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元阪神・藤井宏政内野手が補強選手で都市対抗に―「いいところで打ちたい!」

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター
補強選手として夢の都市対抗へ!カナフレックスの藤井宏政選手(左)と大西健太投手。

阪神タイガースを退団したあと、社会人野球で現役を続けている選手については、これまでも何度か記事にしています。最近も都市対抗野球の予選に関して書かせていただきました。2次予選を突破して本戦出場を決めたのは、新日鐵住金鹿島1年目の玉置隆投手(29)、三菱重工神戸・高砂3年目の若竹竜士投手(28)、パナソニック2年目の坂口哲也選手(23)です。

また、三菱重工長崎3年目の野原将志選手(28)、カナフレックス3年目の藤井宏政選手(26)、クラブチーム・和歌山箕島球友会3年目の穴田真規選手(23)、ことしから富山のクラブチーム・ロキテクノベースボールクラブで兼任コーチを務める藤田太陽投手(36)は残念ながら出場ならず。

そのあたりの話は、こちらでご覧ください。本大会に出場チームは<その1>で

<社会人の夢・東京ドームへ!もと阪神の選手たちが戦った都市対抗予選>

それ以外のチームは<その2>です。

<もと阪神の選手たちが戦った都市対抗予選 ― 次のステージに向かって>

都市対抗ならではの“補強選手”

7月15日から12日間、東京ドームで開催される『第87回都市対抗野球大会』。秋の社会人日本選手権はチーム単体での出場ですが、都市対抗は補強選手というシステムがあります。「代表チームは、その予選地区の第1次、並びに第2次予選において敗退した加盟チームから3人以内を選出し、補強選手として本大会に出場させることができる」というもの。各チームからの届け出を受け、16日に補強選手の名前が発表されました。

昨年は近畿の代表5チームが補強した計15人のうち12人がパナソニックから選出、東京では3チーム11人のうち9人がNTT東日本でした。ことしも南関東の代表3チームの補強選手9人が全員、Hondaからです。東海地区では第1代表の王子が、もと中日の中田亮二選手を補強していますね。なお前年優勝チームは推薦出場のため制度の適用はありませんが、ことしはそれ以外に大阪ガスが唯一、1人も補強せず本大会に出ます。

そして、もと阪神タイガースの藤井宏政選手が三菱重工神戸・高砂の補強選手に選ばれました。規定では「1次、2次予選で敗退したチームから」となっていますが、だいたいは2次予選出場チームの選手で埋まるもの。しかもカナフレックスは創部3年目。昨年の日本選手権には初出場したものの、都市対抗はまだ2次予選にすら進めていません。

2次予選進出を逃した悔しさ

この建物の2回に練習フロアがあります。
この建物の2回に練習フロアがあります。
作元純平投手に顔を出してもらいました。
作元純平投手に顔を出してもらいました。
その2階でスイング中だったのは今釜敏貴選手。
その2階でスイング中だったのは今釜敏貴選手。

藤井宏政選手はカナフレックスの創部時に入団して、ことしが3年目。4月3日には初めて阪神ファームと交流試合があり鳴尾浜へやってきました。足を痛めていたのに代打で二塁打を放ち、走っちゃったんですよね~。その時の様子はこちらでどうぞ。<原口が2戦連発、146キロデビューの望月、もと阪神・藤井は二塁打>

このカナフレックスが所属する地区は都市対抗の予選が他より1つ多く、滋賀県1次予選のあとに『京滋奈1次予選』というものがあって、これをクリアしないと近畿2次予選へ進めません。つまり『1.5次予選』ですね。1年目の2014年は滋賀1次の2回戦で敗退。2年目は滋賀1次を突破、3チーム中2チームが勝ち上がれる好条件だった京滋奈1次で連敗し、2次へ進めず。

そして3年目のことしは滋賀1次を無難に終え、京滋奈1次予選へ。いつも通り3チームによるリーグ戦で1勝1敗でした。昨年と同じ2チーム進出ならカナフレックスも行けたのですが、ことしは3チーム中1チームのみ。よって今回も『1.5次』で涙を飲んでいます。

