もと阪神の選手たちが戦った都市対抗予選 <その2> ― 次のステージに向かって
きのう12日に北海道地区2次予選が終了、最後にJR北海道が代表に決まって『第87回都市対抗野球』の出場32チームが出揃いました。本大会は7月15日から12日間、東京ドームで開催されます。社会人野球にかかわる以上、最大の目標と言われる都市対抗。NPBから社会人へと戦いの場を移した、もと阪神タイガースの選手たちも今回、東京ドームを目指して予選を戦いました。
そこで本大会出場を決めた若竹竜士投手(28)、玉置隆投手(29)、阪口哲也選手(23)の話はこちらでご覧いただけます。<社会人の夢・東京ドームへ!もと阪神の選手たちが戦った都市対抗予選 <その1>>
きょうは<その2>として、残念ながら予選で涙を飲んだ野原将志選手(28)、穴田真規選手(23)、藤田太陽投手(36)、藤井宏政選手(26)の戦いをご紹介します。また“特別編”として、新潟県胎内市役所の軟式野球チームで活躍する横山龍之介さん(27)の話も書きました。相変わらずの長さですが、最後までお付き合いください。
【三菱重工長崎】連続出場ならず
2014年から三菱重工長崎に所属している野原将志選手。1年目は本大会出場がかなわなかったものの、2年目の昨年は九州地区の第2代表で6年ぶり17回目の都市対抗出場、秋には日本選手権出場も果たしました。ただ、どちらも初戦敗退と悔しい思いを残して迎えた、ことし3年目。長崎・佐賀1次予選は例年通り問題なく突破して、九州2次予選に臨んでいます。
5/31 2回戦 ○2-1 沖縄電力
6/2 準決勝 ○10-0 鹿児島ドリームウェーブ
6/7 第1代表決定戦 ●2-6 Honda熊本
6/8 第2代表決定戦 ●1-5 JR九州
6/9 第3代表決定 ●2-6 西部ガス
まず5月31日の2回戦(準々決勝)、そして6月2日の決勝と順当に勝ち進んで、あと1つ勝てば決定でした。ところが4日、5日、6日と雨で中止、ようやく第1代表決定戦が行われたのは7日です。ここで、昨年は本大会出場を逃したHonda熊本と対戦して、6対2で負け。敗者復活戦へと回ります。
あと1つ!から、まさかの3連敗
決勝までいったので、敗者復活といっても次は第2代表決定戦。勝てば決まりのはずが…JR九州に負けてしまって、残るは1試合のみ。最後の第3代表決定戦は西部ガスが相手です。先制を許したものの6回に2点を取り追いついた三菱重工長崎。しかしその裏に4失点。6対2で試合が終わり、代表決定戦3連敗で出場を逃してしまいました。
野原将志選手は、「あしたこそ!」「次で決める!」と気合を入れて臨んだのですが…玉置投手や阪口選手と東京で集合するという願いはかなわず。
10月末からの社会人日本選手権は「もっと厳しくなりますけど、頑張ります」とのこと。なお、優勝すれば日本選手権の出場資格が得られる大会の1つ、JABA九州大会は本来5月上旬に開催予定だったのですが、熊本地震の影響で8月に延期されました。それを逃しても昨年のように最終地区予選で決めることは可能。九州予選は9月7日から熊本県内の予定で、場所の変更はあるかもしれません。ことしも京セラドームで会えるのを期待しています!
