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自分の会社が「コロナ対策」をしてくれない時、どうすればいい?

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
(写真:アフロ)

 新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、労働者が業務中や通勤時に感染するリスクや感染拡大の影響による解雇・休業等への不安が高まっている。

 実際、私が代表を務めるNPO法人POSSEにも、次のような相談が多数寄せられている。

 「コロナウイルスへの感染を避けるためにテレワークで働きたいが、会社が認めてくれない」。「コロナウイルスの影響でお店が一時閉店するのに伴って休業を命じられたが、休業補償についての話がない」。

 政府も、労働者を休業させた際に企業に助成するなど、さまざまな施策を講じているが、それを勤め先の企業が「利用」してくれないという相談は実に多い。

 あるいは、フレックスタイム制や時短勤務、テレワークなど、感染を避けるために有効な「働き方」制度は多数あるが、企業側が積極的ではないというケースもある。

 国の政策や、有効な制度を実際に会社に導入させるためには、労働者側からの積極的なアプローチも考えていかなければならないのが現実だ。

 そこで本記事では、労働者側の「権利」と交渉すべき内容について考えていきたい。

会社には労働者に対する「安全配慮義務」がある

 そもそも、会社には労働者が求めるテレワークや在宅勤務を認める義務があるのだろうか。

 実は、すべての会社は、労働契約に付随して労働者が安全に働けるよう配慮する義務(安全配慮義務)を負っている。

 2008年に施行された労働契約法の第5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定めている。

 したがって、コロナが流行している今、会社には、労働者が勤務や通勤でコロナウイルスに感染するリスクを減らすために可能な範囲でテレワーク、フレックス勤務、臨時休業などの措置を講じることが求められるものと考えることができる。

 厚生労働省も、経済界に「感染リスクを減らす観点からのテレワークや時差通勤の積極的な活用の促進」を求めている。(「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けた取り組みについて」)。

 労働者側が求める場合には、企業側に少なくともそれらの制度を真剣に検討する責任があるといってよいだろう。

テレワーク、在宅勤務を「求める」ことができる

 報道によれば、すでに大企業や外資系企業の一部で、コロナ対策としてテレワーク・在宅勤務が認められている。とはいえ、全体に見ると、そうした「配慮」をしている企業は多くはないようだ。

 ヤフーニュースの「みんなの意見」では、「感染拡大でテレワークか時差出勤してる?」と題する投票を行っているが、8割近くの人が「どちらも行っていない」と回答している。

 すでに述べたように、こうした勤務形態は会社側から実現されるばかりでなく、労働者自身が労働者の権利として会社に要請することによって実現することもできる。

 それというのも、労働者には、勤務先の会社に対して、安全に働ける環境を整えるよう求める権利があるからだ。

 労働者は会社からの施策を待つだけではなく、積極的に会社に対して「安全配慮義務」を根拠にテレワークや在宅勤務という勤務形態を提案することができるということだ。

 すでにテレワーク・在宅勤務が就業規則に定められている場合には、それに則ってそうした勤務形態で就労する希望を伝えればよいだろう。

 だが、仮に上司の許可が下りない場合や、そもそも社内に制度が整備されていない場合、あるいは非正規雇用が制度の対象外とされている場合でも諦める必要はない。

 会社と労働条件について一人で掛け合っても要求・提案が受け入れられない場合には、一人でも加入できる労働組合(ユニオン)に加入して、会社経営陣と「団体交渉」を行って、会社の判断を変えるよう促すこともできる。

 「団体交渉」の権利は、憲法や労働組合法によって保障されている強力な権利であり、会社は「団体交渉」に誠実に応じる義務がある。

 また、会社が労働組合の要求を認めない場合には、労働組合は「団体行動権」と呼ばれる権利を行使して、会社の対応について情報発信をしたり、ストライキをしたりすることもできる。

 コロナウイルスの対策が不十分であることを理由に、例えば、満員電車の時間帯を避けて、数時間のストライキを決行するといったこともできるだろう。会社は法律に基づいてストライキを行った労働者に対して不利益な取り扱いはできない。

 団体交渉には制度に詳しい専門家も同席し、企業と対策について、社員と共に交渉することになる。

 実は、労働組合法は、法的な権利行使が労働者側からは困難であることを踏まえ、労使の「交渉」を実質化するために制定されている。そのため、今回のような事態への対応を労組を通じて求めることは、まさに「法律が予定するところ」だといってよいのだ。

 このように、労働組合の「団体交渉権」と「団体行動権」を行使して、会社にテレワーク・在宅勤務を含む、感染防止対策を求めていくことができることを覚えておいてほしい。

フレックス勤務、時短勤務の可能性

 次に、感染対策としてより企業が導入しやすいのが、フレックス勤務、時短勤務、時差出勤などだ。実際に、感染リスクの高い満員電車を避けるために、これらを希望する労働者にそうした勤務形態を認める会社もあらわれていることが報道されている。

