人工乳房で血液がん発症の衝撃
人工乳房で悪性リンパ腫発症
乳がんで乳房を失ったときや、豊胸術の際に使われる人工乳房(インプラント)。この一部が、血液のがんの一種、悪性リンパ腫を引き起こすことが明らかになり、日本でも最初の患者が確認された。
少し詳しく見てみよう。
日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会、日本形成外科学会、日本乳癌学会、日本美容外科学会(JSAPS) の理事長が連名で文章を公表している。フランスで、日本でも承認されているアラガン社製品を含めたインプラントにより、未分化大細胞型リンパ腫(ALCL)という悪性リンパ腫が発症したことをうけて使用停止になった。この悪性リンパ腫は「BIA-ALCL(ブレストインプラント関連未分化大細胞型リンパ腫)」と名付けられている。
この決定をうけて調査を行ったところ、日本でも悪性リンパ腫を発症した患者が一例見つかったという。
この悪性リンパ腫の発症にはインプラント挿入後10年以上かかるとされており、直ちにインプラントを取り除く必要があるわけではない。使用を禁止した国はフランス、カナダくらいで、アメリカなどは流通を許可している。
厚生労働省もこれら学会の文章を受けて、注意勧告を行った。
報道は控えめだが…
このニュースはヤフーニュースでトピックスに取り上げられているが、全体的に報道は控えめの印象を受ける。すべての報道機関が報じているわけではない。
まれであり、今すぐ何かしないといけないというわけではないので、こうした反応なのかもしれないが、患者さんや医療関係者は知っておくべきと思う。患者さんは「ブレスト・インプラント(ゲル充填人工乳房)による乳房手術を受けた(受ける)方へ」をお読みいただきたい。
とくに私とおなじ病理医は認識しておくべきだろう。というのも、未分化大細胞型リンパ腫の診断は、決して容易ではない。いっけん固形がんにみえてしまい、適切な「免疫組織化学染色」をしないと診断にたどり着けない可能性があるのだ。
私はともかく、ベテラン病理医も専門が異なっていれば知らなかったという。
今後様々な知見が蓄積されていくことだろう。
訴訟多発の恐れも
まれな、かつそれほどたちが悪いわけではない病気だから、なんで騒ぐ必要があるのだろうと思われる人が多いと思うが、私の知人の医師は、これをきっかけに巨額の補償を要求する訴訟が多発するのではないかと予想している。
諸外国で注意勧告や使用、販売禁止などの処置が行われているなか、日本では対応が遅れたために不利益を被った、という訴えが出てくるかもしれない。
まだ調査が行われている最中であり、軽々しいことは言えないが、今後の情報などに注意していきたい。