汚れたタッグ~医師と製薬企業の錬金術を許すな
反省しない医学界
この薬は素晴らしい効果があるのが研究でわかりました!研究した人は薬を作った会社とは関係ありません!
ところが、実は製薬企業から研究者たちに資金提供がなされていたとしたら…そんな研究信頼できるかって話になる。ノバルティスファーマの高血圧症治療薬「ディオバン」に関する事件では、ノバルティスファーマから研究を行った大学の研究室に資金が提供されていたことが隠されていたうえ、元同社社員が研究に関わりデータを加工していた。
だから、研究をするときには、どの会社からお金をもらったかを明らかにしなければならない。企業と大学などの研究者が共同研究することは悪いことではない。関係を隠すことが問題なのだ。
医学界はディオバン事件で反省したはず…そう思っている人も多いだろう。
甘かった…
医学界は何も反省していないと思わざるを得ない疑惑が、今取りざたされている。
今度は中外製薬
今回疑惑が取りざたされているのは、中外製薬のがん治療薬「ゼローダ」をめぐる臨床試験だ。
今年の6月に、医学界の最高峰とされる論文誌「New England Journal of Medicine」に、この「ゼローダ」が乳がんに効果があるという論文が掲載された。
論文を書いたのは日本の医師、研究者たちだ。論文には「Supported by a grant from the Advanced Clinical Research Organization and by the Japan Breast Cancer Research Group.」と書かれており、中外製薬とは関係ないとされる。
ところが、この団体に中外製薬から3億円以上の資金が提供されている。しかも、この団体には、論文に名を連ねた医師らが所属しているという。そして、論文を執筆した医師たちは、中外製薬から多くの謝礼を得ているという。
- 中外製薬が抗がん剤で「研究不正」「カネまみれ」医学界との癒着は続く
- Conflict of Interest and the CREATE-X Trial in the New England Journal of Medicine
いわば「迂回献金」のようなことが行われているということだ。
しかも問題はこれにとどまらない。
通常臨床研究は研究者が得た研究費や企業の研究費、もしくは患者のお金で行われる。ただ、「学術上の根拠と薬理作用」があるなど基準を満たせば公的保険から薬の価格が支払われる。
「ゼローダ」は、手術不能又は再発乳癌に関しては使えるが、今回の臨床研究の対象となった乳がん術後補助化学療法には使えない。
「ゼローダ」は臨床試験の段階では、「学術上の根拠と薬理作用」となる外国のデータなどもない状態であった。だから保険適用外だ。
ところが、論文中に公的保険で薬の価格を支払ったと明記されている。これは療担規則違反になる。
本来は自らのお金で臨床試験を行うべきところを、公的保健から薬価を支払わせて、研究費を浮かせたということになる。
氷山の一角
実は、選択12月号の記事「製薬会社と医師「薬価詐取」の底なし 臨床研究不正を放置する厚労省」によれば、「ゼローダ」でみられた構図~「迂回献金」と公的保険の不正使用~はほかでも行われており、「ゼローダ」は氷山の一角にしか過ぎないと言う。
現在日本では、企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドラインに基づき、製薬企業が医師、研究機関にいくらお金が支払われたか公開されることになっている。
しかし、このガイドラインには抜け道がある。公開が製薬企業のホームページに公開されるうえ、年間の総額が公開されるだけだ。
これはアメリカの連邦法サンシャイン条項とは大違いだ。
サンシャイン条項では、すべての医師に支払われた、接待費も含めた10ドル以上の内訳が、公的ホームページで公開されるのだ。
日本では、製薬企業と医師たちの関係が不透明だと言わざるを得ない。日本でもサンシャイン条項並みに情報は公開されるべきではないのか。
また、日本の医師たちも、製薬企業との関係を自覚するべきだ。
医学生から始まる会議での弁当の提供、薬の名前の入ったボールペン、タクシーチケットなどは、低額でも贈与だ。こうした贈与は、何らかの形で医師に影響を与える。
常態化する医師と製薬企業の不適切な関係は、こうした低額の贈与から始まっているのだ。低額とは言え、サンシャイン条項なら公開されるレベルだ。
まずは徹底的な透明性を義務化することから始めるべきだろう。
本記事は、南相馬市立総合病院外科の尾崎章彦医師から情報をご提供いただいた。尾崎章彦医師は、本日12月2日に開催される「現場からの医療改革推進協議会 第十二回シンポジウム」にて、本記事に関連した発表をされる予定だ。