そのカナフレックスから藤井選手が三菱重工神戸・高砂に、エースの大西健太投手がNTT西日本にと、2人も補強選手に選ばれたのです。ことしの補強選手は全部で87人。そのうち1次で敗退したチームからの選出はカナフレックスの2人だけです。これはもう直接話を聞かねば!と、会いに行ってきました。

社屋2階の練習場と手作りブルペン

カナフレックス硬式野球部は、滋賀県東近江市の滋賀工場に拠点を置いています。野球部員はこの工場内で業務に従事し、2班に分かれた勤務時間の前か後かで練習するというスケジュール。ただし以前も書いたように専用グラウンドがないため、実戦に即した練習が難しい状況でした。でも今は平日に限り、契約したグラウンドで練習もできるようになったとか。それは大きいですね。

3月に完成した自前の投球練習場。すぐ右側に製品のホースが。
3月に完成した自前の投球練習場。すぐ右側に製品のホースが。
ピッチャーが立つマウンドの部分。
ピッチャーが立つマウンドの部分。
甲子園と同じ黒土を買ったそうです。
甲子園と同じ黒土を買ったそうです。

私が伺ったのは土曜日の自主練習中。社屋の2階に設けられたスペースでティーバッティングやウエートトレーニング、資材置き場の空きスペースを走ったり、キャッチボールをしたりという状況でした。案内していただいたのは梁川浩樹マネージャー。藤井選手と同い年で、いつも何かとお世話になっています。その梁川マネージャーから「実はブルペンができたんですよ!」と言われ、外に出て見ると…。

ありました!資材置き場の端に、ピッチャー2人が並んで十分投げられるスペースです。壁や柵で囲われていないので、正確には“ブルペン”でなく“投球練習場”と言うべきなのかもしれませんが、ブロックで仕切りを作って土を入れ、マウンドの傾斜がちゃんとあります。梁川マネージャーいわく「甲子園と同じ」しっとりした黒土。でも考えたら社会人野球の場合、東京ドームか京セラドームのような赤土がよかったのでは?って大きなお世話ですね。失礼しました。

この度、照明も取り付けられました。
この度、照明も取り付けられました。

完成したのは今春、3月くらいだそうです。ちょうどピッチングを終えた大西投手に聞いたところ「今までピッチング練習をする場所がなくて、通路でキャッチボールをやるくらいだったので、全然違いますね!」と嬉しそう。確かに本格的なピッチングをするには、かなりのスペースが必要でしょう。公式戦だけでなく、オープン戦などの練習試合の際にも、当日その球場へ行ってからピッチングをする状況。

でもブルペンができて変わった?「はい。日曜に試合があっても土曜日はキャッチボールだけだったのが、こういう場所で投げられる。1日で鈍るってことはないですけど、不安な部分は消せるので。確認できるのが大きい。効果ありましたね」と大西投手は言います。ブロック積みから始まって、すべて自分たちで作ったブルペン。先週はちょうど照明を設置してもらったところでした。これで、仕事終わりの夜間練習も可能ですね。

「東京ドームも初!」の藤井選手

では、三菱重工神戸・高砂の補強選手として都市対抗に臨む藤井宏政選手のコメントをご紹介しましょう。「ビックリしました。出られたらいいなとは思っていたけど、“1.5次”で負けたので。選ばれるのは2次に出たチームからだろうと思っていました。でも、しっかり練習も続けていたので良かったです」。確かに藤井選手と大西投手以外は全員、2次予選に出ていた選手です。

バットを持っていたので振ってもらいました。思いっきり照れています。
バットを持っていたので振ってもらいました。思いっきり照れています。

だから、期待はしつつ驚きもあったようです。「嬉しいですねえ!東京ドームも初ですよ。観戦はあります。去年、軟式野球で東京へ行った時に」。そうなんです。実はカナフレックスには軟式野球のチームもあって、藤井選手いわく「ゴムを扱っている会社の大会」が昨年7月に東京で開催され、その際に大阪ガスの試合をスタンドで観たと言います。「都市対抗は人が多いですね」という感想。