 フレックス勤務や時短勤務は、在宅勤務と比べても、より多くの業態・会社で実現可能な対応といえるだろう。

 会社の事業運営・業務遂行を大きく損なうことがないのであれば、感染リスクを下げるための緊急対応を会社が拒否する合理性は乏しい。

 対応がなかなか進まない会社に勤めている場合にも、やはり、労働組合の「団体交渉」等によって粘り強く交渉すれば、実現できる可能性は高いと考えられる。

休業期間中の賃金保障を「求める」

 一方で、社内に感染者が発生した会社や、コロナ流行のために客数や売上高が減少している会社で、労働者が休業を言い渡されたという相談も多数寄せられている。

 重要なことは、会社から休業を命じられた場合、労働者は休業時の生活保障を求めることができるということだ。

 労働基準法第26条では、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない」と定められており、休業手当として最低でも平均賃金の60%を請求することができる。

 ここでいう「使用者の責に帰すべき事由」の範囲は広く捉えられており、災害等の不可抗力による休業でない限りはこの事由に含まれる。

 この休業手当を求めることは、法的な権利であるだけではない。政府は一定の場合の休業時に助成金を拠出することを決めており、その適用を求めることは極めて合理的である。労働組合による交渉では、こうした制度を活用することを求めることができる。

 また、売上が若干減少したくらいの影響で休業を命じたり、コロナ問題に便乗して休業させたりしているようなケースでは、労働基準法で定められている平均賃金の60%という最低水準を超えて、残りの40%についても、民法第536条第2項「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない」にもとづいて請求することができると考えられる。

 収入が6割に減少するというのは労働者の生活にとって大きな痛手だ。休業の場合は賃金の60%を支払えばよいと安易に考えてしまう会社も多いが、あくまで60%というのは最低限に過ぎない。ここでもユニオンの力を活用することによって、収入の減少を抑制できる可能性がある。

 休業手当の「金額」も交渉次第だということだ。

 さらに、一斉休校に伴って労働者側が「家庭の事情」で休業せざるを得ないケースについても、国は100%の助成金(1人あたり日額上限8330円)を企業に支出するとしている。企業側がこうした休業を拒む場合にも、労使交渉で同制度を利用することを求めることができる。

 (尚、リーマンショック期の労働相談では、企業が助成金だけを受け取り、労働者に手当を支払わなかった事例が多数発生した。今回もそうしたケースが起こりえる。その場合にも団体交渉で支払いを求めることができる)。

 このように、会社から休業を命じられた場合、その間の賃金の全額または一部を会社は支払う義務があり、その内容も交渉することができる。休業中の収入について不安のある方は、専門家に相談してみてほしい(相談窓口については本稿末尾にも記載しているので参考にしてほしい)。

コロナによる影響を理由とした整理解雇は有効か

 最後に、コロナ流行の影響で解雇されたという深刻な相談も寄せられている。観光バス業、観光客相手の飲食店・土産店、娯楽施設、イベント業などで解雇・雇止めが多発している。

 たしかに、これらの業界では、仕事が減っていて売上は大きく下落しているだろう。だが、コロナ流行からまだ僅かな時間しか経っておらず、現時点で解雇が法的にみて有効とされるケースはごく一部だろう。

 というのも、解雇は、労働契約法16条で「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められているうえ、過去の判例によって厳しく制限されているからだ。

 経営状態の悪化を理由として解雇する場合には、客観的に高度の経営危機下にあることや、解雇を回避する努力を十分に行っていること、納得を得るための手順(説明・協議等)を踏んでいることなどが認められなければ、解雇権の濫用となり無効とされる。

 このような基準を踏まえれば、現時点で、以上の要件を満たしているケースは、それほど多くないと思われる。コロナ危機がいつ収束に向かうのか分からない以上、当面の間は、解雇を回避すべく、その他の措置を講じて様子を見るのが適当であろう。

 こうした解雇を避けた措置(政府の助成金を獲得して休業手当を支払うなど)についても、団体交渉によって企業に求めていくことができる。解雇通告されてもすぐに諦める必要はないのだ。

おわりに

 本記事を通じてお伝えしておきたいことは、不安なことがあれば早めに専門家に相談してほしいということだ。感染のリスクのある状態は日々続いているし、休業や解雇となれば生活を直撃することになる。

 繰り返しになるが、政府もさまざまな施策を講じているが、それを勤め先の企業が「利用」してくれないという相談は実際に多い。それらの施策を有効に生かすためにも、労働者側からのアプローチが不可欠だ。

 後で悔いることがないようにするためにも、不安に思う点や疑問に感じている点があれば、ぜひ一度相談してみてほしい。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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