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ウーマンラッシュアワー村本大輔と元NHK堀潤は、AbemaTVでテレビをぶち壊せるか?

境治コピーライター/メディアコンサルタント
AbemaPrimeのスタジオ。イベントスペースを改造したものだ

ネットに登場した“放送局”AbemaTVが好調だ。ネット代理店サイバーエージェントとテレビ朝日が共同で取り組んで4月11日にスタートさせた。20以上のチャンネルを24時間放送しておりスマートフォンで気軽に視聴できる。若者層を意識した番組づくりが人気を呼び、5月3日はアプリのダウンロード数が200万を越えた。

メインとなるのはAbemaNewsというチャンネルで、テレビ朝日が全面的に制作している。その看板番組『AbemaPrime』は月〜金20時からの放送で、曜日毎に多彩なキャスターがその時々のトピックを伝えている。月曜日はウーマンラッシュアワーの村本大輔氏と、元NHKのジャーナリスト堀潤氏。そんなふたりがキャスターを務めるスタジオに取材でおじゃました。

村本氏は若い世代のお笑いタレントの中でも毒舌ぶりで人気。堀氏はソーシャルメディアを駆使した新しいジャーナリズムに挑戦している。AbemaTVという、これまでのテレビの概念を打ち破る新しいテレビには、ふさわしい二人かもしれない。取材した回も、不謹慎狩りなどきわどい話題をとりあげながらも楽しい番組となった。

放送終了後に二人の時間をもらってじっくり話を聞いてみた。

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----毒舌の村本さんがニュース番組に出るのが面白いです。でも今日もちゃんと取りあげる題材について調べてきてましたよね。

村本:ぼくバラエティでもけっこう調べてきますよ。他の人とキャラがかぶるといやなのでポジション取りのために下調べは絶対やってるんです。報道番組ではもう知らないことが多すぎて。でもどんなに賢い人も全知全能じゃないですよね。賢い人が横にいたとしてもスティーブ・ジョブズがいたとしてもイーロン・マスクがいたとしても、この人は別に100%じゃないなあと。そう思わないとしゃべれないですよね。

----堀さんとはうまいコンビネーションで堀さんがきちんとしたこと言ってくれてますよね。

村本:そこは先生がもう・・・

堀:先生ってことはないんですけど(笑・・・ぼくはファクトを積み重ねて提示するという仕事をしてきて、あまり意見を言ったりぶった切るようなことは言わなかったんですけど、逆に村本さんはみんなが言いたくてモヤモヤしていることを「お前らそれ言わないでいるとつまらないよ」と言ってくれるじゃないですか。だから一緒にお話しすると楽しくて発見があって、その発見は視聴者のみなさんにとってはものすごく価値が高いんじゃないかなと。だからありがたいコンビネーションを組ませてもらっています。

----そういう役割分担は話し合ってあるんですか?

村本:いや堀さんは、ぼくが言うことをいったん聞いて全否定せずにその中のいちばんいい答えを解説してくれるんで、甘やかされてるいい立場です。

堀:甘やかされてるってどういう立場?(笑

今日も熊本地震へのチャリティの話があって、著名人がチャリティやって何が悪いんだって村本さんが言ってくれて、発信力があって若い世代のみなさんへの共感力のある人がニュースについて本気で語るっていうのはすごいパワーがあることですよね。いい案配でこの番組は進められています。

----楽しいですよね

村本:ぼくは自分に対して正直にやってるから、トクはないんですけど。

----番組の中でも百人を意識するより理解しあえる十人が大事って言ってましたね。

村本:好きでもない人のためにウソをついてもしょうがないし、ほんまに好きな人だけを集めていく作業やってるつもりです。それが例えばその場の10人のうちの一人でも、日本全国だとすごい数になるわけだから。

堀:最初共感したのは、こういう感覚ですね。世の中を正義で裁こうとする妙な空気があるじゃないですか。社会の中で声の大きい人が道徳で裁きを与えるのって、昔あった誰かを非国民と糾弾して世の中が流れていくのと同じなので釘刺さなきゃいけないと思うんだけど、どっかでみんな怖がって迎合しちゃう。口つぐんじゃう。そういうところに切り込んでいく村本さんの姿勢は時代感として必要だなって思うんです。

村本:いまのテレビって少数の大声をとりあげるじゃないですか。「不謹慎だ」ってひとりでも声が出たら「不謹慎だというクレームが入った」とテレビで言うじゃないですか。それとりあげんでええやん。炎上だと言っても10件くらいなもんで実は多くはないんですよ。それを「炎上!」ってテレビがオーバーに言うから。

ほっといたら他の放送局も変わらんから、ぼくは「こういうの取りあげんでいいんですよ」って言って、積み重ねていったら変わるんじゃないかと。AbemaTVに言ってるようで他のテレビ局にも言ってるってことなんです。

堀:村本さんはやっぱりSNSに常に向き合ってるからこういう感覚が備わってるんだと思うんですよ。

----そういえば村本さんtwitterかなり使うんですよね?

