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コロナ禍でも収まらないイスラエルのシリア攻撃

青山弘之東京外国語大学 教授
Eldorar.com、2020年4月15日

新型コロナウイルス感染症対策に追われているはずのイスラエルによるシリアへの攻撃が後を絶たない。2020年に入ってからその数は15回に及び、うち6回が、同国で外出禁止令が発出された4月8日以降に集中している。

以下では、備忘のため、2020年1月1日から5月4日までのイスラエル、ないしは同国によると思われるシリアへの攻撃を一覧する。

ヒムス県中部T4航空基地へのミサイル攻撃(1月14日)

国営のシリア・アラブ通信(SANA)によると、複数の(無人)戦闘機(所属は明示せず)が1月14日午後10時10分頃、T4航空基地に対してミサイル攻撃を行った。

シリア軍の防空部隊はただちにこれを迎撃し、ほとんどのミサイルを撃破し、被害は物的なものに限られたという。

英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、T4航空基地一帯では少なくとも4回の爆発が発生したが、戦闘機の所属は依然不明だという。

なお、イスラエルのメディアは、シリアがイスラエル軍の爆撃を受けたと伝えた。

ダマスカス郊外県、ダルアー県へのミサイル攻撃(2月6日)

シリア軍武装部隊総司令部は2月6日午前2時、イスラエル軍がシリア領空を侵犯、これと前後して、トルコ軍の車列が「オールナル」(Oglinar)地区からに侵入したと発表した。

これに関して、SANAはシリア軍筋の話として、イスラエル軍戦闘機複数機が占領下ゴラン高原上空およびレバノン南部を侵犯し、ダマスカス県郊外県やダルアー県に向けて多数のミサイルを発射したが、シリア軍防空部隊が迎撃し、そのほとんどを撃破したと伝えた。

ミサイル攻撃を受けたのは、ダマスカス郊外県のキスワ市、マルジュ・スルターン村、バグダード橋(スナーヤー村)、ダルアー県イズラア市南部。

シリア人権監視団によると、イスラエル軍が狙ったのは、ダマスカス郊外県キスワ市近郊の第91旅団基地、ムカイラビーヤ市近郊の第75旅団基地、ダルアー県イズラア市近郊南部にある農業用空港。拠点1カ所で火災が発生し、「イランの民兵」少なくとも15人(うちシリア人5人、イラン人3人)が死亡したという。

一方、ロシア国防省のイゴール・コナシェンコフ報道官は翌7日、イスラエル軍のミサイル攻撃にロシアの民間航空機1機が巻き込まれそうになっていたと発表した。

コナシェンコフ報道官によると、攻撃が行われた時、イランの首都テヘランを離陸したロシアの旅客機ボーイング320が172人を乗せて着陸態勢に入っていた。

ダマスカス国際空港の自動管制システムが作動することで、旅客機は戦闘地域から退避させられ、シリア駐留ロシア軍司令部が設置されているラタキア県のフマイミーム航空基地に緊急着陸、事なきを得たという。

ダマスカス国際空港一帯へのミサイル攻撃(2月13日)

シリア人権監視団によると、ダマスカス郊外県で2月13日、イスラエル軍のミサイル攻撃によると思われる爆発が複数回にわたって発生した。

攻撃は、ダマスカス国際空港・サイイダ・ザイナブ町間にある「イランの民兵」の拠点を狙ったもので、シリア軍防空部隊が迎撃したが、ミサイル複数発が着弾し、イラン人士官4人、士官2人を含むシリア軍兵士3人が死亡したという。

攻撃は、貨物機(所属不明)がダマスカス国際空港に飛来したのを受けて実施されたという。

ダマスカス国際空港一帯へのミサイル攻撃(2月23日)

SANAは、軍情報筋の話として、イスラエル軍戦闘機が2月23日午後11時25分、シリア領空外および占領下ゴラン高原上空から首都ダマスカス一帯に対してミサイル攻撃を行い、シリア軍防空部隊がこれを迎撃、そのほとんどを撃破したと伝えた。

