航空機内ではマスクを着用した方が良いのか?
9月7日に釧路空港発 関西空港行きのピーチ・アビエーションの機内でマスク着用を拒否し、威嚇行為のため新潟に着陸し降ろされたという事例が報道されました。
マスク着用を拒否したことよりも、威嚇行為が安全阻害行為に当たるということでこうした対応になったようですが「航空機内でのマスク着用は非科学的だ」というこの方の主張は正しいのでしょうか?
それとも航空機内でマスク着用はした方が良いのでしょうか?
機内で新型コロナウイルスに感染したかもしれない事例
機内でコロナに感染した「かもしれない」事例は海外で報告されています。
シンガポールから中国に飛んだ民間航空機に乗っていた325人のうち、12人が感染したと考えられる事例です。
乗務員は全員マスクを着けていたものの、1月当時は乗客にはほとんどマスクを着けていた人はいなかったようです。
武漢からシンガポールに旅行していた人が感染源と考えられ、この人から11人に広がったものと考えられています。
この事例は本当に機内で感染したのか、例えば空港の待合で感染したのか、はっきりと断定することはできませんが、感染源と考えられる方が機内でマスクをしていなかったことが一因である可能性はあるでしょう。
また、イタリアから韓国への航空機内でも、無症候性感染者から1人が感染したと考えられる事例が報告されています。
この便では乗客全員にN95マスクが提供され、ほとんどの乗客は食事時とフライト中のトイレ使用時を除き、N95マスクを着用していたとのことです。
感染源と考えられる人との距離も離れており、トイレの使用による環境からの接触感染が原因ではないか、とこの論文では結論づけています。
一般的に航空機内では感染は伝播しにくい
インフルエンザやSARSなどの他の呼吸器感染症の機内感染に関するこれまでの研究では、呼吸器感染症の患者の近くに座ることが感染の主要な危険因子であることが明らかにされており、例えばSARSの機内での感染事例では、感染源の乗客の周辺に限局していました。
航空機では一般的に客室の空気は2-3分ごとに完全に入れ替わっています。空気を50%は機外に出し、50%再循環させていますが、再循環させる際にはHEPAフィルターを通過させています。
ウイルスもこのHEPAフィルターで捕捉されると考えられており、機内での感染拡大は少ないとされています。
また、エアロゾル感染と考えられる座席の離れた乗客への感染もほとんど報告されていません。
厚生労働省のクラスター事例集でもバスツアーでのクラスターが紹介されており、海外では空気を再循環させたバスでの新型コロナ集団感染が報告されていますが、これはバスではHEPAフィルターが使用されていないことに起因している可能性があります。
というわけで、航空機内での感染はむしろ他の乗り物よりは少ないと言われています。
航空機内ではマスクを装着すべきか?
では航空機内ではやはりマスクを装着した方が良いのでしょうか。
新型コロナでは、発症する前の症状がない時期にも感染性があることから、人が密集した場所や屋内では症状がない人も含めてマスクを装着する「ユニバーサルマスク」という考えが新型コロナ以降定着してきており、それを支持する科学的根拠も集まってきています。
機内で大声で喋るような方や咳が出ている方は、周辺に飛沫が飛ぶ可能性がありますので、マスクを装着した方が良いでしょう。
しかし、咳などの症状もなく、喋ることもないようであれば、理論的にはマスクを装着しなくても換気の良好な機内では感染拡大のリスクは低いと考えられます。
もしかしたら報道された「非科学的だ」とおっしゃっていた乗客は、ここまでご紹介したエビデンスに基づいて言っていたのかもしれません。
しかし「機内ではマスクを着用しなくて良い」というほどのエビデンスは現時点ではありませんので、特にマスク着用に抵抗のない方は着けておく、マスクを着けたくない事情のある方は添乗員さんに事情を説明し食事中以外はできるだけ喋らない、などの対応で良いのではないかと思います(というのは理屈の上での話であり、実際には航空会社によってポリシーが異なりますので、マスク着用の必要性については搭乗される航空会社にご確認ください)。
マスクの有無も大事ではありますが、それに加えて前述の事例のように環境からの接触感染も起こりえますので、トイレ後の手洗いなども重要です。