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さくら保育園の園児虐待事件 裾野市の公式見解書から読み解く初動対応の問題点

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
裾野市公式サイト(筆者撮影)

 静岡県裾野市のさくら保育園の保育士3名が暴行容疑で逮捕される事態に至った事件。さくら保育園に問題があったのは明らかですが、筆者が着目したのは裾野市の公式見解書。思わず何度も繰り返し確認したのは、市長への報告が3か月後であったこと。さらに、加害者から被害者への直接謝罪原因について記載がなかったりしたことから、クライシス発生時に最も大事な行動ができていないと感じました。市の見解書と静岡新聞などの報道から時系列に振り返り、市の初動はどこに問題があったのかを指摘します。

市は初動で直接の謝罪を指導せず

 事件が起きたのはさくら保育園の1歳児クラス。今年の6月から8月上旬、保育士が園児の頭をたたくといった暴行や園児の容姿を馬鹿にした暴言など15項目*の不適切な行為が行われました。これを目撃した同僚の保育士は、園長から通報しないでほしいといった依頼があったがそれを断り、8月17日市に通報。市は通報者と面会して情報を得た後、8月22日にさくら保育園園長と面談。園長はその日のうちに保育士の不適切な行為を確認し、翌日23日には該当する3名の保育士を異動させ、25日に市へ調査報告書を提出。26日に園は職員会議を実施して再発防止策・改善策を共有。

 ここまでの対応は市への通報から10日であり、迅速であるように見えます。しかし、3人の保育士の被害にあった園児とその保護者への謝罪行為の記載がありません。あるのは、「園児・保護者等への適切な対応をとること」(8月22日の指導内容)と「園が被害者児童及び保護者に個別謝罪を行うよう指導」(今後の市の対応)。つまり、園に対して加害者自らが直接の被害者、園児と保護者へ直接謝罪するように指導していなかったのです。

 さくら保育園は、報道された日の11月29日から数回に分けて保護者会を開催しました。保護者からは「加害者である保育士が直接謝罪してほしかった、説明してほしかった」という言葉が報道されていることから、ここでも謝罪はされていなかったといえます。

 12月4日、3名の保育士は逮捕されてしまいましたので、しばらく直接謝罪する機会は得られないでしょう。直接の謝罪は被害者にとっても加害者にとってもなくてはならないプロセスです。いえ、当たり前ともいえますが、案外被害者目線が抜けてしまうのはありがちです。たとえば、社員の書き込みで炎上した場合、社員がまず謝罪すべきですが、先に会社が謝罪をしてしまう。もっと身近なケースだと、いじめた子供が謝るのではなく親が相手に謝罪してしまう、といったことです。被害者からすると釈然としないのは当然のこと。

淡々と読み上げ、原因への説明はなし

 被害者目線の欠如は、11月30日の発表の仕方にも表れていました。虐待行為について「カッコイチ、ロッカーに入って泣いている園児の姿を・・・・」「カッコニ、園児の頭を・・・」。「カッコイチ、カッコニ、カッコサン」と淡々と読み上げる様子はまるで機械。冷たく感じられました。配布するなら読み上げる必要もあるまいし。それでいて肝心の「原因」についての記載がありません。

 見解書は、

1.通報日時、

2.通報内容、

3.市の主な対応、

4.園が確認し、報告を受けた不適切な保育の内容、

5.これまでの園の対応、

6.今後の市の対応

 最も重要な直接原因や環境要因への言及が欠落しています。 

 原因にアプローチしないままでは真の問題解決、再発防止までたどりつけないのです。1名ではなく3名の大人が虐待をするのは深刻な事態であり、保育士個人の資質の問題だけではない問題が存在したと推測されます。多忙すぎる環境やシフトの問題、ペアの組み方、保育士をケアする体制、困ったことが言えない職場風土などがあった可能性があります。

3か月市長に報告せず

 さくら保育園の問題が報道されて世間に広がったのは11月29日。静岡新聞の夕刊では「関係者への取材でわかった」として、次のように報道しています。

 裾野市の私立「さくら保育園」で不適切な指導が行われていた問題で、保育士3人が受け持ちの1歳児に対して暴力や冷やかし、暴言を繰り返していたことが29日、関係者への取材でわかった。保育園の内部調査などによると「頭をたたいたり宙づりにしたりする」「ズボンを無理やり脱がす」「容姿をからかう」といった言動が確認されたという。

 運営する社会福祉法人「桜愛会」(同市)の関係者は暴力行為の有無について明言を避け「29日夜に開催を予定している保護者向けの説明会が終わった後、しっかり対応する」としている。

 翌日の30日、裾野市が記者会見を行いました。公式発表の前に報道されたことになります。これは市側が取材されて報道されることになったから慌てて臨時の記者会見が開催されたかのように見えます。30日の市の発表では、「11月28日、市長への報告、記者会見実施の決定」、12月5日の市長コメントでも市長、副市長が知ったのは「11月28日」となっています。報道されそうだからトップに報告は、順序が逆です。このような手順の悪さは意外と頻繁に起こります。筆者も教育委員の時に経験をしました。「明日報道されるので先に報告します」と言われ、「報道されなければ報告しないということではないですか、そこにこそ問題がある」と怒りを爆発させたことがあります。

「本件については、8月17日には事案を把握していた市の対応にも大きな問題がございました。市の担当部署に隠ぺいの意図はなく、虐待の防止を徹底したうえで、速やかに保護者説明を行うよう求めていましたが、園の判断を待った結果、公表は11月末になってしまいました。」

「園の判断を待つ、という判断自体が誤りでした。本来であれば、保護者説明を行うよう、市として園に対して強く勧告や命令を行うべきでした。」

 判断が遅れたことへの率直な反省と管理職の懲戒処分、担当部長の更迭、市長と副市長の給与カット(市長2か月全額、副市長1か月全額)の厳しい処分発表はありますが、なぜ市長への報告がなかったのかは不明なまま。隠ぺいの意図はなくても隠ぺい体質であったと言わざるを得ません。

 さらに、12月5日、村田悠市長は櫻井利彦さくら園長を刑事告発しました。刑事告発の内容は、園長が10月に保育士らに園内での不適切行為を口外しない誓約書を書かせた行為を隠ぺいで悪質としたもの。隠ぺいが重大な罪であるとする市長からの強いメッセージは、警鐘としてのアナウンス効果はあるでしょう。ただ、記者会見での質問が告発の理由に集中してしまい、原因への質問や再発防止策についての質問に広がらず。目くらましにあったようにも感じさせます。

 厚生労働省の発表によると2019年度の保育園における不適切な保育は345件報告されています。さくら保育園での出来事が氷山の一角であることを物語っています。本来チームで乗り切れるはずの保育園で起きてしまった今回の事件。働き手のストレスやケア体制不足も環境要因としてあるのではないか、と考察する視点も持ち、再発防止の仕組みづくりにつなげていってほしいと心から願います。

*11月30日の裾野市の発表では15項目の不適切行為が発表され、12月5日に1項目増えた。

【動画解説】

<参考サイト>

裾野市 11月30日発表

https://www.city.susono.shizuoka.jp/shisei/3/kishakaiken/rinjikishakaiken/rinji2022/17457.html

裾野市 12月5日発表 市長コメント

https://www.city.susono.shizuoka.jp/soshiki/3/3/4/kishakaiken/rinjikishakaiken/rinji2022/17463.html

裾野市 12月5日記者会見(TBS NEWS)

https://www.youtube.com/watch?v=Pb8oVvo8WxA

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長。社会構想大学院大学教授

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