「スシロー」快進撃と「くら寿司」出店強化 回転すし業界に寡占化の兆しあり
回転すしは今日100席を超す大型店舗が本流となっているが、最近ここに新しい現象が見られてきている。
まず、テイクアウト・デリバリーを積極的に切り拓いていること。これはコロナ禍で減少する店内の売上を補うためと新しいキャッシュポイントを育てる施策だ。
次に「非接触」。これは「自動受付」「座席案内」「タッチパネル注文」「自動会計」と顧客が入店してから会計に至るまで、従業員と接することなく食事を楽しむことができるというシステムだ。コロナ禍で感染予防対策の進んだ形であるが、これはコロナ禍以前から人手不足対策として準備されていて、それがコロナ禍で導入する店舗が一気に増えた。
さて、もう一つの大きな現象。それは業界の寡占化が進んできているということだ。
スシロー、くら寿司ともに都市型を開拓
回転すしを事業とする株式公開企業のランキングは以下のようになっている(数字は売上高〈決算期〉と店舗数〈直近〉)。
第1位:FOOD & LIFE COMPANIES/2049億5700万円〈2020年9月期〉、538店〈2021年3月末、スシロー業態のみ〉
第2位:くら寿司/1358億3500万円〈2020年10月期〉、485店〈2021年4月末〉
第3位:カッパ・クリエイト/648億8100万円〈2021年3月期〉、314店〈2021年3月末〉
第4位:元気寿司/382億5200万円〈2021年3月期〉、165店〈2021年3月末〉
これらの上位4社は冒頭で述べたことを実践していて、さらに第1位のFOOD & LIFE COMPANIESの事業会社であるあきんどスシローと第2位のくら寿司では「都市型店舗」を推進してきている。
この両社ともに都市型とは、標準的な一皿の価格を1~2割高く設定している店のことをいう。通常型が100円(税込110円別)からなのに対して、スシローは120円(税込132円)、くら寿司は110円(税込121円)である。
FOOD &LIFE COMPANIESの2020年9月期では、国内スシロー事業で新規出店33のうち都市型は13店舗となった。2021年9月の上半期は新規出店24で都市型は5となっている。
くら寿司では今年初めて都市型を出店し、1月14日に「渋谷店」(159席)と「西新宿店」(192席)を同時にグランドオープンした。以来、くら寿司ではこのタイプを1月28日「武蔵小杉店」(219席)、2月4日「小岩駅前店」(210席)、2月5日「赤羽東口店」(187席)、4月22日「道頓堀店」(204席)、5月20日「高田馬場店」(267席)と出店している。
スシローではこの3月18日に伊勢丹新宿店の向かい側地下1階に170坪208席という「新宿三丁目店」をオープン。TBSの番組でオープン1カ月前からのメイキングが放送されたが、このオープン初日の客数は1022人であった。あらゆる数字が驚異的である。
6月にはくら寿司「渋谷店」が営業しているビルの隣にスシロー「渋谷店」がオープンする。こちらは100席強と超大型ではない。
スシロー、くら寿司ともに新規出店には積極的であることから、コロナ禍が明けてから他の回転すし企業との差が大きく広がることが予想される。
ベストな物件が取得しにくい都市型出店
そして、両社とも都市型を出店できるようになった背景として、筆者は次のようなストーリーを考えた。
「1990年代、都心部に大衆居酒屋チェーンが150坪、200坪という大箱の店舗を構えたが、これらの主要客層が中高年となることで顧客離れが生じて撤退するようになり、老若男女に愛される大衆価格の回転すしチェーンが進出できるようになった」と。
しかしながら、物事はこのように単純なものではないようだ。FOOD & LIFE COMPANIES の執行役員店舗開発・設計管掌の永井敏行氏が「当社は原価率50%で営業している業態。だから、効率よく回転率を上げるという特殊なモデルをつくっている」と前置きしてこのように解説してくれた。
「それをやり切るために、当社では回転レーンの形をE型で3本並べたものを開発。1列には6卓があり、全部で30卓、他にカウンター席。店舗規模は120坪で196席の正方形。これが当社が生み出した最も効率を高めるための究極の形なのです」
回転すしがこれまでロードサイドに出店してきた背景には、この120坪に見合う敷地が確保でき、そこにE型回転3本の6席30卓とカウンター席を当てはめると「スシロー」が完成するという仕組みが挙げられる。
一方、都市型の場合は物件ありきである。店づくりで都合のよい120坪で正方形の物件が確保できるということはほとんどありえない。回転すしチェーンの都市型展開が遅れた理由がそこにある。とは言え、都市型では顧客は車を利用していないのでアルコールの売上は期待ができる。そこで同じターミナルに複数店舗が出店し、面で市場を捉えるようになっている。
積極的な出店が売上を引き上げる
さて、FOOD & LIFE COMPANIESの2021年9月期上半期決算は次のようになっている。
・売上収益: 実績1,190億42百万円/前年比+10.1%
・営業利益: 実績 131億14百万円/前年比+59.2%
・税引前利益:実績 124億14百万円/前年比+57.5%
・当期利益: 実績 77億60百万円/前年比+52.7%
実に好調である。この要因として、コロナ禍においても出店を加速したことを挙げている。また、国内のスシロー店舗では上期の既存店売上高101.7%と前期を上回った。
さらに、前期に開発されたTo Go型店舗(テイクアウト専門店)を「JR我孫子駅店」「JR神戸駅店」「JR六甲道店」3店舗出店。いずれも改札口から徒歩1分以内の場所にあり、近隣のスシロー店舗でつくられたすしを販売している。今期は積極的に出店していくという。このタイプは駅ナカ・駅前ビルなどのスシロー既存店ではカバーしきれなかった立地に出店していくという。この7月には、東京駅八重洲口にTo Go型店舗の機能を持った回転すしのスシローをオープンする予定。
そして、京樽が4月1日から事業会社となり、上方すしのテイクアウトや都市型で小型の回転すしを展開、これによって回転すしをはじめとしたあらゆるすしの市場を網羅していく構えだ。
このように回転すし業界の話題はFOOD & LIFE COMPANIESが多くを占めるようになっているが、その一番の要因は積極的な出店に他ならない。これがきっかけとなり寡占化がますます顕在化していきそうである。