堀:ものすごく返してますもんね

村本:うん、ほんとに。

堀:「うるせえ死ね」ってね(爆笑

村本:いや「うるせえ、死ね」を向こうから言われてるんです。そう言われて「いろんな言葉がある中でいちばん簡単な言葉を出すあなたがレベルの低い位置にいるということですね」と返して(爆笑

「人の揚げ足をとる位置というのは足下にいる存在です」とか(爆笑

----言われると相手はシュンとするわけですか?

村本:いや時間与えたら、そいつら反撃を考えるじゃないですか。だからブロックして、こっちの勝ちで終わりにするんです(爆笑

----もうひとつ聞きたいのは、AbemaTVというインターネットのテレビ、そこに出演するのはどんな思いがあるんでしょう?テレビと同じ?ネットだからあえて出る?

村本:最初はそんな大義名分はなかったんですよ、ネットだからというのではなく、仕事だからうれしいし。でもだんだん、生放送やし、ぼくがここでこそ思うこと好きにしゃべって誰か傷ついたら謝って、それでいいんじゃないかなあと思うようになって。

----では地上波テレビに出るとは違う感覚でやっている?

村本:なんかこの、ここから絶対おれは這い上がるっていう気分じゃない分、居酒屋で酒飲みながら好きなことしゃべってやれ、という空気でやってていいですよね。

堀:今日も、ももクロさん目当てで入ってきた一見さんの視聴者の人がその後もツイートを重ねてくれたりしてるからやってることはど真ん中直球じゃないですかね。(この回はゲストにももいろクローバーZが出演した)

----視聴者数ぐんぐん上がりましたもんね(AbemaTVは番組の累計視聴者数が表示される)

村本:もっとぐあーっていきたいすね。最近いやなのは、著名人やタレントがみんなSNSで意見言うじゃないですか、でも直接言わないんですよね。直接言ってばちばちやるところが見たいのに、裏でおもろない場外乱闘やってもそれよりここ来て言えよと。140文字を本当に使いこなせる人なんてあんまいないと思うんですよ、twitterで本気の会話なんてできないですよね。だから炎上とか批判が起きたりすると思うんですよ

----じゃあ誰かと村本さんで対決番組とかやったらどうですか?

村本:ぼくね、攻め一本でガードがめちゃめちゃ弱いんですよ。(爆笑

11人全員前でるサッカーなんでゴールがら空きなんですよ

----堀さんも地上波にも出てるけどAbemaTVはどう見てるんですか?

堀:ぼくがやってるのは視聴者の方たちと結びついて出せるところではどんどん出していくという。ぼくらでカバーできない情報はみんなが持ってるんだから協業するみたいな。いままでだと「ネットvsテレビ」みたいな「vs」だらけだったんだけどそれって不毛だなと思って辞めたので、だからこの番組はうれしかったですね。そうかスマホとスタジオがつながるんだなと。しかもどんどんその場で構成が変わっても大丈夫って言ってもらえて。ようやくメディアが”媒介”として集える場になってきた。

いままでは流しそうめんみたいなもんで、メディア側がおれたちがつくったそうめんを流すから食えと。それがようやくフラットな回転寿司みたいな関係になった。それでいてテレビ朝日とサイバーエージェントというそれぞれ力を持った二社が組んでるんで、期待してますね。

----今日は藤田さんも楽しそうでしたね。(サイバーエージェント藤田社長がスタジオに来ていた)村本さんも藤田さんと挨拶してましたけど、もう何度も会ってるんですか?

村本:いえ、初めてでした。同じ福井出身という、同郷なんで・・・っていう、ただそれだけの人です(爆笑

藤田社長にはもう、バチバチやってほしいなと思いますね。テレビ朝日のいっこ下の媒体っていうんじゃなく、もうテレビを食うっていう気持ちのコラボを見たいですけど。テレビより格下だからテレ朝さんに気をつかって、ってことだとダメでしょう。船長ってのは行くところをしっかり見て船を走らせてほしいですから。

----小松さんはどうですか?(番組のメインキャスター・テレビ朝日小松靖アナウンサー)

村本:小松さんはマジメですよね。あの人なに考えてんすかね?(爆笑

急にCM中にこっち見て「ほんとに心に響きまして・・・よかったです」って、え?みたいな。それまでわいわい言ってて急にですよ。差が激しいんですよ。あの人はあの人で、普通のアナウンサーじゃないですね(笑

----最近こういうネットの番組がどんどん出てきてますが、いまそういうのが面白いなと感じていますか?

