)の弱体化を補う意味でも、英国をシティに匹敵するフィンテック(金融とITを融合させた金融サービスで仮想通貨を支えるブロックチェーン(分散型デジタル台帳)技術も含む)の国際センターにしようという金融市場戦略がある。
米経済専門チャンネルCNBCは3月22日付電子版で、「この戦略に沿ってハモンド財務相は豪州のスコット・モリソン財務相との間で「フィンテック・ブリッジ」と呼ばれる協定を結んだ」と報じた。これは両国政府間でフィンテック関連の規制や政策で協力すると同時に、英国に拠点を置くフィンテック企業が豪州でフィンテック関連製品・サービスを販売できるようにするのが狙いだが、これも英国を世界のフィンテック企業にとって魅力的な国際センターにしたいという考えに基づく。ハモンド財務相は講演で、「英政府の戦略目標は(金融機関ごとに異なるIT規格を統一した)金融業界のIT標準を作り、フィンテック企業が銀行と簡単に提携できるようにすることだ」と述べている。
一方、英紙デイリー・テレグラフ紙も同日付で、「ハモンド財務相はフィンテック国際会議で、英国に本拠を構えるフィンテックのベンチャー企業の方がドイツやフランス、スウェーデンの企業よりも多くの資金を集められる、と主張し、英国の50億ポンド(約7500億円)といわれるフィンテック市場の将来性の高さを強調した」と伝えている。同財務相によると、英国の昨年のフィンテックへの投資額は2倍以上に急拡大しており、どのEU加盟主要国よりも多い。また、英国のフィンテック企業の資金調達額はドイツの4倍以上、フランスやアイルランド、スウェーデンの合計額よりも多いという。
フィンテックの覇権争いは中国がライバル
しかし、思惑通りに英国がフィンテックの国際センターとなるかについては疑問視する見方もある。英金融大手HSBCのマーク・タッカー会長は同日付のテレグラフ紙で、「英国がフィンテックの世界的な盟主国になるには中国との厳しい戦いが待っている。将来のデジタル経済やモバイルインターネット社会の構築では中国がリードしている」と警告する。
一方、英国の独禁当局CMA(公正取引庁)も消費者にさまざま金融サービスの選択肢を与える一方で、銀行間のサービス競争を高めることを狙った、いわゆる「オープンバンキング」構想の実現に向けて取り組みを始めた。英国の金融サービス専門サイト「フィンエクストラ」のエディター、リズ・ラムリー氏は、英オンラインニュース「ラカンター」への3月27日付寄稿文で、「EU(欧州連合)やCMAは最近、銀行に対し、データやプラットフォームをAPI(インターネットを使ってさまざまな機能を提供する一種のプラグインソフト)開発ツールとして、フィンテック企業に公開するよう通達を出しており、今後、フィンテック企業は銀行のデータやプラットフォームとウェブフック(アプリケーションの更新情報を他のアプリケーションへリアルタイム提供する仕組み)などのAPIアプリを融合させ、消費者にさまざまな金融サービスの提供が可能になる」と指摘する。(続く)