学校でのファックスやハンコの廃止、必要なのは「見せしめ」ではなく「実質な支援」である
政府は、教育現場におけるファックスやハンコを使ったやりとりを廃止する方針を決めた。なぜ、これまで廃止はすすまなかったのだろうか。
|なぜハンコ使用はなくならないのか
12月20日に総理官邸で行われた「デジタル行財政改革会議」で、教育現場でのファックスやハンコの使用を2025年度中に廃止し、デジタル化を推し進める方針が決められた。これに対しては、教育現場である学校での事務効率化がすすみ、働き方改革にもプラスになる、といった好意的な受け取り方が多いようだ。
気になるのは、なぜ学校現場でのファックスやハンコの利用が続いているのか、ということだ。「いまだに文科省がファックスやハンコの利用継続を学校現場に無理強いしているのか」とおもってしまうが、そうでもない。
ハンコについては、いまから3年も前の2020年10月20日付で、文科省は「学校が保護者等に求める押印の見直し及び学校・保護者等間における連絡手段のデジタル化の推進について」という通知をだしている。そこには、「押印の省略や学校・保護者等間における連絡手段のデジタル化を進めることは、迅速な情報共有を実現するとともに、学校・保護者等双方の負担軽減にも大きく寄与する」とある。文科省は、ハンコの廃止を求めていたのだ。
にもかかわらず、ここにきて、改めて政府が廃止の方針をあきらかにしたことになるわけだ。
ハンコの廃止が「負担軽減に大きく寄与する」のなら、文科省からの通知もあることだし、学校は積極的に取り組んできてもよさそうなものだ。しかし廃止の方針を改めて政府がだしたということは、学校現場でのハンコ廃止がすすんでこなかったということである。
ファックスやハンコを廃止してデジタル化をすすめるためには、ソフト導入などの環境整備が必要になるし、当然ながら費用の問題がでてくる。そうなってくると、教育委員会も学校も財布に余裕があるわけではないので、簡単に対応できるものではない。文科省は通知をだしたものの、大々的な費用的支援をしたわけではない。そのため、遅々としてすすまなかったといえる。政府として方針を決めても、費用的な支援がなければ、同じことになる。
にもかかわらず政府は、「各学校のデータを集めた一覧表を公開し、対応の進捗(しんちょく)状況を確認できるようにする」(『読売新聞 オンライン』12月18日付)らしい。公表されれば、対応の遅れている学校は批判の目にさらされることになる。いわば、「見せしめ」である。見せしめによって、政府方針の実現を学校や教育委員会に急がせようというわけだ。
デジタル化をすすめることによって学校業務の効率化をはかることは、悪いことではない。しかし、命令するだけでは負担を押しつけることにしかならない。
ファックスやハンコの廃止を政府として本気でやるつもりなら、実施に必用な費用や人の配置まで政府が手配りしなければならないはずだ。必用なのは、見せしめなどではなく、実質的な支援である。それがなければ、学校現場は混乱するだけだ。