【和歌山箕島球友会】高くて厚い企業の壁
和歌山箕島球友会には2014年から穴田真規選手が入部しました。クラブチーム日本一になって秋の社会人日本選手権には出場している和歌山箕島球友会ですが、都市対抗の本大会はまだ未経験。クラブチームと戦う大阪・和歌山1次予選はともかく、やはり2次で相対する企業チームに阻まれ、近畿2次予選で立ち止まってしまいます。ただ、ことしは「もしかして…」と思わせてくれる試合がありました。2試合を観戦したので、少し詳しくご紹介します。
5/19 1回戦 ○7-0 NSBベースボールクラブ
5/28 準々決勝 ●0-9 日本新薬
5/30 第3代表 1回戦 ●2-3x 大阪ガス
6/1 第4代表 2回戦 ●0-5 パナソニック
昨年の第1代表・大阪ガスと接戦に
2回戦で日本新薬(のちに第1代表となる)に負け、敗者復活戦へ回った和歌山箕島球友会。5月30日に第3代表決定戦・1回戦で大阪ガスと対戦しました。先発の寺岡投手は4回に1点を先取されますが、直後の5回表に先頭の平井選手が内野安打、犠打などで2死三塁として4番・林選手が同点のタイムリー二塁打!9回表には先頭の野田選手が中前打し、西口選手が送って1死二塁。9番の代打・榊原選手がタイムリー二塁打!これで勝ち越しに成功です。
その裏を守りきれば、あと2勝で第3代表というところ。しかし先頭の一ゴロを岸選手が捕球エラー。暴投で二塁へ進めたあと四球を与え、犠打で1死二、三塁となって…遊ゴロの間に同点の走者を還してしまいます。延長10回は1死から穴田選手が左前打し、犠打で2死二塁とするも得点ならず。その裏にショート内野安打で出た走者を犠打野選で二塁へ進め、大阪ガスの4番・伊藤選手が一塁へ強烈な打球!これを岸選手が捕れず、二塁走者が生還(記録はファーストのエラー)。昨年の近畿地区第1代表の意地を見せた大阪ガスがサヨナラ勝ちしました。
9回のエラー直後から平常心ではなかったであろう岸選手。その打者走者を還したときにはもう泣いているように見えましたね。サヨナラの瞬間も立ち上がれず、終了の整列もベンチでも、外へ出てきて着替えている時も涙は止まらず。チームメイトから「まだ終わってないぞ!次の試合がある!」と声をかけられても、ただ泣いて「申し訳ない」と顔を上げられません。
「負けた方が終わり」のパナソニック戦
2014年まで大阪ガスに在籍していた岸翔太選手は、戦力外を告げられた時、正社員の座を捨てて和歌山箕島球友会のセレクションを受けたのです。そして「いつか対戦して勝ちたい」「野球を続けている自分の姿を見せたい」と頑張ってきただけに、大阪ガス退社後に公式戦では初めて顔を合わせ「気合が入りすぎていたかも…」と2日後に、ようやく振り返って話してくれました。
2日後の6月1日、今度は敗者復活の第4代表決定戦の1回戦でパナソニックと対戦し、5対0の完封負け。初回先頭の平井選手が左前打したのと、7回に先頭の野田選手が左翼線二塁打した2安打のみです。この試合後に岸選手は言いました。「自分のせい。きょう負けたのも。一昨日がすべてです。ことしはエラーしてなかったのに、よりによって。悔しかった。人生で一番くやしかった。9回のことは頭から離れない」
西川忠宏監督は、この日のパナソニック戦でもエラーでの失点があり「エラーしたくてしてるわけじゃないし、やったことは仕方がない」と前置きしつつ「エラーをしたら負けるということ」とおっしゃいました。大阪ガス戦は振り返り「勝ち越した9回、あそこでもう1点、2点取っていれば…。大阪ガスも必死だったと思いますよ。初戦に負けて。やっぱりここ一番の集中力ですね」と。確かに、それで守備も変わっていたかもしれません。
「大阪ガスに勝つか負けるかで大きな違いだったんですよ。勝っていれば、きょうここで大阪ガスとパナソニックが“潰し合って”くれた。その前にニチダイも消えて、企業チームが減れば枠が空いていたのに」。なるほど、そういうことでしたか!大きな意味を持った9回の1点だったわけですね。大阪ガスにとっても、パナソニックにも。そして「まだ東京ドームに行くのは早いってことです」と西川監督。でも見えないほど遠くはないような気もしました。
切磋琢磨する同級生たち
穴田真規選手は2試合ともフル出場。大阪ガス戦は5番サードで4打数1安打(犠打1)、パナソニック戦は3番サードで4打数0安打でした。大阪ガス戦のあとで話した時に、昨年は自身のエラーで負けたことを思い出したのでは?と聞いたら「いえ、集中してたんでそれはなかったです。集中しすぎて頭が痛い」という答え。10回のヒットは「1発を狙い出したら悪くなるからヒットでいいと思っていた」そうです。ことしバッティング好調なだけあって、表情は明るいですね。
そこへやってきた榊原皓(こう)選手をつかまえて「同級生!阪口のチームメイト!」と穴田選手。そうそう、北面成也投手と一緒に昨年入った市立和歌山高校出身のバッテリーでしたよね?「今はキャッチャーしてないんです。ファーストで。打つ方は自信あります!」。なるほど打撃を買われて内野で出ているということでしょう。1対1で迎えた9回に代打で勝ち越しタイムリー二塁打!
「手応えありました。越えるかなって」。この日はサヨナラ負けに沈むチームだっただけに、大喜びできなかった榊原選手ですが笑顔は写真で残させていただきます。これが決勝打になっていたかもしれませんからね。ちなみに榊原選手は6月1日のパナソニック戦も、7回2死一、三塁で代打出場しましたが、ここは二ゴロで終わりました。残念。
また、エース・寺岡大輝投手は大阪ガス戦が10回、153球の完投で3失点(自責1)。中1日でパナソニック戦にも先発し、5回2/3で交代しましたが108球を投げています。社会人ではよくあることとはいえ、パナソニック戦はさすがにキツそうでしたねえ。ご両親も悲壮な思いでご覧になっていたようです。
クラブ選手権予選の前に鳴尾浜で!