三菱重工神戸・高砂といえば、兵庫県高砂市出身の藤井選手にとっては地元も地元!明石市東二見にある野球部のグラウンドも近くです。とはいえチームに知り合いはほとんどおらず「若竹さんがいてよかったです」とホッとした様子でした。同社3年目の若竹竜士投手とは阪神時代に一緒だったし、なんせ都市対抗3年連続出場中ですから心強いでしょう。

補強選手ももちろん同じユニホームを着用するため、採寸をして新しく作ってもらいます。藤井選手は既に着用した写真が、三菱重工神戸・高砂の野球部公式サイトに出ていて「いいですねえ。タテジマ」とニコニコ。侍JAPANのユニホームにも似ていますもんね。うん、すごく似合う!と言ったら、またニコニコ顔でした。ビジター用の紺地もきっと似合うと思いますよ。

東京ドームでは自慢の長打を見せてきてください!
東京ドームでは自慢の長打を見せてきてください!

では意気込みをお願いします。「打ちたいですねえ」。そりゃそうです。ホームランは?「それはいいです。出来すぎ。普通にやれたらいいです」。人柄に違わず、とても控えめな言葉。でも後で大西投手のコメントを聞き、ちょっと控えめすぎると思ったのか言い直しがありました。

「まず1本打ちたいです。いいところで打つ!」

「とにかく向かっていくという気持ちで」

「振っていきます!」

だいぶ力の入った表現になり、振っていきますのところで「走る?」と聞いたら「走ります!」と答えて笑いました。ほとんど無理に言わせた感じもしますが、大きいのを打って二塁や三塁に全力疾走してくれるでしょう。そして最後に「味わえたらいいですね」とひとこと。チームの勝利に貢献するのは当然のことながら、貴重な機会なのでしっかり堪能してきてください。

大西投手「2枚の看板を背負って」

カナフレックス2年目の大西健太投手(23)は「1次で負けた時点で全然そういうのはないと思っていたから、嬉しかった!ですけど…不安な気持ちも大きいです」という本音もチラリ。不安なのは「選ばれたらいいなと思っていたけど、いざ選ばれると試合とかしていないので、ちょっと期間が空いている分」だそうです。とはいえ「不安があったから自主練習を続けてきました。それで状態を維持できているので良かった」と大西投手。

NTT西日本に補強選手としていく大西投手。
NTT西日本に補強選手としていく大西投手。

藤井選手とは違い、東京ドームは経験済みです。「大学時代(東日本国際大)に3回くらい投げました。でも大学とは環境が違うので…」。マウンドに戸惑うことはないとしても、さすがに緊張はするでしょうね。都市対抗は藤井選手と同じく昨年、軟式野球で東京へ行った際に大阪ガス戦を観たそうです。社会人の、都市対抗独特の雰囲気に負けないよう頑張ってください。

では目標をどうぞ。「一番はチームに貢献するのが大切で、どんな役割を与えられても力を出し切ること」。いいコメントですね。そして「“2つの看板”を背負うことですね。NTT西日本の補強にカナフレックスの代表として行く限りは、両方のチームに少しでも貢献したいってのはあります。選んでいただいたので」と、これまたベストアンサーでした。

ブルペンで投球練習中です。
ブルペンで投球練習中です。

NTT西日本に知り合いは?「大学の先輩で僕が1年の時に4年だった浜崎さんがいます」。1年で4年だとなかなか…。「大丈夫です。優しい人なので」。それはよかった。でもNTT西日本の浜崎浩大投手といえば、昨年の社会人野球表彰で最優秀防御率のタイトルを獲得した投手です。いっぱい吸収できたらいいですね。また「他にも大学の先輩や後輩が東北のチームにいるので対戦してみたい」と話しています。

大西投手はまだ採寸のみで実際にユニホームを着ていませんが、NTT西日本はホームが白でビジターは青です。「青は一度も着たことがないので、どうかなあ」と心配そうでした。大丈夫ですよ。想像した限り違和感はありません。はい、イケてる感じです!