村本:それはありますね、面白いすね。芸人がYouTuberになっても人気出ないのと、素人がYouTuberになって人気出るのってあるじゃないですか。そこに住む住人になれないと、適応できる人じゃないとダメやと思うんすね。テレビの面白いことがネットの面白いじゃないと思うんで。

ぼくの知り合いの女の子が、最近テレビ見てないと、YouTubeで寄生虫がいろんなやつに卵産み付けるやつ見てると言うんです。そんなのどうかとは思いますよ。でもそんなのばっか見てると。そこに何か、ひりひりするもんがあるんだろうと思うんですね。テレビがYouTube流したりしてますけど、そうじゃなくてここはここで、この状況この材料でひりひりするものつくれるんじゃないかって思いますよね。

----ここはここなりの新しい文化というか?

村本:そうそう。それは期待しますね。だからとりあえず無茶苦茶やっていきたいなっていう、今日もADさんがボードを落とした時、ぼくすごい頑張ったんですよ。(番組中にADがうっかりボードを落としたらすかさず村本氏が駆け寄って突っ込みを入れて大爆笑となった)

一週間前にタイキックされて病院行ったらおしりのとこ骨折れてるんですよ。起き上がるのもしんどいんですけど、ここで行かなイカン!と汗かきながら一所懸命行って突っ込んだんですよ。(爆笑

----あれは、一所懸命だったんですか?

村本:もう一所懸命でしたよ。それはたぶん全曜日の中でぼくの強みかなと。ある程度のポジション築いた人なら、ネットだから力抜いてもいいかなと思うかもしれないけど、ぼくはここでもいけいけでいったるぞ!というのあるから。

----それは視聴者としてもうれしいですね!

村本:守りの毒舌と攻めの毒舌というのがあって、守りは最近のギャルの悪口とか、パーティピーポーの悪口とかしか言わないですけど、攻めになるとぎりぎりのところを攻めていくわけです。

堀:社会とか時事ネタとか権力とかタブーとか・・・

村本:タブー、テレビやったらスポンサーとか、背水の陣で臨む感じです。

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----いまの大学生や高校生には若い芸人さんで共感できる人がなかなかいないんだと思うんですよ。村本さんにはそういう人になる期待をしますね。

村本:ぼくは思うんですけど、テレビが規制とかでまともになりすぎてひな壇でクイズ答えてどうだとかやってるよりも、ファミレスで仲良い友人同士で何にも気にせずしゃべってるだけのほうがよっぽど過激で面白いと思うんですよ。それがぼくにとっては前まではラジオで、あれはパーソナリティの部屋に聞きたい人が入って聞くっていう感じだったんですよ。それがいまネットニュースでできるかも。1000人に響く言葉なんてなくて、でも1000人の中のひとりにがんがんに響いたら、日本中で考えたらすごい人数ですからそれをがっつり心をつかむことが大事だと

堀:それがSNSとふだん触れ合ってる”体感”みたいなもので、マスメディア発信だとマスにしちゃうんでついどっかのグループや集団を想像しちゃうけど、SNSだと個人のアイコンが浮かぶわけでそういう感覚がいま問われてるんでしょうね。

----なるほど、堀さんも村本さんもSNSを普通にやってて、そういう感覚でこういう番組に出ていったら何か新しいものが生まれるかもしれませんね。

堀:社会は最初からグループがあるわけじゃなくて個人の集まりなのに、個人を想像しがたい環境にいたんじゃないかな。こういう番組はそこが違うんでいいんじゃないかと思いますね。

----それにしてもお二人、意気投合してますね。

堀:二人で朝まで勉強会やりまして。

村本:堀さんがいつも行ってるという、うさん臭いお店で(爆笑

堀:やめてください!(苦笑

村本:表参道でワイン片手に、原発について語られて

堀:村本さん福井県出身だから。原発多い県なんで。

村本:弟さん自衛隊で。報道番組に出るべくして生まれたような関係で。原発と自衛隊のダブルでお届けします(大爆笑

堀:やめなさいって(笑

AbemaTVは新しいメディアだ。これまでも、メディアが受け入れられ影響力を持つ時にはその時代その時代の若い世代が共感する新しいスターがいた。そこは理屈や戦略では具体化できない部分で、意図して生み出せるものではない。ただ過去を振り返ると、そういう新しいスターたちは枠をぶち壊す乱暴さと清新さがあった。

ソーシャルメディアを通して若者たちと直接向き合う村本大輔氏には、ひょっとしたら「ネットのテレビ」という新しい舞台を引っぱる存在になるかもしれない。そんな村本氏と、ネットを場にしたジャーナリズムに奮闘する堀氏が相棒として発信することが、新しい文化を形成しそうだと期待してしまう。お二人の『AbemaPrime』はこれからも楽しみだ。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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