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「韓国でプレーできるのが楽しみ」「韓国は好きな国の一つ」大谷翔平選手が韓国人の心を温めた

中島恵ジャーナリスト
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

いよいよ本日(3月20日)から行われるMLB(メジャーリーグ)の開幕戦(ドジャース対パドレス)を控え、試合会場となっている韓国では異例の“大谷翔平フィーバー”が続いている。テレビでも、SNSでも、学校でも、職場でも、まさに「大谷翔平」一色といった感じだ。

「韓国でここまで『日本人』が人気になるなんて信じられない」「堂々と日本人が好きだと言える日が来るなんて……」と韓国人自身も驚くほどだ。その背景には何があるのか――。

すばらしい相手への配慮

筆者の知人であるソウル在住の50代の女性も大谷選手の虜になった一人だ。これまで野球どころか、韓国で大人気のサッカーにさえあまり興味がなかったが、昨年から急に野球に関心を持ち始めた。きっかけは昨年3月に行われたWBCで大谷選手の試合や会見を見かけたことだった。

「大谷選手の中国やチェコ、そして韓国チームへのリスペクトのあるコメントに目がくぎ付けになったんです。コメントだけでなく、顔のカッコよさ、言動のスマートさ、すべてに夢中になりました」

すぐに、大谷選手が2012年、花巻東高校在学中に韓国を訪れたことがあり、韓国に対していい印象を持ってくれていること、これまでもたびたび韓国について言及していたことも知った。

WBCで優勝したあとの発言(「日本だけじゃなくて、韓国もそうですし、台湾も中国も、その他の国も、もっともっと野球を大好きになってもらえるように……」という東アジア全体の野球を応援するコメント)にも感動した。

「これまで、こういうふうに韓国のことを取り上げてくれた海外の選手や有名人は思い当たりません。韓国だけじゃなく、常に相手の国、相手への配慮があると思いました。韓国到着後の記者会見で、ベッツ選手やフリーマン選手に通訳してあげるように水原さんに伝えたりしたことも一つの配慮、優しさですよね」

この女性は、韓国について言及した会見のコメントをネットで何度も見たという。

「日本と韓国は昔から国際試合でも白熱したいい試合が多くて、子どもの頃から見てきましたし、今回韓国でもプレーできるのはすごく楽しみですし。空港でもああやって迎えていただいて、すごくありがたいと思っていました」

日本人は特別な存在

また、韓国のSNSなどを見ると、花巻東高校時代に訪韓した際のことを引き合いに出し、以下のように語ったことも、多くの韓国人の心を捉えた。

「あのときから(韓国は)好きな国の一つなので。あのときは台湾と韓国くらいしか行ったことがなかったので、そういう意味でも特別でした。野球で帰ってこられて、またプレーするのは自分の中でも特別かなと思います」

日本人にとってもそうだが、韓国人にとっても、日本人は特別な存在だ。日韓の歴史的な経緯もあり、ふだん、韓国や日本で、個人的にどんなに親しく付き合っていても、公の場所になると、相手について、素直に何かを語ることは難しくなってしまう。周囲の目を気にしてしまうからだ。

実際、韓国を訪れて、韓国人に親切にされた経験を持つ日本人は非常に多いと思うが(その逆も同様だと思うが)、その情報は幅広い人には伝わりにくい。どこかで先入観が邪魔してしまったり、「(親切にされたのは)たまたまでしょう?」と言われて萎縮してしまったりすることもある。

お互いにまだ堂々と「(韓国は、日本は)好きな国の一つ」とは言いにくい雰囲気がある。

難しい日韓関係だが…

だが、「大谷選手が堂々と韓国へのリスペクトを表明し、真っすぐに韓国について評価してくれたことで、韓国人は素直に心を開くことができたような気がします。その功績は外交官や有名アイドル以上、とても大きいものだと思います」とこの女性は語る。

大谷選手がソウル到着後にアップした公式Instagramのストーリー動画に韓国国旗を載せたことも、彼らを感動させた。

韓国では財閥などに対して「お金持ちは威張るもの」「お金持ちはそうでない人々を見下す人たち」という印象があるが、大谷選手は真逆で、少しも偉ぶったところがないどころか、球場でゴミ拾いまで行う謙虚な人柄だ。

教育熱心な韓国人の中では、「我が子をああいうふうに育てたい」「ああいう人が増えたら、韓国も変わると思う」という人も多く、書店には大谷選手の人間性を解説したり、高校時代に書いていたマンダラチャート(目標達成シート)について取り上げた本が平積みされていて、ベストセラーになっているという。

今回一緒に来日した新妻、真美子さんとのなれそめ、大谷選手の両親のことなども含め、野球に関することだけにとどまらず、その一挙手一投足までが注目されている。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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