北側管弦楽団の訪韓が決定…140人が「板門店越え」か
15日、南北の代表団は板門店で実務接触を行い、北朝鮮の三池淵(サムジヨン)管弦楽団が韓国での訪問公演を行うことで合意した。合意の内容と焦点をまとめた。
北側5人、韓国側4人が参加。「歌姫」玄松月の姿も
15日、朝10時から板門店の北側施設「統一閣」で韓国側代表4名と北朝鮮側代表5名による実務接触が行われた。
「実務接触」とは聞き慣れない表現だが、南北間である具体的な議題がある際に、その詳細を決める会合のことを指す。一方、「実務会議」はより範囲の大きいもので、いわば議題をしぼるための場だ。
今回の実務接触の議題は「平昌(ピョンチャン)冬季オリンピックおよびパラリンピックを契機とする北側芸術団の訪問公演」だった。先日1月9日の南北高位級(閣僚級)会談で合意されたものだ。
この日、韓国側からは首席代表として李宇盛(イ・ウソン)文化体育観光部文化芸術政策室長、イ・ウォンチョル・コリアシンフォニーオーケストラ代表理事、チョン・チヨン同オーケストラ芸術監督、ハン・ジョンウク統一部課長が参加した。
北朝鮮側からは首席代表として、クォン・ヒョクポン文科省芸術公演運営局局長、ユン・ボムジュ管弦楽団指揮者、玄松月(ヒョン・ソンウォル)管弦楽団団長、キム・スンホ管弦楽団行政副団長が参加した。
参加する顔ぶれからも、会談が実務者レベルの話し合いだったことが分かる。
目を引いたのは北側の玄松月氏だ。金正恩氏の父・金正日氏の時代から歌手として広く知られ、昨年10月以降、党中央委員会候補委員に名を連ねるなど、政治的影響力を増している存在だ。
午前10時から始まった実務接触は、途中、休憩をはさみ午後7時ころまで続いた。そして終了後すぐに南北共同報道文が発表された。
北側芸術団の訪問関連に関わる南北共同報道文全文訳(2018年1月15日)
南北高位級会談での合意に伴い、南と北は平昌冬季オリンピック大会および冬季パラリンピック大会を契機とし南側を訪問する北側芸術団の公演を支援するために、1月15日、板門店の統一閣で実務接触を持ち、次のように合意した。
1.北側は三池淵(サムジヨン)管弦楽団140余名で構成される芸術団を南側に派遣する。
2.北側の芸術団は江陵(カンヌン)とソウルで公演を行う。
3.北側芸術団の公演のために提起される公演場所、舞台の条件、必要な設備、機材の設置など実務的な問題は、双方が合意を円満に解決していくことにする。これと関連し、北側は速やかに事前点検団を派遣することにする。
4.南側は北側芸術団の安全と便宜を最大限保障する。
5.その他、実務的に提起される問題は、板門店の連絡チャネルを通じ、文書交換方式で協議していくことにする。
2018年1月15日 板門店
韓国側首席代表の一問一答「公演は2回」
15日夜、板門店からソウル市内に戻った韓国側の李宇盛首席代表は、この日の実務接触の結果について会見した。
冒頭で前述の共同報道文を読み上げると共に、「北側の芸術団の公演が、南北関係の改善および文化的な同質性回復などに寄与するよう、最善を尽くし準備していく」と抱負を語った。
そして記者団との質疑応答を行った。
・合同公演
まず「南北での合同公演について論じたのか」という質問には、「今回のイベントは、韓国政府の招きに伴い北側が行う一緒の『平昌五輪祝賀公演』という性格だ」と述べると同時に、「この日の実務接触で共同公演について議論されなかった」と明かした。
三池淵管弦楽団の公演はあくまで平昌五輪を祝う意味で、江陵市で開幕式に近い日に行うことを目標に協議を進めているという。
・三池淵管弦楽団
「三池淵管弦楽団」の実態については「2000年代の後半に作られたもので、主に海外から国賓訪問時に公演を行う音楽団であると、韓国側で把握している」と語った。
人数は140余名とされる。
この日、韓国側代表として参加したコリアシンフォニーオーケストラの2人によると、「オーケストラは80人が来ると聞いており、これは一般的な規模」(イ・ウォンチョル代表)で、「残る人員は歌と踊り」(チョン・チヨン芸術監督)とのことだ。さらに技術スタッフまで含まれるという。
・玄松月氏、モランボン楽団
玄松月氏が団長を務めることでも知られる、北朝鮮の知名度ナンバーワングループである「モランボン楽団」の訪韓は未知数だ。
一方、玄氏は訪韓する可能性がある。この日、北朝鮮側の代表団に名を連ねた玄氏の肩書は「管弦楽団団長」となっていた。
この「『管弦楽団』が新設される(三池淵)管弦楽団を指すのか」という記者の質問に、クォン首席代表は「そう理解している」と答えているためだ。
だが、玄松月氏が芸術団の団長として来るのかについても、やはり「言及が無かった」、「玄氏が団長である芸術団がそのまま来るという保障はない」と慎重な姿勢を崩さなかった。
・公演会場
公演会場についてもまだ決まっていないようだ。これについては「事前点検団が来て公演会場を見て最終的に決めるだろう」とした。
現在、複数の韓国メディアがソウル市内の会場候補として「芸術の殿堂」を挙げている。2000年に朝鮮国立交響楽団が実際に公演したこともある。江陵市では新築の「江陵アートセンター」が有力視されている。
なお、公演はソウル1回、江陵1回の計2回とのことだ。
・移動方法
李首席代表はさらに、注目の訪韓方法について「北側から板門店を通じてソウル・平昌まで移動するという提案があった」と明かした。
一度に140人が板門店を越えてくるのは極めて異例だ。記者団からは「入国手続きはどうするのか」と質問が飛んだが「今後協議していく」とかわした。
韓国側は「安全問題を考慮しKTX(高速鉄道)を利用し移動する」方法も提案したという。この場合、昨年末、平昌五輪に合わせ開通した「ソウル−江陵」間のKTXを利用することになるという。
公演内容が焦点、韓国の取材熱は早くも過熱気味
韓国側の李首席代表によると、この日の会議は「円満な雰囲気で行われた」という。
北朝鮮側としては旅費、滞在費をはじめ、あらゆる面での便宜に加え、最高の施設での公演が保障されるため、消極的になる理由はない。選りすぐりのスターを送り込んでくるものと見られる。
今後は公演内容が主な焦点になるだろう。北朝鮮の芸術には金氏一族の体制を賞賛する内容が少なからず含まれるため、調整が必要となる。これに関し15日午前、韓国の統一部は定例会見で「民謡、名曲が主になるだろう」との見解を明かした。
また、この日の会談場でも強い存在感を放った玄松月氏の来韓なども、注目の的だ。
韓国メディアは早くも、来韓する芸術団に高い関心を寄せている。実際に来る場合には大騒ぎになるのは間違いない。開催まで24日となった平昌五輪だが、ここにきて韓国内では一気に取材熱が盛り上がってきた印象だ。
明日17日には、やはり板門店で「北朝鮮の平昌五輪参加」を議論する南北次官級による実務会議が行われる。