イタリアが防空システム3種類「SAMP/T 」「スカイガード」「スパーダ」をウクライナに供与
2月21日、ウクライナの首都キーウを訪問したイタリアのメローニ首相は防空システム3種類「SAMP/T 」「スカイガード」「スパーダ」の供与を発表しました。このうちスカイガードとスパーダは能力的に同じような防空システムで、共にアスピーデ対空ミサイルを使用します。
SAMP/T防空システム
中長距離防空システム。艦対空ミサイル「アスター30(Aster30)」を用いた車載移動式の地上版。イタリア系とフランス系の軍需企業による合弁事業ユーロサムによる開発。
- アスター30 射程100km以上(ユーロサムに出資するMBDA社の公表数値)
アスター30は2段式の対空ミサイルで、発射重量450kgとしてはかなり長い射程100kmを発揮可能とされる。ただし2段式ゆえに最低射程範囲は1段式対空ミサイルよりも長くなる。1段目は大きめのブースターで、2段目のサステナーは機体重心付近にサイドスラスターを持ち機動の細かい修正能力が高い。
- アスター30 Block1 ※短距離弾道ミサイル迎撃対応の改修型
- アスター30 Block1NT ※準中距離弾道ミサイル迎撃対応の改修型
- アスター30 Block2 ※中距離弾道ミサイル迎撃対応の完全新型(開発中)
アスター30には最近開発された弾道ミサイル迎撃対応型があるので、これがウクライナに供与されるならば、迎撃困難なロシア軍の短距離弾道ミサイル「イスカンデル」とその派生型の極超音速ミサイル「キンジャール」、超音速巡航ミサイル「Kh-22」のような高速目標への対応が期待される。ただし対弾道ミサイル戦闘時の有効射程は25km程度(Block2の有効射程は不明)。
※ユーロサムの出資比率はMBDAイタリア33.3%、MBDAフランス33.3%、タレス33.3%。
【名称の解説】
- SAMP/T・・・フランス語で Sol-Air Moyenne-Portée / Terrestre 、地対空中距離/陸上の略。
- Aster・・・ラテン語で星の意味。
- Mamba・・・アフリカ大陸に棲息する毒蛇の名前。コブラ科マンバ属。
フランス空軍では「SAMP/T - Mamba(マンバ)」という名称で呼ばれているが、他国では「SAMP/T」とのみ呼ぶのが一般的。当初計画ではフランス陸軍は「SAMP/T」の名称で採用する予定だったが中止されてしまい、フランスでは空軍のみが採用した結果。
アスピーデ対空ミサイル(Aspide)
アスピーデはアメリカ製のスパローを元にイタリアが独自仕様で生産した準同型の空対空ミサイル。これを艦上/地上発射型の防空システムにも採用している。開発はセレニア社(現在はレオナルド社)。名称はイタリア語で毒蛇(アスプクサリヘビ)の意味。
- アスピーデ 射程15km以上
- アスピーデ2000 射程25km以上 (MBDA社のスパーダ2000防空システムで使用した場合の公表数値)
※全く同じミサイルでも艦上/地上発射型と空中発射型では射程が大きく異なり、空中発射型の方が発射母機の速度と高度が加算されるので射程がかなり長くなる。上記の射程の数字は空中発射型よりも射程が短くなる艦上/地上発射型のもの。
スカイガード防空システム(Skyguard)
スイスのエリコン(会社が買収され現在はドイツのラインメタルの傘下)製の防空システム。元は35mm対空機関砲をレーダー火器管制する地上用の防空システムだったが、後から対空ミサイルも管制できるように改良された。
使用可能なミサイルはスパロー系の「スパロー(Sparrow)」、「アスピーデ(Aspide)」、「スカイフラッシュ(Skyflash」。
※スカイガードはスイス製の防空システムであるため、スイスが兵器移転許可を出さない場合はウクライナに供与できない可能性がある。
スパーダ防空システム(Spada)
イタリア空軍向けにセレニア(現レオナルド)が開発したものでアスピーデ対空ミサイルを使用する防空システム。レーダー、火器管制もイタリア製。名称はイタリア語で「剣」の意味。
なおイタリア陸軍はスカイガードを採用しているので、同じミサイルを用いる同じような能力の、仕様が異なる防空システムを空軍と陸軍がそれぞれ保有していたことになる。おそらくは航空基地を守る目的の空軍と野戦軍に随伴させる陸軍との要求仕様の違いによるもの。
※スパーダはイタリア製の防空システムであり、イタリア政府の意思さえあればウクライナ供与に障害が無い。
スパーダ2000防空システム(Spada2000)
MBDAイタリアがスパーダを元に改良したもの。アンテナを伸縮ブームで最大13mまで高く持ち上げるレーダーを用意することで上から見下ろせるようになり、低空飛行目標に対する検出能力が改善されている。使用ミサイルも新たにアスピーデ2000を用意。
L' Artiglieria Controaerei di oggi 「今日(こんにち)の対空砲」:Esercito Italiano (イタリア陸軍)
- 00秒~29秒:スティンガー携行地対空ミサイル
- 30秒~50秒:スカイガード防空システム
- 51秒~1分04秒:SAMP/T防空システム
- 1分05秒~1分51秒:ドローン警戒システム、対ドローン電子妨害銃など