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なぜ飛行機マスクトラブルは起きるのか:新型コロナと日本人の心理

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
写真はイメージ(コロナ禍でも安全で快適なフライトを)(写真:PantherMedia/アフロイメージマート)

<マスクは大切だが絶対ではない。安全はもちろん大切だが、対立ではなく、相互理解と協調を進めて、健康と平和を守りたい。飛行機の中でも。私たちの街でも、国でも。>

■飛行機マスクトラブル

飛行機のマスクトラブルが続きました。そして、この問題には多く人が注目し、ネット上でもたくさんの意見が寄せられています。

まず、乗客がマスク着用を拒否したことをきっかけに、飛行中の機内で大声を出して威圧したとして、安全のために臨時着陸したピーチ・アビエーション機。

さらに数日後、マスクをしていない乗客を「安全阻害行為にあたる」として、離陸前に降ろした北海道エアシステム機。

初めのピーチ機の乗客は、機内のマスク着用は非科学的だと述べるなど、マスクに関するご自身のポリシーがあったようです。

乗客がマスク着用拒否で旅客機が臨時着陸:マスクトラブルと解決への心理学

次の北海道の乗客は、機内でマスクをして気分が悪くなり気を失ったことがあったとして、マスク着用を拒否したようです。ただし、そのような説明を機内では十分にしていません。

マスク拒否の男性下ろす HAC「安全阻害行為にあたる」 北海道奥尻函館:STVNEWS>

飛行機はお客様第一ではなく、安全第一であるべきですから、たとえば酔って騒ぐような乗客がいた場合も、機内から降ろしたらり、身体拘束も考えられるでしょう。ただ今回のマスク騒動は、飛行の安全だけでない社会問題にもなっています。

■飛行機内のマスクは非科学的か

マスクに関しては、様々な議論がありました。今もあるでしょう。ただ、新しい生活様式にもあるように、「症状がなくてもマスクを」ということで、一応落ち着きました(「外出時や屋内でも会話をするとき、人との間隔が十分とれない場合は、症状がなくてもマスクを着用する。ただし、夏場は、熱中症に十分注意する。」)。

飛行機内でも、マスクをした方が良いでしょう。国内各航空会社も、義務化はしていませんが、マスク着用を要請しています。ただ飛行機に関しては、ウイルスを捕捉するフィルターを使用しており、他の乗り物よりも感染の危険性は低く、「一般的に航空機内では感染は伝播しにくい」と専門家は述べています。

航空機内ではマスクを着用した方が良いのか? 忽那賢志氏(感染症専門医)

■それでも機内ではマスクを?

飛行機内でマスクをしないと医学的にみて非常に危険だということならば、絶対に着用してもらわないといけないでしょう。ただ、この辺は少し微妙です。

機内でも、飲食時にはみんなマスクを外します。国内各航会社も、マスクを着用しないと絶対に搭乗させないとは言っていません。

ANAは、「マスク等を必ずご着用」と乗客に「お願い」していますが、その理由は、科学的論争を避けるかのように、「お客様同士のご不安解消のため」としています。

また、マスク「等」には、フェイスシールド、マウスシールドを含め、その上で、

「着用が難しい理由があるお客様は除きます」「マスク等を着用されないお客様〜のご搭乗をお断りする場合がございます」としています。

ANA「ご搭乗に関するお客様へのお願い」

実際に機内でマスク着用を拒否した乗客がいる場合は、JALもANAも、マスク着用のお願いはするが、それ以上のことはできないと、広報担当が答えています(飛行機内でマスク着用しないとどうなる?JALやANAにルールを聞いてみた:9/11ハフポスト)。

マスクのお願いはされていますが、絶対ではないマスク。それなのに、なぜトラブルになるのでしょう。なぜ人々は注目するのでしょう。

今回の2つのケースも、マスクを着用していないから降ろされたのではなく、その後のさらなるトラブルが原因です。

■マスクを着用しない人々、着用しない方が良いとき、マスクが着用できない人々

マスクをしたくないと、強く主張する人々がいます。海外では、人権問題を持ち出し、反マスク運動をしている人もいます。日本でも、強い要請がないところではマスクをしない人もいますし、今回のように要請があっても、しない人もいます。

マスクをしない方が良い人、良いときもあります。厚労省と環境省は、「熱中症を防ぐためにマスクを外しましょう(ウイルス感染対策は忘れずに)というポスターも作っています。

