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結婚披露宴でご祝儀要求した新郎新婦が話題…アメリカでは祝儀の相場ってあるようでない?

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
アメリカの結婚披露宴のイメージ。(写真:アフロ)

昨年ニューヨーク市内で結婚式を挙げたあるカップルが、当時の様子をSNSに投稿し、各メディアがそれを取り上げ話題になった。

ノヴァ・スタイルズさんとリーモ・スタイルズさんカップルは、自分たちの結婚式を伝統的なごく普通の形式ではなく一風変わったものにしようと計画した。

計画の一つは大聖堂での式に加え、2階建てのオープントップバスで参列者と市内各所を回るというもの。そして招待状を送る代わりに、333ドル(約4万8000円)の参加チケットを参列者に購入してもらうということだった。

全米の披露宴費用(ゲスト115人)は平均387万円

アメリカは折からのインフレの影響で、結婚式にかかる費用も値上がりしている。

会場や料理など式にかかる費用は、招待客数やどのようなグレードの会場を利用するかなどで個人差はあるものの、平均招待客115名の場合、今年の全米平均額は2万6665ドル(約387万円)だと地元メディアは伝える。

内訳はざっとこうだ。

会場費 7347ドル(約100万円)
料理代 5480ドル(約80万円)
撮影代 3653ドル(約53万円)
花代 2436ドル(約35万円)
衣装代 2131ドル(約30万円)
ウエディングプランナー費 1827ドル(約26万円)
ケーキ代 525ドル(約7万円)
など

(情報源:平均招待客115名の場合。CouponBirdsの情報をもとにしたニューヨークポスト報道)

冒頭のカップルが設定した333ドルの参加チケットはご祝儀のようなものとしても受け取れるので、日本人からするとそれほど違和感はないかもしれない(実際のところ、このカップルは各人から徴収した333ドルを式の費用に充てず、今後の不妊治療に充てるそうだが)。

しかしそもそもこの話題がなぜアメリカで注目されたかというと「普通」じゃないからだ。披露宴の参加チケットを販売する習慣も、それほどの額のご祝儀を一律でもらう習慣もない。

アメリカの新郎新婦のイメージ。教会で式を挙げる場合は厳格に宗教に基づく。そのために新郎新婦のどちらかが改宗することもある。Photo by Enes  Cihanger(pexels.com)
アメリカの新郎新婦のイメージ。教会で式を挙げる場合は厳格に宗教に基づく。そのために新郎新婦のどちらかが改宗することもある。Photo by Enes Cihanger(pexels.com)

日本で結婚式に招待されると、新郎新婦へ贈るご祝儀は「家族や親戚ならいくら」「友人ならいくら」など、ある程度の相場がある。最近の事情はよくわからないが、筆者が日本に住んでいた90年代は、3万円もしくはそれ以上が相場だったように記憶している。

アメリカに住んで20年以上になる筆者は、これまでアメリカ人の友人や知人の結婚式に計4回参列する機会があった。ニューヨーク州内で2回、インディアナ州など中西部で2回参列した。西海岸や南部で参加したことはないが、だいたい同じようなものだろうと察する。

その経験を経て、アメリカでは結婚披露宴の費用は、伝統的に新婦側の両親が賄う(もしくは多く賄う)ことを知った。近年は多様化が進み、それぞれの家庭や個人で考え方が異なることもあるし、宗教による差異もあるが、あくまでもアメリカの伝統的な話をすると、この国では新婦側の親が負担(もしくは多めに負担)するのが一般的。

つまり、新郎新婦(および家族)は「主催者」として結婚式を開き、ゲストを招待しもてなす。よって彼らは招待客からの祝儀を計算の上で会場選びをすることもない。

アメリカでは一般的に、参列者はご祝儀として紙幣(と言っても100ドル程度。50ドルでもOKだし、200ドルやそれ以上でもOK)をカードに包んで新郎新婦に贈る。お金でなくちょっとしたギフトをプレゼントするのでも良い。このギフトもいくら以上という規定はなく、新郎新婦とゲストとの間柄にもよるが、前述のニューヨークポストにはギフトの相場は150ドル(約2万1000円)と書かれている(だからと言って150ドルのギフトをあげないといけないわけではなく、50ドルや100ドル程度のものでもOK)。

