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英語教育調査は「ゴミ」だらけ

寺沢拓敬言語社会学者

三省堂から『小学校で英語を教えるためのミニマム・エッセンシャルズ』が発売される。

同書の中で私は、

  • 第11章 現代社会における英語
  • コラム 気をつけたい「英語教育関連の実態調査」

を担当した。

本書は、小学校英語教育に携わる学生や教員に身につけて欲しい「教育内容」を中心に編まれている。つまり、指導法のようなテクニックではなく、英語や英語教育をめぐる基礎知識が中心である。

11章の内容は小学校英語の背景に特化したものなのでヤフーニュース読者には関係が深くはなさそうだが、コラムの内容はメディアリテラシー・調査リテラシーに関わる内容であり、一般的にも重要だと思うので以下に下書きを転載する。

簡単に言うと、頻繁にウェブメディアを流れていく英語教育・英語学習調査は、実はほとんどが信用が置けないものなのだという話である。そのうえで、信用がおける調査かどうかを判断するには、最低限、このあたりをチェックして欲しいということを述べた。

なお、記事タイトルの「ゴミ」とは、谷岡一郎著『社会調査のウソ――リサーチ・リテラシーのすすめ』(文春新書)からインスパイアされたもの(リアルに、1ページに1回は「ゴミ」という言葉が出てくる本。笑)。一方、私はゴミなどとは思っていません。「この調査はたしかに無意味ではありますが貴重な努力の結晶です。調査を行った皆さん、ご苦労様 (^^)」と思っていますので誤解なきよう。

以下は前述の通り下書き原稿である。本書に掲載されているものは、一ページに収めるためもっと簡潔に修正されている。

気をつけたい「英語教育関連の実態調査」

前章でさまざまな統計調査を紹介したが,似たような調査をインターネット上などで見たことがある人も多いだろう。たしかに,ウェブニュースには,英語教育に関する調査結果が頻繁に流れてくる。しかし,このタイプの調査には実はかなり怪しいものが多いので,慎重に見極めなくてはならない。

まず注意すべき点がその調査主体だ。この手の調査の多くは営利企業によって行われている。したがって,その目的は,純粋に「現状を調べる」「実態を明らかにする」というよりも,「たくさんの人が注目する調査結果を示して企業のプレゼンスを高める」という場合が大半だろう。逆に言うと,その企業がダメージを受けるような調査結果は出しづらい。たとえば,「ほぼ全企業の採用担当者が『応募者に英語力は求めていない』と答えました!」という調査結果が得られたとして,それを英会話スクールが発表するとは考えにくい。さすがにデータの捏造などということはめったにないはずだが,都合の悪い結果の公表を控えるということはどの企業でもやっていることだ(学者でもたまにしてしまう…)。

では,信頼できる調査を見つけ出すにはどうしたらよいか。まずチェックすべきなのが,調査対象に偏りがないかという点である。例えば,英語学習サイトにアカウントを登録している人を対象にした調査をしばしば見かけるが,当然ながらこの調査は「日本人英語学習者」の実態を明らかにしているわけではない。あくまで「英語学習意欲の高い人」かつ「当該サービスに登録している人」かつ「アンケートに回答する余裕やインセンティブがある人」の状況がわかるのみである。

どのような調査であれば,対象者に偏りが少ないのだろうか。その信頼度には次のようなグレードがある。

Excellent

│(1) 回答者を無作為に選んでいる調査

│(2) 無作為抽出ではないが,偏りが出ないような相応の配慮をしている調査

│(3) インターネット調査を専門とする会社のモニターを使用している調査

│(4) とくに何の考慮もなくインターネット上でばらまいている調査

Poor

(1) がもっとも信頼できて,(2) がまあまあ。(3) になるとかなり慎重な解釈が必要。(4) は残念ながらほとんど考慮する価値がない――とりあえず評価基準を示すと以上の通りである。

ウェブニュース等で英語教育関連の調査を目にしたら,ぜひ,回答者がどのように集められているか注目して欲しい。

なお,この統計リテラシーの話はなかなか奥が深いので詳しく知りたい人には,以下の本をオススメする。

  • 谷岡一郎 (2000). 『「社会調査」のウソ:リサーチ・リテラシーのすすめ』東京:文藝春秋
  • ハフ, ダレル. (1968). 『統計でウソをつく法:数式を使わない統計学入門』東京:講談社

補遺

言語社会学者

関西学院大学社会学部准教授。博士(学術)。言語(とくに英語)に関する人々の行動・態度や教育制度について、統計や史料を駆使して研究している。著書に、『小学校英語のジレンマ』(岩波新書、2020年)、『「日本人」と英語の社会学』(研究社、2015年)、『「なんで英語やるの?」の戦後史』(研究社、2014年)などがある。

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