一方、シリア人権監視団は、このミサイル攻撃で、ダマスカス国際空港に近いパレスチナ・イスラーム聖戦機構とイラン・イスラーム革命防衛隊の拠点が狙われ、イスラーム聖戦機構のパレスチナ人メンバー2人、「イランの民兵」6人(うちシリア人は1人、それ以外の国籍は不明)が死亡したと発表した。

イスラエル軍のアヴィハイ・アドライ報道官は、ツイッターで、パレスチナのガザ地区からのロケット弾攻撃への報復として、首都ダマスカス南のイスラーム聖戦機構の拠点複数カ所、およびガザ地区の拠点数十カ所を狙ったと綴った。

うち、ダマスカス郊外県に近いアーディリーヤ村の拠点は、シリア領内やガザ地区への攻撃で使用される兵器を開発するためのイラン・イスラーム革命防衛隊の拠点だったという。

クナイトラ県への攻撃(2月27日)

SANAは、クナイトラ県ハドル村近郊で2月27日、イスラエル軍の無人航空機(ドローン)が車を攻撃、市民1人が死亡したと伝えた。

シリア人権監視団によると、攻撃を受けたのはゴラン解放シリア抵抗のメンバーの車で、死亡したのも、このメンバー。

反体制系サイトのドゥラル・シャーミーヤ(2月27日付)などによると、この「市民」は、その後レバノンのヒズブッラーの対外作戦責任者のイマード・タウィール氏であることが確認された。

クナイトラ県へのミサイル攻撃(2月28日)

SANAは、イスラエル軍戦闘機複数機が27日深夜から28日未明にかけて、クナイトラ県のカフターニーヤ町、フッリーヤ村、クナイトラ市をミサイル攻撃し、兵士3人が軽傷を負ったと速報で伝えた。

クナイトラ県へのミサイル攻撃(3月2日)

SANAは、イスラエル軍が3月2日、占領下ゴラン高原上空からアイン・ティーナ村内の車を狙ってミサイル攻撃を行った、と伝えた。

シリア人権監視団によると、狙われたのは親政権民兵の車輌。死傷者が出たかは不明。

これに関して、イスラエル軍のアヴィハイ・アドライ報道官はツイッターで「イスラエル軍部隊は先ほど、ゴラン高原北部地域で狙撃が行われようとしているのを補則した…。これを鑑み、同部隊はこの作戦を実施しようとしていた車を攻撃した」と綴った。

ヒムス県、あるいはダマスカス郊外県へのミサイル攻撃(3月5日)

SANAは、シリア軍の防空部隊が3月5日0時30分にパレスチナ北部からレバノンのサイダー市上空を侵犯した航空機(イスラエル軍機)がヒムス県に向けて発射したミサイルを迎撃、これを撃破したと伝えた。

ドゥラル・シャーミーヤによると、イスラエル軍はダマスカス郊外県のキスワ市近郊の第1師団第91旅団やムカイラビーヤ市近郊の代75旅団のシリア軍および「イランの民兵」の拠点、マルジュ・スルターン村、ダマスカス県のマッザ航空基地、ダルアー県のイズラア市などを狙ったという。

ヒムス県シャイーラート航空基地一帯へのミサイル攻撃(3月31日)

SANAはシリア軍筋の話として、イスラエル軍戦闘機複数機が3月31日午後8時25分にレバノン領空を侵犯、ヒムス県に向かってミサイル複数発を発射したと伝えた。

シリア軍防空部隊はただちにこれを迎撃、ミサイル多数を撃破したという。

シリア人権監視団によると、イスラエル軍戦闘機によるミサイル攻撃は、ヒムス県西部のシャイーラート航空基地から県中部のT4航空基地(タイフール航空基地、ティヤース航空基地)に輸送機1機が移動したのを受けて行われた。

この攻撃で、イスラエル軍戦闘機はシャイーラート航空基地におよび同基地一帯に展開する「イランの民兵」の拠点複数カ所に対して、ミサイル8発以上を発射した。

ダマスカス郊外県の国境通行所に対するミサイル攻撃(4月15日)

ロイター通信などによると、イスラエル軍の無人航空機(ドローン)が4月15日、レバノンのマスナア国境通行所(ベカーア県)に面するジュダイダト・ヤーブース国境通行所(ダマスカス郊外県)で軍用ジープに対してミサイル攻撃を行った。