本当に嬉しい!と監督、マネージャー

19日には抽選で決まった組み合わせが発表されました。7月15日が開会式で、ここは全チームが勢揃いします。その後の1回戦については、もと阪神関係のみ、試合の速い順にご紹介しましょう。と言いながら、いきなり阪神ではないのですが…カナフレックスの大西投手が補強されたNTT西日本は2日目に、また3日目に榎田投手の弟・宏樹投手の日本新薬が登場します。

16日 18:00~ 東京ガス- NTT西日本

17日 10:30~ Honda熊本- 日本新薬

18日 10:30~ 新日鐵住金鹿島(玉置)- JR北海道

19日 14:00~ パナソニック(阪口)- きらやか銀行

20日 18:00~ 三菱重工神戸高砂(若竹、藤井)- 日立製作所

カナフレックスの滋賀工場がある東近江市。手前に見える黒いホースは製品の一部です。
カナフレックスの滋賀工場がある東近江市。手前に見える黒いホースは製品の一部です。

河埜敬幸監督に感想を伺うと「嬉しいという気持ちしかない」というお返事でした。それから「創部3年目で、チームが結果を残していない中、選んでもらって本当に嬉しい。カナフレックスの名前も出るので、活躍して会社の名を上げてもらえれば。注目度もすごいし、そこで何とか活躍してほしいですね」と激励の言葉です。

また梁川浩樹マネージャーも「めっちゃ嬉しかったですね!まさか、って言うと失礼ですけど、ほんまに選ばれるとは…。だって1次で負けているのに」と驚きを隠せなかったと言います。梁川マネージャーがまず、打診というか確認の電話を受けるんですね。決定の連絡はまた別の方同士ですが、決まった時には「もうとにかく、ありがとうございます!ありがとうございます!って、いっぱい言いました(笑)」とのこと。

2選手とも、それぞれのチームで行動するので“引率”の必要はないのですが、梁川マネージャーも東京ドームへ行きたいと言っていました。少しドキドキしながら観戦されるかもしれませんね。

来年はカナフレックスのチームで!

なお「補強選手は7月1日から出場チームの練習に合流することができる」という大会規約により、その日から藤井選手は三菱重工神戸・高砂の、大西投手はNTT西日本の一員として練習に参加します。その会社の寮に入って、その会社のグラウンドで汗を流すわけで、カナフレックスのチームメイトとはしばらく会えません。そこで、2人にエールを送ってもらいました。

JABA大会2勝の岩崎舜投手。背中ですみません!
JABA大会2勝の岩崎舜投手。背中ですみません!
使ったあとは、みんなで丁寧に手入れをします。
使ったあとは、みんなで丁寧に手入れをします。

たまたまそこに居たルーキーの高崎健一投手が役を担う羽目になり、一生懸命考えたあげく「カナフレックスの代表として行くので、その名に恥じないようお願いします」と言ったところ「なんでそんな“上から”やねん!」と先輩方に突っ込まれ、結局「来年はチームで」と抱負を述べて終了しました。すると周りから「ことし行けんのは誰のせいや~」と言う声に続き、京滋奈1次予選の話に。

第2試合まで終えて1勝ずつのカナフレックスとミキハウスベースボールクラブが第3試合に対戦。勝った方が近畿2次へ進みます。先制を許したものの、6回までに3対2と逆転したカナフレックス。しかし9回裏に追いつかれ、なおも1死三塁で高崎投手は「カウント0-2から、ボール球を要求されたのに真ん中にまっすぐを投げてしまって…」ミキハウスの脇山選手に打たれ、サヨナラ負けを喫しました。

その結果、近畿2次にはミキハウスベースボールクラブが進出したわけです。こんなふうに笑えるまで時間はかかったと思いますが、高崎投手本人も周りも「来年はチームとして行く!」と誓う都市対抗野球。カナフレックスのえんじ色が、東京ドームのグラウンドで弾けるのを楽しみにしています。

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

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