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英中銀、4年ぶりに利下げ実施も英経済の転換点とはならない可能性(下)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
イングランド銀行のアンドリュー・ベイリー総裁=英スカイニュースより

英中銀の今回の利下げは小幅で、後が続かず、年末までに追加利下げという観測は的外れに終わるとの可能性が強く、市場関係者は決して大喜びするほどでもないと冷ややかに見ている。

 英国のシンクタンク、国立経済社会研究所(NIESR)と同様、英コンサルティング会社キャピタル・エコノミクスもBOEは利下げを急がないと予想している。同社の主席エコノミストであるルース・グレゴリー氏は8月1日付の英紙ガーディアンで、「今後、イングランド銀行(英中銀、BOE)による大幅な引き下げの兆しはほとんどない。2-3年かけて段階的に金利が引き下げられる」とし、2回目の利下げは12月まではなく、2025年は0.25ポイントの小幅利下げが数回行われると予想している。

 BOEの8月会合での最初の利下げは0.25ポイントの小幅利下げで、追加利下げのペースは遅れる可能性が高いことから、ガーディアン紙は8月1日付の社説で、「利下げは企業の借り入れコストの低下や住宅ローン金利の低下につながるため、歓迎される」としたが、「(今回の小幅利下げは)多くの企業や家計にとって依然、コストが高すぎる」、また、「今後も利下げが相次いで行われるわけでもなく、従って、これが英国経済の真の転換点となるとは言えない」と指摘する。

 その上で、社説は、「利下げ後も多くの企業や家計世帯が記録的な高額な借り入れコストの支払いを余儀なくされる」、また、「実体経済の実質コストへの対処に依然として苦闘している企業や家庭にはほとんど休息を与えない」とし、決して大喜びするほどでもないと釘をさしている。

■声明文

 BOEは会合後に発表した声明文で、利下げを決めた理由について、「過去の外部ショックの影響が軽減され、インフレ持続リスクの緩和にある程度の進展が見られた。GDPは予想を上回ったものの、金融政策の制限的スタンスが引き続き実体経済活動の重しとなり、雇用市場の緩和をもたらし、インフレ圧力を抑制している」とし、インフレ圧力の緩和や、景気回復ペースが緩やかなことを指摘している。

 BOEは、インフレリスクについて、「インフレ率は5月と6月はともにMPC(金融政策委員会)の物価目標2%上昇に達した」としたが、「2024年下期にはインフレ率が約2.75%上昇に加速、国内のインフレ圧力の根強い持続性がより明確になった」とした。ただ、このインフレ加速はいわゆる、前年との比較で高目に出るベース効果による一過性と指摘している。

 また、BOEは、「GDPが潜在成長率を下回り、雇用市場が一段と緩和するにつれ、(経済の不活発による)たるみ(生産設備や労働力などの余剰)が生まれる」とした上で、「国内のインフレの持続は、金融政策の制限的なスタンスにより、今後数年間で薄れる」と予想している。

 今後、BOEは、「インフレ圧力の持続性を見るため、第2ラウンド効果を注視する」としており、これに関し、「第2ラウンド効果によるインフレ圧力が中期的にはさらに持続するリスクがある」と警戒している。具体的には、国内需要が予想以上に堅調となることや、均衡失業率(失業率と欠員率が等しくなる失業率)の上昇、さらには金融政策の制限的スタンスが思ったよりも低水準となることにより、国内の賃金や企業の価格設定に持続的な影響を及ぼすリスクを挙げている。

 他方、景気見通しのリスクについては、BOEは、「GDP伸び率は今年これまでのところかなり急速に回復しているが、基調的な勢いは弱い」とし、利下げによる景気支援の必要性を指摘している。

■制限的スタンス

 市場が注目した今後の金融政策のフォワードガイダンス(金融政策の指針)について、BOEは、前回会合時と同様、「金融政策は中期的にインフレ率を持続的に2%上昇の物価目標に戻すため、十分長い期間にわたって、制限的であり続ける必要がある」との文言を残した。ただ、前回会合時に使った「インフレ率が物価目標の2%上昇を超えて高止まりするリスクが消えるまで、金融政策を長期間引き締める必要がある」との文言を削除した。

 また、今後の追加利下げについて、BOEは前回会合時と同様、「引き続き、インフレ高止まりリスクを注意深く監視、金融政策の制限的スタンスの適切な程度を会合ごとに決定する」とし、インフレや景気のデータに基づき、予断を持たずオープンとするとしている。(了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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