とはいえ、いつまでも後悔しているわけにいきません。和歌山箕島球友会は既に『第41回全日本クラブ野球選手権』(9月2日~西武プリンスドーム)へと向かっています。昨年優勝したので1次予選は免除で、2次の西近畿予選が7月2日からスタートしますが、ここはもう勝ち上がって当然。目標はその先で、連覇して『第42回社会人野球日本選手権』(10月29日~予定・京セラドーム大阪)に出ること、そこで企業チームから白星を挙げること!
昨年は寺岡投手が大会の最高殊勲選手賞を受賞する活躍で、平井選手も大会首位打者に輝きました。そして我らが穴田選手も打撃好調に加え、チームメイトも驚きのノーエラー(笑)で貢献!ことしも期待しています。
その前に、今月28日は鳴尾浜で阪神ファームとの交流試合があります!穴田選手はもちろん、一二三投手とジュニアホークスでチームメイトだった寺岡投手も非常に楽しみな様子。今は投手と打者として“対戦”があるわけで、穴田選手と私が間に入って伝言したところ、一二三選手「真っすぐしか放るな」、寺岡投手「スライダーしか放らん!」というやり取り。一二三選手の「逃げんなって言うといてください(笑)」が締めです。
それにしても穴田選手と同級生が本当に多いですね!一二三選手はもちろん、寺岡投手も、榊原選手と北面投手も、エラーに泣いた岸選手もそう。穴田選手が退団後初めて鳴尾浜にやってくることになりました。6月28日、12時半プレーボールです。
【ロキテクノベースボールクラブ】大躍進の1次突破
藤田太陽投手は2000年のドラフト1位(逆指名)で、川崎製鉄千葉から阪神に入団。西武、ヤクルトを経て2013年に現役引退。その後は野球に関すること、そうでないことも含め、現在も幅広く活躍中です。そして昨年12月、富山県の社会人クラブチーム『ロキテクノベースボールクラブ』で投手兼任コーチとして現役復帰!と発表されました。ロキテクノベースボールクラブは富山県上市町を拠点に2011年創部の新しいチームです。
兼任コーチとはいえ現役復帰ですから、体を鍛え、東京での練習だけでなく、富山へ出向いてチーム練習に参加する日々を重ねてきた藤田投手。実戦で145キロが出たとか!すごいですねえ。今回の都市対抗予選は、まず『福井・石川・富山1次予選』が5月13日から15日まで富山アルペンスタジアムで行われました。
1回戦はHard Ball Clab金沢に7対4で勝ったものの、2回戦で福井ミリオンドリームズに8対5で負けて敗者復活戦へ。第2代表決定戦の準決勝で富山ベースボールクラブを12対4で退けると、次の決勝で再び顔を合わせた福井ミリオンドリームズに今度は6対4で勝って2次予選へ進みました。都市対抗予選は2014年から参戦しているロキテクノですが、2度とも初戦で負け、さらに敗者復活戦の1回戦で負けという結果。よって、ここで勝つことも初です。
初めて臨んだ北信越2次予選の結果
6/3 1回戦 ○7-5 JR新潟
6/4 2回戦 ●2-8 フェッデクス
3日のJR新潟戦には藤田投手も登板して、見事初戦突破!しかし2回戦で敗れて本大会出場はならず。この地区の代表は、同じクラブチームですが2年連続22回目の信越硬式野球クラブとなっています。いつかはここを勝ち抜き東京ドームへ行けるよう、藤田投手はコーチとして若い選手たちを育てていくことでしょう。時には投げる背中を見せながら。
都市対抗は逃してしまったものの、穴田選手と同様にクラブチーム日本一を賭けた戦いがすぐに始まります。7月2日から県営富山野球場で『第41回 全日本クラブ野球選手権』の福井・石川・富山1次予選、これを突破すると7月30日からの北信越2次予選です。目指すは9月の西武プリンスドーム!そこで投げる姿もぜひ見せてください。
【カナフレックス】またも阻まれた“1.5次予選”
最後に藤井宏政選手です。カナフレックスの創部時に入団して、ことしが3年目。4月3日には鳴尾浜で阪神ファームと交流試合があり、退団後初めて鳴尾浜のファンの皆さんにユニホーム姿を披露しました。足を痛めていたのに代打で二塁打を放ち、走っちゃったんですよね。その後、ケガは順調に回復して5月のJABAベルース杯にも出場しています。
