藤井聡太竜王が制した棋王戦五番勝負を総括。渡辺明名人は名人戦で巻き返しなるか
第48期棋王戦コナミグループ杯五番勝負は第4局が19日(日)に行われ、挑戦者の藤井聡太竜王(20)が勝って通算3勝1敗で奪取に成功した。
渡辺明名人(38)は棋王11連覇ならず。タイトルは名人のみとなった。
全4局すべて角換わりとなった本シリーズ。
記憶に残る熱戦も多く、頂上決戦と呼ぶにふさわしい五番勝負だった。
ここから五番勝負を振り返るとともに、4月から両者の間で行われる名人戦七番勝負についても展望していく。
角換わりシリーズ
まずは戦型にご注目いただきたい。タイトル戦で全対局が同じ戦型になることはかなり珍しい。
それだけ角換わりがいまのプロ棋界、そしてトッププロにおいて重要な戦法であることがうかがえる。
全4局とも、先手が銀を5六に使って「腰掛け銀」の形を作り、右側は互いに一段飛車+二段金にかまえた。
序盤の形が同じでも、その後の僅かな手順の違いで全然別の展開になるのが将棋の不思議なところであり、面白いところだ。
先に攻撃を仕掛けたのは、第1・2・4局が渡辺名人、第3局が藤井竜王だった。
第3局も渡辺名人が仕掛けを誘う作戦であり、どの将棋も渡辺名人が主導権を握って局面を動かしていたといえる。
角換わりは序盤から角を手持ちにしてどこにでも角を打てるため、攻撃的な戦法だ。そして攻めの威力が強いため、角換わりでは基本的に先攻有利とされている。
しかし面白いことに、4局とも先に仕掛けたほうが不利に陥った。
これがトッププロならではなのか、角換わりの奥深さなのか、両者の棋風の相性なのか、それはわからない。
あくまで結果論ではあるが、積極的な作戦を採った渡辺名人にとって悪い流れだったといえよう。
将棋内容
改めて五番勝負の表を見ていただくとともに、内容に触れていこう。
第1局は前例から離れてから早い段階で藤井竜王がリードを奪って快勝。
第2局も早い段階で藤井竜王がリードを奪い、渡辺名人も粘りを見せたが藤井竜王が押し切った。
第3局はシリーズ随一の熱戦となった。終盤の入り口で渡辺名人がリードを奪い、そのまま押し切るかに見えた。しかし藤井竜王の粘りの前に、秒読みに追われた渡辺名人が勝ちきれず逆転。
詰み筋が現れたときはまさかそれを詰みの名手である藤井竜王が逃すとは、観ている人は誰一人思わなかっただろう。私も驚いた一人だった。
第4局は渡辺名人が先手番で先に攻撃を仕掛け続け、終盤まで互角に近い緊迫した将棋だった。終盤、渡辺名人が秒読みに追われたことで形勢のバランスを保ちきれず、最後は藤井竜王が押し切った。
結果として、第2局以降はすべて後手番の棋士が勝利した。
トップ同士の対戦では先手番の勝率が高いことが知られており、この結果は意外性もある。
そしてこの二人の対戦では後手の勝率が高く(約7割!)、渡辺名人は藤井竜王に対して先手番で一度も勝っていない(10戦全敗!!)。
名人戦七番勝負に向けて
このシリーズは局を追うごとに将棋の内容が競ったものになっていった。これは4月から両者の間で戦われる名人戦七番勝負がより盛り上がる内容になることを暗示していると思う。
持ち時間が9時間に増える(棋王戦は4時間)のも今回との違いだ。
第3・4局と、渡辺名人は持ち時間が切迫した場面でミスを出していた。
単純に、「持ち時間が増える=時間を残せる」とはいかないものの、渡辺名人にとって明るい材料といえる。
先ほども述べたように、この両者の対戦では後手の勝率が高い。そして先攻したほうが負けるケースが多いようだ。
これまでの対藤井竜王では作戦の主導権を握って局面を動かしてきた渡辺名人だが、データを見る限りもう少し藤井竜王に動かせたほうがいいかもしれない。
藤井竜王は2023年初頭から渡辺名人とともに羽生善治九段(52)ともタイトル戦を戦ってきた。
この二人と同時並行でタイトル戦を戦ったことで、藤井竜王はさらにパワーアップしたことだろう。
持ち時間が長くなるのは、渡辺名人だけでなく長考派の藤井竜王にとっても好材料といえる。
将棋内容にさらに磨きがかかるのは間違いない。
名人戦七番勝負は4月5・6日に幕を開ける。
藤井竜王が谷川浩司十七世名人(60)の持つ最年少名人記録を更新できるラストチャンスであり、最年少七冠なるか、という点と合わせて過去に類を見ないほどの注目を集めるシリーズとなるだろう。
今から開幕が待ち遠しい。