アメリカでは「額」(数十ドル数百ドル程度のわずかな額の違い)は重要ではなく、それよりも幸せを分かち合う気持ち、心からお祝いする気持ちがあることが大切とされる。

また、カップル社会のアメリカでは、付き合っているパートナーとカップルで結婚式や披露宴に参列することも普通だ。カップルで参列する場合、パートナーが新郎新婦どちらかの友人だとすると、パートナーが連れの分も含めてご祝儀を多めに贈る(と言っても100、200ドル程度でもOK)。この場合連れは追加でちょっとしたプレゼントを添えることもある。

参列者の服装も自由だ。女性ならワンピース、男性ならシャツにズボン姿が多いが、普段着の人がたまにいたりするのも、なんともアメリカらしい。

とにかく、アメリカの結婚式や披露宴は日本のそれとは違い、形式張っておらず、ご祝儀や服装も自由で、敷居が高くないため参列する立場として参加しやすいというのが、移住後に感じた筆者の感想だ。

アメリカではご祝儀がなぜ自由なのか考えてみた

アメリカは家族や親友など大切な人との間で「額より気持ちが大切」というのは前述の通りだが、祝儀の概念がなぜ日本と違って緩いかについて考えてみると、ほかにもアメリカならではの事情が関係しているように思う。

そもそもアメリカではパーティーを主催する際、ポットラック形式やファンドレージング形式でもない限り「ホスト(主催者)がもてなす」のが前提。これは結婚披露宴も同様で、先述の通り披露宴を主催者が開いて客を招待するのだから、主催者側が式の全費用を払って当然という考えがある。アメリカのご祝儀というのは、結婚披露宴費用の足しではなく、あくまでも結婚という目出度い門出への「祝いの気持ち(心付け)」なのだ。

また、アメリカの結婚式には家族や親友らが新郎新婦をサポートする「ブライズメイドやグルームズマン」の習慣があり、ブライズメイドやグルームズマンに選ばれればその衣装代がかかる。

新郎新婦とブライズメイド&グルームズマンのイメージ。彼らは衣装を揃えて式に参列する。ちなみに式だけのペアで本当のカップルではない。Photo by Anna Frolova(pexels.com)
新郎新婦とブライズメイド&グルームズマンのイメージ。彼らは衣装を揃えて式に参列する。ちなみに式だけのペアで本当のカップルではない。Photo by Anna Frolova(pexels.com)

アメリカでは家族や親族、昔からの友人が全米各州にバラバラで住んでいることはよくある。その場合、参列者は他州から泊まりで来るから、その旅費や宿泊費なども別途発生する。それも祝儀はそれほど高くなくて良いという考えに繋がっていると思う。

アメリカの式は1日で終わらず、式前日や前々日には独身最後の夜を大騒ぎする「バチェラーパーティー」(新婦はバチェロレッテ・パーティー)があったり、家族・親族と共にテーブルを囲む「リハーサルディナー」などもあり、招待客は前乗りで参加するのだ。

アメリカの結婚式は1日で終わらない。前日に家族や親族と共に過ごす食事会の「リハーサルディナー」がある(写真はイメージ)。Photo by Bave Pictures(pexels.com)
アメリカの結婚式は1日で終わらない。前日に家族や親族と共に過ごす食事会の「リハーサルディナー」がある(写真はイメージ)。Photo by Bave Pictures(pexels.com)

以上が、アメリカの伝統的な結婚式およびご祝儀事情だ。冒頭のスタイルズさんカップルが行った333ドルのチケット制度がいかに異色かお分かりいただけただろうか。

追伸:アメリカの一般的な結婚披露宴は、新婦がガーターベルトを投げるガータートスほか、新婦が父と踊るファーザードーターダンス、新郎新婦によるファーストダンスなどエンタメ要素が盛りだくさん。ダンスが主流で参列者も踊ります。また別の機会に書きたいと思います。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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