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英中銀、4年ぶりに利下げ実施も英経済の転換点とはならない可能性(中)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
イングランド銀行(BOE)

英中銀の今回の利下げは小幅で、後が続かず、年末までに追加利下げという観測は的外れに終わるとの可能性が強く、市場関係者は決して大喜びするほどでもないと冷ややかに見ている。

 英紙ガーディアンのフィリップ・インマン経済部デスクは8月7日付コラムで、「最新の英国立経済社会研究所(NIESR)の分析リポートによると、今後1年間で、英国の景気回復ペースが加速する見通しのため、イングランド銀行(英中銀、BOE)は長期間、金利を今の高水準に据え置かざるを得なくなる恐れがある」と警告した。

 BOEは今回の会合(8月1日)で、最新の8月経済予測(金融安定報告書)を公表したが、それによると、景気見通しは、2024年1-3月期が前期比0.7%増と、前回予測の同0.4%増を上回り、前2四半期のマイナス成長となったリセッション(景気失速)を脱却、2024年4-6月期も同0.7%増(前回予測は0.2%増)と、強気に見ている。

 また、第3四半期(7-9月)ベースの成長率見通しは2024年が同1.5%増(前回予測は0.5%増)、2025年は同0.8%増(同0.9%増)、2026年は同1.4%増(同1.3%増)、新たに2027年を同1.7%増と予想。通年ベースでは2024年を1.25%増(同0.5%増)、2025年を1%増(同1%増)、2026年を1.25%増(同1.25%増)と、2024年の見通しを2.5倍も上方修正した。

 NIESRリポートでは景気回復の加速により、「BOEは年末までに追加利下げを決めるという市場の観測は的外れに終わる」とした上で、「緩やかな景気回復と持続的なインフレ上昇傾向への懸念により、BOEは政策金利の引き下げには慎重にならざるを得ない」とし、金利は2025年に4.6%、2026年は4.1%、2028年に3.1%に低下すると予想している。それでもコロナ禍前の2019年当時の0.75%を大幅に超えている。

 他方、BOEが公表した最新の8月経済予測では、市場金利を参考にした政策金利の見通しについて、2024年7-9月期が5.1%(前回予測は5%)、2025年7-9月期は4.2%(同4.4%)、2026年7-9月期は3.8%(同3.9%)、予測期間の終わりである2027年7-9月期までに現在の5%から3.5%に1.5ポイント低下すると予想。これは計6回の利下げ(1回が0.25ポイント利下げ換算)を意味する。前回4月予測と変わっていない。

 また、インフレ見通しは、第3四半期(7-9月)ベースで、2024年が2.3%上昇(前回予測は2.2%上昇)、2025年は2.4%上昇(同2.5%上昇)、2026年は1.7%上昇(同1.8%上昇)、2027年は1.5%上昇と、2年後に1.7%、3年後に1.5%上昇になると予想。他方、通年ベースでは2024年が2.75%上昇(同2.5%上昇)、2025年は2.25%上昇(同2.25%上昇)、2026年は1.5%上昇(同1.5%上昇)と、2024年の見通しを引き上げたが、2025年と2026年の見通しは据え置いた。

■ベイリー総裁

 BOEのアンドリュー・ベイリー総裁は会合後の会見で、今後の追加利下げの可能性について、「BOEはインフレ持続(高止まり)リスクを非常に警戒している」とし、追加利下げに慎重な姿勢を示している。また、総裁は、「金融政策決定は会合ごとに判断する」というスタンスを強調。その上で、「インフレ率が物価目標に向けて持続的に低下していること、すなわち、利下げの可能性があるとBOEは確信を深めている」と述べたが、その一方で、「インフレ率を確実に低く抑える必要があり、利下げを急ぎすぎたり、利下げしすぎたりしてはならない」と警告している。(『下』に続く)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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