インスタ女子が人気をけん引!城下町・犬山はなぜこんなにブレイクしたのか?
犬山城の来場者は10年で3倍、城下町の観光客は5年で2・5倍に!
国宝・犬山城をシンボルに仰ぐ愛知県犬山市。その人気がうなぎ昇りです。犬山城の来場者は2017年に57万人超を記録。4年連続過去最高記録を更新し、11年連続前年増を続けています。史上最低の19万人だった2003年から3倍もアップしているのです。
城下町の活況ぶりはさらに顕著です。中心となる本町通りの店舗数は2003年は15店舗程度でしたが、今やおよそ65店舗。そして2012年に1日平均約1700人だった歩行者数は2017年には4500人以上と何とわずか5年で2・5倍にも急増しています(土日祝を中心とした歩行者天国開催日実績)。
「ハートの絵馬」「着物」「串グルメ」でインスタ女子の心つかむ
この人気をけん引しているのがインスタ女子です。ここ2、3年は20代を中心とした若い女性の姿が非常に目立つようになっています。彼女たちの求めるインスタ映え要素は「ハートの絵馬」「着物」「串グルメ」です。
「ハートの絵馬」があるのは犬山城の立つ丘のふもとに鎮座する三光稲荷神社(さんこういなりじんじゃ)。境内の摂社である姫亀社には縁結びのご利益があるとされ、6年前にハート型のピンクの絵馬を用意したところ、これが「かわいい!」とSNSで話題に。観光情報サイト・スナップレイスが選ぶ「2017年SNS映えスポットランキング」では堂々全国3位に輝きました。
ここを訪れる女性たちがさらなるインスタ映えを狙って利用するのがレンタル「着物」です。城下町界隈では一昨年頃からレンタル着物サービスが次々に登場。ヴィヴィッドな色柄の着物を用意する店も多く、城下町の中でいっそうカメラ映えする効果をもたらしています。
もうひとつが「串グルメ」。犬山はもともと豆腐を串に刺したでんがくが郷土料理であることから、2007年からご当地グルメとして串グルメを売り出しました。今では約40店舗が様々な串物を販売する中、「茶処くらや」がスイーツ感覚のカラフルな恋小町団子を売り出すとこれまた話題沸騰。休日ともなると大行列ができる人気店となっています。他店もこれに負けじとアイデアを凝らしたメニューを開発し、ユニークな串グルメを片手に散策することが、必須の楽しみ方となっています。
空き店舗対策や鉄道とのタイアップ。復活の足がかりはまず地元から
さて、いかにも時流に乗ってブームになったかのようにも映る現在のブレイクぶりですが、これにいたるまでには実は地道な努力の積み重ねがありました。
「犬山の観光は昭和40年代が黄金期で、その後長期的に右肩下がりの傾向にありました。城下町は閑散とした寂しい雰囲気で、お城だけ見て帰ってしまう人がほとんど。そこで、もっと周辺も含めて楽しんでもらえるよう、城下町の魅力向上や、明治村やリトルワールドなどの周辺施設とのセット券を売り出すなどして、犬山観光のエリアを広げる取り組みをずっと続けてきたんです」と犬山市観光協会の後藤真司さん。
2003年に第3セクター、犬山まちづくり株式会社を設立して空き店舗対策に着手。少しずつ店舗が増え始めたところで2007年に串グルメに名鉄とのタイアップ企画、2009年には電線の地中化工事完了にともない歩行者天国を実施(行楽シーズンの土日祝)。歴史のある町だけに変化には二の足を踏む人も多く、どの策も地元や関係者の理解を得るために何度も足を運んで実現したものばかりで、決して容易なことではなかったといいます。
また、今でこそ東京や大阪など遠方からわざわざ訪れる観光客も目立ちますが、最初にターゲットとしたのは名鉄電車で最速26分の名古屋でした。
「同じ愛知県内ですぐ近くにもかかわらず、名古屋の人にとっては犬山は半ば忘れられていた存在だったんです。しかし、名鉄の観光商品になったことで駅のポスターや車内の中吊り、駅構内のパンフレットなど、様々な広告ツールを目にしてもらえる。こうしてまず地元の大票田、名古屋からの観光客を増やして地盤を作り、そこから、関西、関東へ広報活動も広げていきました」(後藤さん)
こうした取り組みを続ける間に城、ゆるキャラ、ご当地グルメなどのブームが起き、犬山の取り組みは観光客増という目に見える形で成果を上げていくことになったのです。
城下町の敷居を下げて地元の一体感を強める
この成功のポイントを「敷居を下げたこと」にあったと後藤さんはいいます。
「歴史ある城下町だと新しいことをやりにくい、新たに参加しにくいというイメージある。だから空き店舗対策にしても串グルメにしても、条件や制約をできる限りゆるくして、やりたいと思う人が参加しやすい環境を整えました。“犬山で一旗上げてやる”という熱意を持った人も集まるようになり、さらに地元からの機運が高まったことで、SNS映えするような試みも生まれてきたのだと思います」
にぎわいの中心となっている本町通りは、現在は空き物件がほとんどない状態で、新規出店は犬山駅へと続く周辺エリアにまで広がりを見せています。犬山城と城下町のブレイクの波は、さらに犬山市街地各所へと広まりつつあるようです。
本当の勝負の年は「2037年」!
そして、今後の展望についても、近年のSNS映えに浮かれることなく、こんな遠大な答えが返ってきました。
「2037年をどう迎えられるか。犬山の未来はここに懸かっています。この年、犬山城は築城500年を迎えます。日本最古の城郭ですから、500周年は日本初なんです。19年後なんて遠い先のことのようですが、文化財で何か新しいことをやろうと思った場合、今から考えていかなければ間に合いません。この大きな目標にみんなで取り組むことが、さらに何十年か先までの犬山を左右すると思っています」(後藤さん)
インスタ映えで思い出を作った若者たちが19年後にもう一度足を運んでくれる。そんなふうに現在の活況が未来へもつながっていくことが、観光都市・犬山の本当の成功となるのかもしれません。
(写真はすべて筆者撮影)