新型コロナ 政府に求められる雇用対策は? リーマンショック時との比較を通じて
新型コロナウイルスの感染拡大が、企業の経済活動や人々の生活に大きな影響を与えている。
こうした状況を受けて、先日、子どもを持つ保護者向けの助成金の新設が発表され、子どもの世話をするために仕事を休んだ場合、賃金が全額補償される見込みだ(ただし、上限は1日当たり8330円)。
その他にも、コロナ問題を原因とする休業に対しては、国は一定の場合に助成金を特例的に企業に支給し、休業手当を補助するとしている。
だが、これらの制度は企業に雇われていないフリーランスについては完全に埒外(らちがい)だ。政府が検討している緊急対策では、直接、労働者に向けた対策は打ち出されず、もっぱら企業向けの施策しか出されないようだ。
また、フリーランスと同じように厳しい立場に置かれているのが非正規雇用だ。政府の施策では非正規雇用を差別しないとしていても、実際には企業の側はそのように扱わないし、立場の弱い労働者側から休業を申し入れることも容易ではない。国のさまざまな施策も「企業次第」になってしまっている実情があるのだ。
参考:自分の会社が「コロナ対策」をしてくれない時、どうすればいい?
私が代表を務めるNPO法人POSSEには、「休業を余儀なくされ、生活に困っている」や、「休業手当について会社から何も言われていない。このままだと家賃が払えなくなる」といった相談、そして「仕事がなく、解雇されてしまった」という相談が、連日寄せられている。こうした相談は、とりわけ非正規雇用で働く労働者から多い。
このような事態は、2008年のリーマンショックをきっかけとした、非正規労働者の大量失業を彷彿とさせる。リーマンショック後、企業が生産活動を縮小したため、多くの派遣労働者が雇い止めされ、それと同時に寮からも追い出された。
今回の「コロナショック」においても、同様の混乱が生じる可能性が高い。そのため、この記事では、リーマンショック後にとられた雇用対策をふりかえることで、今、どのような対策が求められるのか、考えていきたい。
失業を防ぐ対策
まず、今回のコロナウイルスの影響で、労働者が失業してしまわないための対策が必要になってくる。そのとき活用されるのが、この間、話題にのぼることの多い「雇用調整助成金」(以下、雇調金)である。
雇調金は、景気の変動などで企業が事業活動の縮小を余儀なくされた場合に、雇っている労働者を休業させることによって雇用を維持しようとした際の手当を、国が助成するものだ。休業のほかにも、教育訓練を受けさせたり、出向させるなど、労働者の失業を防ぐための措置をとった場合に支給される。
コロナウイルスの感染拡大を原因とした休業や解雇が問題となるいまこそ、雇調金はその役割を発揮する。実際、2008年のリーマンショック後には、雇調金の対象となり支給を受けた労働者は、前年の85倍にも膨れ上がっている(下図)。支給額も、6,536億円と大幅に増額された。
ただし、このグラフを見てわかるように、非常時には拡充されるものの、その後、制度の見直しがなされ、雇調金の予算は年々減らされている。
実は、雇調金は「生産性の低い企業を温存させる」として、長年問題視され続けてきた。解雇が必要なほど経営が行き詰まった企業で、労働者を解雇しない場合に支給される制度だったからだ。
そこで近年では、企業のなかに労働者をとどめ置くよりも、積極的に転職することを促そうと、雇調金の代わりに別の助成金(労働移動支援助成金)に力が入れられてきた(尚、このような施策は、今度は企業が労働者を無理矢理辞めされる「追い出し部屋」の費用を補助するなど、「リストラ促進政策」として批判されている)。
こうした政策の構図を大きく変化させているのが、今回のコロナ問題を初めとした「自然災害」の多発だ。昨今、台風などの自然災害によって、経済活動がダメージを受けることも多い。それは、特定産業の生産性が低いなど、経済構造の問題とは直接関係ない。
今回大きなダメージを受けたからといって、コロナ危機が去った後には、やはり同じ規模かそれ以上に観光業は成長していくだろう。しかし、今回の危機で多くの企業が倒産し、ベテランの業界労働者たちが解雇されれば、危機が去った後に業界を復興するにも大きな負担となる。
だからこそ、突発的な災害時に労働者の解雇を予防することは、労働者の生活を維持しながら産業を維持する上で、かつてないほど「合理的」な政策となる。
この雇調金の今回の拡充策としては、すでに中国人観光客向けの売上が全体の1割以上を占める企業を対象とした特例措置が出されているが、幅広い産業に広げる必要がある。現に、製造業なども含めて議論がなされている最中である。