カナフレックスは滋賀県東近江市に拠点を置くチーム。これが都市対抗の予選ではちょっと難儀なことになるのです。まず滋賀1次予選を勝ち抜くと次が近畿2次…ではなく、その前に『京滋奈1次予選』というものがあり、それを突破してようやく近畿2次予選。もちろん京都や奈良も同じ条件ですけど。カナフレックスの河埜敬幸監督は「1.5次予選」とおっしゃっていましたが、まさにその通りですね。
創部1年目の2014年は滋賀1次予選の2回戦で敗退。2年目は滋賀1次予選を突破、3チーム中2チームが勝ち上がれる好条件だった京滋奈1次予選で連敗し、2次へ行けませんでした。そして3年目のことしは…
《滋賀1次予選》
4/10 準決勝 ○10-2 OBC高島
〃 決勝 ○7-0 全大津野球団
《京滋奈1次予選》
5/12 リーグ戦 ○3-2 大和高田クラブ
〃 リーグ戦 ●3-4 ミキハウスBC
4月10日の滋賀1次予選・準決勝と決勝を難なくクリア、5月12日の京滋奈1次予選に臨んだカナフレックス。いつも通り3チームによるリーグ戦で、まず大和高田クラブに勝ったものの、ミキハウスベースボールクラブに負けて1勝1敗。ミキハウスは2勝0敗、大和高田クラブは0勝2敗という成績で、昨年と同じ2チーム進出ならカナフレックスも行けたのですが、ことしは3チーム中1チームのみ。よって今回も“1.5次予選”で終わってしまいました。
野原選手と同じく『第42回社会人野球日本選手権』を目指して、藤井選手も切り替えていると思います。創部2年目で出場した昨年に続き、ことしも京セラドームへ!阪神OB選手に勢揃いしてもらいましょう。近畿最終予選は9月1日からです。
番外編【胎内市役所軟式野球部】
最後に横山龍之介さんの近況もご紹介します。2012年に阪神を退団したあと地元の新潟へ帰り、胎内市の職員となりました。現在は胎内市教育委員会の生涯学習課スポーツ振興係で仕事をしていて、また胎内市役所の軟式野球チームに所属。先発ピッチャーとして活躍中です。仕事終わりの練習も週3~4日、土日には試合もあり、なかなかハードにやっているみたいですよ。
ちょうど阪神ファームが新潟へ遠征していた今月4日、横山さんは三条パース金属スタジアムへ顔を出し、同級生の荒木選手をはじめ選手たちと旧交を温めました。でも「午後に試合があるから」と観戦はせず。その試合というのが、長岡市で行われた軟式野球の『 国体新潟県予選』で、国体に出場する新潟県代表チームを決めるものです。
4日と5日に6チームによる予選トーナメントがあり、横山さんは5日の試合で先発。「9回投げて2対0で勝ちました」。って、つまり完封したってこと?「そうですね。3安打完封です。久々に9回投げました。春に1試合あって、ことし2回目です」。聞けば結構あるそうです、完投も2日連投も。
国体常連チーム相手に健闘!
そして11日に、昨年優勝で予選免除の北陸ガス、胎内市役所、アルプス電気の3チームで決勝リーグが行われました。1試合目でアルプス電気に勝った北陸ガスと、2試合目に対戦した胎内市役所。ここも横山さんが先発したんですけど…残念ながら4対1で負け。北陸ガスが新潟県代表に決まり、次の北信越大会に進出します。でもまた完投したんですよね?
「はい。2回に4安打で4失点でした。デッドボール、フォアボール、からの」と苦笑い。「そのあと1安打しかされてないんですけど」。え、3回以降は1安打無失点ってこと?うわ~もったいない。「軟式野球を始めてからツーシームを覚えたんです。フォークやスプリットに近い、シュート系で落ちる感じの。この回の配球は真っすぐが多くて、首を振ってツーシーム主体でいけばよかったかな」と少し後悔もしながら、相変わらず生き生きと話す横山さん。
この試合でもし勝っていたら、翌日もう一度対戦することになったらしく「ピッチャーがいないんで、僕が投げたはず」と言います。ひゃ~完投明けの先発って、肩やヒジは大丈夫なの?「それが…まったくケガしないんですよ!ちょっと休みたいからケガしたいくらいなんですけど」と楽しそうに笑いました。
また市役所や水道局、消防署などの軟式野球チームが戦う『官公庁全国大会』は、8月末に東京都大田区で開催予定です。そこに向けた県大会は7月2日と3日に行われるそうで、胎内市役所も3年連続の全国大会出場を目指しています。頑張って投げまくってくださいね。ケガしないように。