都市の緑化のトレンドは、壁面にあり!
大阪駅前の大阪マルビルは、日本でも珍しい円筒形のビル(高さ124メートル)だが、この1~3階部分の壁面が6月に緑化された。主にツタ類を植えていて、年々上に伸ばしていく計画だそうだ。なんでも、建築家の安藤忠雄氏の提案だという。
ツタは1年で2~3メートルは伸びるそうだが、ビルの屋上に達するまで80年くらいかかると推定されている。それまでビルディング躯体のコンクリートの方が持つのか、と冗談のネタになっているが、もし実現したら、大都市にそそり立つ巨大な緑のツリーのようになるだろう。
これまでも都市の緑化は大きな課題だった。コンクリートジャングルと形容されることの多い都会は、緑が少ない。しかし人間は本能的に緑の自然を求めるものだ。人工物ばかりだと、落ち着かない。おそらく目に映る緑の多寡は、人々の精神にも影響があるだろう。
本来なら都市の中に大規模な公園などの緑地帯を設けるべきである。しかし、すでに町が出来上がっていると、土地の確保が難しいし莫大な予算がかかる。そこで進められてきたのが屋上緑化である。
ビルの屋上もしくは屋根に土壌を敷きつめ、植物を植えるのだ。すると、ヒートアイランド現象の対策になるだけでなく、断熱性が向上して室内の気温が保ちやすくなり節電効果もあった。そして建物の耐久性も高まると言われている。激しい温度変化が抑えられるからだろう。ほか、防音性の向上なども期待されている。一部ではお屋上に畑を設けて農作物の収穫を楽しむケースも出てきた。また公共的なビルなら、憩いの場所として人々が集う緑地にすることもできる。各地で空中庭園の名で屋上緑化が作られてきた。
しかし屋上緑化には、問題も出てきた。緑化できる屋上が限られているうえ、ビルの上ゆえに地上を歩く人々が目にすることはないのだ。わざわざ屋上に人を誘導しないと、せっかくの緑化に気づかない。その意味では、都市の景観の向上にあまり結びつかなかった。
そこで近年注目されているのが、壁面緑化だ。昨今の猛暑と節電対策を兼ねて緑のカーテンと呼ぶ蔓植物を育てることは、各地で実施されている。さらに低層階に植物を立体的に這わせることも古くから行われてきた。赤煉瓦の建物をツタの葉が覆う姿は風情がある。
しかし最近は、ビルの壁面に特殊なパネルを張り付けて、そこに土壌を詰めて植物を育てる方法も広がってきた。さまざまな工法が提案されているが、ざっと100種類以上の植物を育てることができるようになったそうだ。
もちろん、技術的には難しい面もある。壁面ゆえに管理は大変だし、植物の根はコンクリートへ容易に食い込んでゆくから、構造上の危険も生じる。育ちすぎたら剪定はどのようにすべきだろうか。しかし、新たな土地を確保しなくてもよいうえ、景観上も大きく改善する。
国土交通省の調査によると、2011年の1年間に全国で少なくとも約25.2ヘクタールの屋上が緑化され、壁面緑化も約8.9ヘクタールが行われたという。累計施工面積は、2011年までの12年間で、屋上緑化は約330ヘクタール、壁面緑化は約48ヘクタールに達するという。もちろん調査もれも相当数あると見込めるから、実際はもっと多いだろう。
一般に緑化を計る言葉として、緑被率がある。一定の地域を平面的に見た場合、樹林や草地、農地、園地などの緑で覆われる土地の面積割合を表す指標だ。夏に撮影した空中写真などを元に求められる。しかし、この方法だと壁面は写らずカウントされない。
そこで最近は緑視率という言葉も登場してきた。視界の中に占める緑の割合を表す。これは、どこに視線を向けるかによって大きく変わるから厳密な測定は困難だか、それを示すカメラも作られている。撮影すると、緑の部分の比率を計算してくれるのだ。ただし、本物の植物か、単に緑色に塗られたところなのかは区別できない。それでも、より人間の視界に入る景観を示すことにはなるだろう。
一方で、緑の植物ではなく、木質パネルでビルの壁面を覆う試みも行われている。
大阪木材会館ビルは、6階建てのタイル張り外壁だったが、2年前に木材(スギ材)で覆う実験を始めた。室内との温度差や木材の反り・割れや色などの経年変化などを確認するのである。もしよい結果が出たら、何かと難しい木造建築より安価に、メンテナンスも植物を植えるより簡単だろうから、広がるかもしれない。
壁面の緑化や木化が進めば、都市の景観もがらりと変わる。コンクリートジャングルではなく、より本物ぽい森林が都市に誕生するかもしれない。