失業してしまった場合の雇用保険の受給
次に、やむなく失業してしまった場合の保障についても、リーマンショック時と比較していこう。
真っ先に思いつくのは、雇用保険による失業手当の給付であろう。一般に、失業手当を受けるには、離職前2年間に、雇用保険に加入していた期間が12ヶ月以上である必要がある。ただし、倒産や解雇等で離職した場合には、雇用保険への加入期間が6ヶ月でもよいとされている。
だが、リーマンショック時には、会社が倒産していなくても、多くの非正規労働者が契約を打ち切られ(雇い止め)、雇用保険を利用することがほとんどできなかった。
そこで、リーマンショック後の2009年1月には、希望していたにもかかわらず、契約が更新されずに離職した非正規労働者についても、雇用保険の加入期間が6ヶ月であれば、給付を受けることができるように、条件が緩和された。これは、現在でも同様の扱いとなっている。
万一、今回のコロナウイルスの影響で解雇や雇い止めにあった場合には、まず、その解雇の正当性を疑う、つまり、「本当に必要な解雇なのか」を問う必要があるが(この点に疑問がある方は、末尾の労働組合にすぐ相談してほしい)、加入期間などを確認したのち、失業手当を受給してほしい。
ただし、この雇用保険による失業手当は、以前から指摘されているように、給付を受けることのできる日数が短いという問題がある。
雇用保険に加入している期間が1年未満の場合、90日しか受けられない。これでは、どんな仕事をするか、どんな条件の会社で働くかをじっくりと吟味する時間が確保されていない。また、90日のあいだに新たな仕事が必ず見つかるとも限らない。雇調金と同様、非常時に限らない制度の拡充が求められている。
ここでも、リーマンショック後にどのような制度の拡充がなされたのか見ておくと、45歳未満の求職者のうち、離転職をくり返している人に対して、通常の給付日数プラス60日間の延長措置が取られた(2017年に廃止)。
そのほかにも、職業訓練を受けることを条件に、月10万円の給付を受ける「第二のセーフティネット」も整備された。
これらは、不安定雇用の広がりを受けて講じられたものであるが、こうした構図はこの10年間変わっておらず、むしろますます広がっているのが現状だろう。不安定な雇用をくり返す労働者への配慮を、企業にたいする助成金だけではなく、「個人への給付」の次元で強化しなければならない。
また、今回のコロナウイルスの影響は、リーマンショック以上に長引く恐れも懸念されている。2017年4月からは、災害を理由に離職した人にたいしても、給付日数が原則60日(最大120日)延長できることとなっており、今回も「災害」として、同様の取り扱いがなされるのかが注目されるだろう。
失業時に必要となる住宅政策
最後に、住宅に関して求められる政策についても見ておこう。冒頭でも触れたように、休業や解雇によって、家賃の支払いが難しくなってしまったというケースも、すでに現れ始めている。また、会社の寮などに住んでいる場合には、雇い止めと同時にそこから退去を求められる人も出てくるだろう。こうした場合に、どのような住宅政策が必要になってくるのだろうか。
リーマンショック後の2009年10月には、「住宅手当緊急特別措置事業」といって、生活保護に準じた住宅手当の支給が、最長6ヶ月なされた。「このままでは家賃が払えなくなってしまう」という人にたいしては、こうした家賃補助制度を整備することが喫緊の課題となるはずだ。
また、リーマンショック後にはさまざまな貸し付け制度も打ち出された。例えば、「就労安定資金融資」では、事業主の都合で離職を余儀なくされ、家を失った人にたいして、敷金・礼金など、新たな住居を確保するために必要な初期費用が、上限50万円で貸し付けられた。
いまある家を失わないために、そして万一、失ったとしても路頭に迷わないために、こうした家賃補助や貸し付け制度の整備を求めていく必要があるだろう。
必要な雇用対策について議論を
ここまで、失業を防ぐための雇用調整助成金、そして、失業してしまった場合の保障(雇用保険、住宅政策)について見てきたが、その他にも必要な対策は数多くあるだろう。
例えば、失業してしまった場合に新たな仕事を手にするための教育訓練やその間の生活保障。これも、リーマンショック後に拡充された政策である。
こうした制度の拡充や新設は、具体的な要求運動によって獲得されてきた。今回のコロナウイルスの影響で倒産する企業も出始めているなか、企業にたいしてはもちろんのこと、国の一層の施策が求められる。
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