稲垣啓太、手術していた。ワイルドナイツ日本一の裏にタックルの改善も。【ラグビー旬な一問一答】
5月29日、東京は国立競技場。国内ラグビーの最高峰であるリーグワン1部のプレーオフ決勝があった。
埼玉パナソニックワイルドナイツの稲垣啓太はタフな左プロップのポジションながら80分フル出場。タックル、肉弾戦で渋く光り、東京サントリーサンゴリアスに18―12で勝った。
日本代表として通算2度のワールドカップに出場してきた31歳は、ミックスゾーンで思いを述べた。自らのタックルについて語る延長で、昨秋の代表活動の前は満身創痍であった旨も明かした。
以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。
――初代リーグワン王者になりました。
「嬉しいです。初代って、なんか、特別感、あるんじゃないですか。僕、そこまで特別感にこだわりはないんですけど、一発目に優勝するって、価値があると思うんです。注目されるなかで優勝したことは、自分たちの価値をさらに高められ、自分たちの魅力をさらに伝えられたんじゃないかと思います」
――80分間フル出場。前半終了間際のピンチの場面をはじめ、素晴らしいタックルを重ねていました。
「(相手が)来たから、いっただけです」
いったん、眉間にしわを寄せて声をこわばらせ、記者団を笑わせてみる。トーンを戻して語ったのは、ここまでの歩みについてだった。
「タックルというのは、一生、持ち続けなければいけない課題でした。どういった局面でどういったタックルをしなければいけないか、ずっと今季、考えてきました。
前回(昨秋)の代表から、自分のタックルにあまり魅力を感じないというか。あまり効果的ではないと感じていたので、何をすれば効果的になるかを考えてきた。今日は何本か、効果的なものがあったんじゃないですか」
――タックルをどう修正したのでしょうか。
「相手にいかに近づけるかどうか。僕らは(相手を)掴めれば何とでもできる。フィジカルで。それくらいの自信を持っている。ただ、相手にどれくらい近づけるかというのは、(接点からの相手の)球出しのタイミングを読むこと、(攻撃側の)立ち位置、そういったことをすべて事前に把握しないといけない。…タックルに入るまでのプロセス、(自身の)立ち位置を見直した、ということです」
――「立ち位置を見直した」。具体的には。
「味方が(接点で球に絡んで)時間を稼いでくれれば、立ちたいところに立てます。僕は基本、相手(ボールをもらう選手)の外側に立つ。ただ代表戦では、外側に立てないシチュエーションが多かった。ブレイクダウン(接点)で時間をかけられなかったからです。それで、外追いになってしまった。相手と正対できずに入るから、食い込まれるか、(自身の)内(側)を切られる(破られる)か、とふたつの選択肢を与えてしまう。
毎回、外に立って、相手の選択肢をひとつに絞る。すると僕も『(内側か、外側か)どっちかに行く』ではなく、『(内側のコースを)片方だけ固めておけば』と、より効果的に行ける…それだけです。たぶん皆やっていることですが、それを80分どういった局面でもできるようにする」
――どんな状況でも「外側」に立つ。そのために。
「よく(全体)練習が終わってから、アサエリ君(日本代表でもある右プロップのヴァル アサエリ愛)と一緒に(個別トレーニングを)やっていました。僕らのポジションって、フォワードとフォワード同士の、(自分のところに)来るとわかり切っているところでのコンタクトが多いんですが、(個別トレーニングでは)バックスに(攻撃役として)立ってもらって、早い球出しのなかでディフェンスをしました」
取材が進むと、タックルの改善は技術的な見直しだけによるものではないとわかる。
話題に挙がった昨秋の日本代表の活動を前に、稲垣は右ひじ、右アキレス腱にメスを入れていたと明かした。
――いま、身体の状態は。
「万全だって言いたいです。前回の代表戦の前に2か所、突貫で手術して、身体は6キロしぼみましたかね。なかなか難しい代表活動でした。怪我は何の言い訳にもならないですし、自分がこの手術が必要だと思ってやっただけで。ただ、思った通りの仕上がりにはならなかった。(本調子と比べ)70パーセントで、自分のなかでの『100』を作った」
――そのきつい状況で、代表活動を辞退しなかったのはなぜでしょうか。
「やらないと意味ないですから。やり続けることに価値があるので。怪我をして休んでいる間は、選手でも何でもない。怪我をしていても自分のなかで『100』を作っていくのが選手の役割。本当に無理な時は仕方がないですけど、自分ができると判断したらやるべきです」
――ちなみに今の状態は何パーセントか。
「すでに『100』です。『100』って思ってます」
今度の日本代表は6月3日に集合。フランス代表などと国内でぶつかる。