発射されたミサイルは2発。

誰が乗っていたかは不明だが、狙われたのはヒズブッラーの車輌だという。

ヒムス県タドムル市一帯へのミサイル攻撃(4月21日)

SANAによると、20日午後11時頃、シリア軍防空部隊が、ヒムス県タドムル市上空でイスラエル軍が発射したミサイルを迎撃、ほとんどのミサイルを撃破した。

シリア人権監視団によると、イスラエル軍戦闘機は、タドムル市近郊の砂漠地帯に設置されている「イランの民兵」の拠点複数カ所を狙って、レバノン領空からミサイル攻撃を行ったという。

ダマスカス郊外県へのミサイル攻撃(4月27日)

SANAは、シリア軍防空部隊が4月27日午前4時55分、レバノン領空を侵犯し、シリア領内に発射した複数のミサイルを迎撃し、そのほとんどを撃破したと伝えた。

イスラエル軍による爆撃の被害を受けたのはダマスカス郊外県のフジャイラ村とアーディリーヤ村で、住民3人が死亡、子供1人を含む3人が負傷、住宅が損壊した。

ダマスカス郊外県のアラー・イブラーヒーム知事は、フジャイラ村への爆撃で、占領下ゴラン高原からの避難民の一家が被害を受け、夫婦が死亡、息子1人を含む2人、妻の母が負傷し、妻の母が搬送先のムジュタヒド病院で死亡したと発表した。

だが、シリア人権監視団は、撃破されたミサイルの残骸によってフジャイラ村とアーディリーヤ村で民間人3人が死亡したとしつつ、イスラエル軍が狙ったのは、キスワ市からサフナーヤー市に至る地域に展開する「イランの民兵」やレバノンのヒズブッラーの拠点で、少なくともこれらの民兵4人が死亡したが、身元は不明と発表した。

また、反体制系のサウト・アースィマは、イスラエル軍が狙ったのはナジュハー村とアーディリーヤ村の間に位置するサフヤー山地に展開する第1師団第58旅団の拠点だったと伝えた。

シリア南部へのミサイル攻撃(4月30日)

SANA(5月1日付)は、イスラエル軍ヘリコプター複数機が4月30日深夜、レバノン領空を侵犯、シリア南部の複数カ所に対してミサイル攻撃を行ったと伝えた。

シリア人権監視団によると、イスラエル軍ヘリコプターが狙ったの、ダルアー県のアフマル丘よび丘の西側のクナイトラ県の県境地帯にあるシリア軍と「イランの民兵」の拠点。

ヒムス市郊外のヒズブッラーの基地へのミサイル攻撃?(5月1日)

シリア人権監視団は、イスラエル軍が5月1日、ヒムス県のヒムス市とタドムル市を結ぶ街道沿いにあるレバノンのヒズブッラーの通称「ハサン・ブン・ハイサム基地」と呼ばれる教練キャンプに併設されているミサイル弾薬庫をミサイル攻撃したと発表した。

シリア軍防空部隊がミサイルを迎撃したが、ミサイル弾薬庫は大爆発を起こし、その破片がヒムス市の入り口まで飛散したという。

しかし、SANAなどは、これを否定、ヒムス市南東の郊外に設置されているシリア軍拠点1カ所で、装備運搬中の人的ミスによって複数回の爆発が起き、負傷者が出る一方、周辺の商店、車輌、道路などに被害が出たと伝えた。

アレッポ県サフィーラ市近郊へのミサイル攻撃(5月4日)

SANAは、シリア軍筋の情報として、5月4日の午後10時32分、ハマー県イスリヤー村北東に飛来した敵機(所属明示せず)が、アレッポ県サフィーラ郡にある軍の倉庫複数棟をミサイルで攻撃、シリ軍防空部隊がこれを迎撃した。

クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)に近いハーワール・ニュース(ANHA)によると、ミサイル攻撃を行ったのはイスラエル軍戦闘機で、サフィーラ市近郊にある科学研究センターが狙われたという。

一方、シリア人権監視団は、ミサイル攻撃が「イスラエルによると思われる」としたうえで、科学研究センター内の第247課が狙われ、弾薬庫が破壊されたと発表した。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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