子供が体育の授業で運動するときも、マスクを外しましょうと言われています。乳幼児もマスクは不要です。

その他、内科的理由、皮膚科的理由などで、マスク着用が難しい人もいるでしょう。マスクは肺に負担もかけます。

発達障害や、感覚過敏などの理由で、マスクをしづらい人もいます。

マスクをしていると息苦しいのは誰でもそうですが、その苦痛具合は、人によって異なります。

ある人は、美容院でシャンプーをしてもらうときに顔にかけられるタオルが、とても辛くて我慢できないと言います。肺などの呼吸器に問題があるわけでなく、心の問題です。

今回の乗客も、飛行機内でマスクをしていて気を失ったことがあると語っていますが、人々は様々な苦しさ、生きずづさを持っているものです。

できるだけ人には迷惑をかけないようにしたいと思いますが、様々な事情の人がいることを理解することは、トラブル防止につながるでしょう。

■飛行機マスクトラブルへの人々の声

堀江貴文氏は、「マスク同調圧力やめてほしい」と述べ、次のように語っています。

「マスク外してる飛行機の客にCAがしつこく着用要請するケースはだいたいが近くの客によるクレーム。その人に近づきたくなきゃそのクレームつけた客を移動させればよいだけ」「実際昨日のANA便はそうしてたのみかけた」。

堀江氏、再発した飛行機内のマスク問題に「ほんとマスク同調圧力やめてほしい」9/13デイリー

プレジデントオンラインでは、ちょっと刺激的な大見出しと小見出しで、「マスク拒否おじさんにむしろエール」「場の調和を乱す厄介者としてバッシング」「マスクは局部を隠すのと同じレベルになった」として、むしろ社会の風潮を問題視する記事を掲載しています

私は緊急着陸を招いた「マスク拒否おじさん」にむしろエールを送りたい9/12プレジデントオンライン

ヤフーコメントなどでは、マスク着用を拒否した乗客に対する厳しい意見が目立ちます。

ピーチ・アビエーションの報道に対しては、

「密室状態でマスクを着けなければ、他の乗客乗員に危険が及ぶ」

「名前さらしてほしい」

「今後当分の間、各空港で出禁にしたい」

「損害賠償をしっかりして欲しい」

北海道エアシステムの報道に関しては、

「医師の診断書を持参していて事あるごとに提示すればいい」

「社会に無駄に反抗している風にしか見えない」

「持病や障害を持ち出せばなんでも許されるわけではない」

「迷惑な悪質クレーマー」

これらの投稿には、いずれも多数の読者から「そう思う」が付けられています。

■なぜマスクトラブルは起こるのか

マスクは、新型コロナウイルス感染予防活動の象徴です。予防ポスターなどに、マスクの絵はよく使われます。

またマスクは、新型コロナと闘う日本人一致の象徴なのかもしれません。

本来は、マスクは感染予防のツールの一つのはずですが、調査によると、日本人がマスクをする理由は、感染予防よりも、「みんなが着けているから」です(同志社大学の社会心理学者、中谷内一也教授の研究)。

私たち日本人の中には、人の目を気にして、マスクを外せない人もいるでしょうし、マスクをしていない人を、激しく責めたくなる人もいるでしょう。

マスク着用は大切なのですが、まるで、マスクは「神聖にして侵すべからず」のような存在になったのかと感じて、反発を感じる人もいるようです。

新型コロナの感染が広がる中、新しい生活様式や、知事、総理らによる、様々なお願い(要請)が出されてきました。多くの日本人は、法的な罰則があったり、銃を持った兵士が街に出てこなくても、要請に従いました。

それはとても良いことです。誇るべき日本の優れた国民性です。

その一方で、要請に従わない人たちに対して、「自粛警察」など呼ばれる行為も散見されました。県外ナンバーの車に石をぶつける人もいましたが、なぜその車がここを走っているのかは、あまり考えなかったようですが。

自粛要請をしても、要請に従わない人がいることから、強制力のある法改正を求める声が、右からも左からも出ました。

和を重んじ、一致することが好きで、同調行動を求めるのも、日本の国民性の一つかもしれません。

しかし当然、そんな雰囲気への反対者も出ています。

飛行機は、途中下車もできず、席の移動も勝手にはできず、そして機長に大きな権限が与えられています。その中で、マスク着用を拒否している人がいることは、私たちの心を刺激するのでしょう。

マスクを絶対するべきだという声が大きくなるほど、マスクをしたくないという強固な意見を述べる人も出てきてしまいます。

世の中には様々な人がいます。その人々が、一定時間密室に共にいることになるのが、飛行機です。大切なのは、より良いコミュニケーションでしょう。

マスクをしたくない、マスクが辛くてできないと感じる人がいます。一方、近くにマスクをしていない人がいると、とても不安だと感じる人もいます。この人々が、共に同じ飛行機に乗るためにはどうしたら良いのか。法律やルールで禁止や義務化ができないなら、話し合うしかありません。

ルールやマナーを破る人は困ります。迷惑行為はやめて欲しいと思います。

ただそれでも、マスク着用は大切ですが、絶対ではありません。医師の診断書を持参していて事あるごとに提示しなければならない世の中は、息苦しい世の中ではないでしょうか。息苦しいのは、マスクだけで十分です。

病気や障害があれば何でも許されるわけではありませんが、マスクや感染予防のためなら、どんなことでも許されるわけでもありません。

安心安全は大切です。フタッフの毅然とした態度も大切です。そして、対立ではなく、相互理解と協調も大切です。飛行機の中でも。日本という島国の中でも。

互いに助け合い、新しいルールとマナーをみんなで作り、平和と安全を守りたいと思います。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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