名物の「豆腐チーズ」も新たに! 星の獲得も有力視されるレストランが1周年
レストランは2年目も注目される
レストランはオープン直後が最も耳目を集めます。
店の広さはどれくらいか、インテリアはどのようなデザインか、お酒の品揃えは充実しているか、そして、誰がシェフでどのような料理を体験できるかなど、関心が寄せられるのです。ただ、オープンしてから多くの人が訪れ、メディアにも紹介され、どのようなレストランであるのかわかってくると、新しくオープンする別のレストランに人々の興味が向けられるようになります。
しかし実は、オープン直後以外にも、レストランに注目するべき時期があります。それは、オープンしてから1年後です。なぜならば、四季が一巡して、再び同じ食材を扱うようになるからです。昨年と食材を使用したとしても、最初の年よりもさらに完成度の高い料理が期待されます。
2年目を迎える注目のレストラン
2年目を迎えるレストランの中で、大きな注目店といえば2020年9月1日にオープンしたフォーシーズンズホテル東京大手町の「est(エスト)」。
ミシュランガイドで2つ星を獲得したギョーム・ブラカヴァル氏がシェフを務めるコンテンポラリーフレンチです。今年のミシュランガイドで星を獲得することが有力視されています。
店名は「感情」=「Emotion」、「季節感」=「Saison」、「テロワール」=「Terroir」の頭文字から命名されました。ブラカヴァル氏と共に8年間働いてきたミケーレ・アッバテマルコ氏がペストリーシェフを務めるなど、チームの息はピッタリ。
この「est」で体験しておきたいのが、9月1日から30日にかけて提供されている「SAISON 1周年セレブレーション特別メニュー」 (6品、20,000円、税込・サ別)です。
特別コースの内容
1周年を記念する特別コースの内容は次の通り。
SAISON 1周年セレブレーション特別メニュー
・アピタイザーセレクション
・夏野菜のタルト
・沖縄県産の鮮魚 野菜
・ビジョン とうもろこし 梅
・豆腐チーズ
・シャインマスカット 蕪 ライチ
シグネチャーとなっている「豆腐チーズ」が入れられており、夏と秋の食材がふんだんに用いられています。メインディッシュのピジョン、つまり、ハトは初めてつかわれる食材なので特に注目でしょう。
では、いくつかのメニューを紹介していきましょう。
※内容は変更になる場合があります
夏野菜のタルト
フランスのティアン・ド・レギューム=野菜のオーブン焼きをイメージした前菜。ジャガイモのタルト生地で、ドライトマトのピューレを敷き、ナス、ズッキーニ、トマト、パルメザン、オリーブタプナード、タイム、タマネギを交互に重ね合わせ、40分かけてオーブンで焼き上げました。様々な野菜が複雑な旨味を醸し出します。トッピングされたフレッシュなズッキーニの細切りがよいアクセント。
沖縄県産の鮮魚 野菜
ブラカヴァル氏が信頼する南国食材専門から仕入れた、ハタ科のスジアラを用いた魚料理。スジアラはハマダイ(アカマチ)、シロクラベラ(マクブ)と並ぶ沖縄三大高級魚で、沖縄でアカジンミーバイと呼ばれる食味の素晴らしい白身魚。
中国料理でつかわれるのは珍しくありませんが、フランス料理で見かけられることはめったにありません。先進的なブラカヴァル氏らしい新たな試みであるといってよいでしょう。
スジアラはふっくらと蒸され、旨味が閉じ込められています。スジアラから出たダシとサフランのクリーム、沖縄の特産物であるカラマンシとシークワーサーを用いたソースは、スジアラの輪郭をよりはっきりと浮かび上がらせています。夏野菜のラビオリは滋味の感じられる甘味が印象的。
ビジョン とうもろこし 梅
フランス料理の代表的な食材、ピジョン=ハトを用いた新メニュー。旨味のあるハトの胸肉には深い苦味をもつ焙煎したカカオニブがまぶされ、ブラカヴァル氏が丹念に漬け込んだ南高梅のソースが合わせられています。
ハトの下には甘味のあるトウモロコシのペーストがあり、メリハリのある味わい。脂のある骨付き腿肉も添えられており、胸肉との食べ比べができるのも魅力。
豆腐チーズ
オープン以来人気のメニューであり、ブラカヴァル氏のシグネチャーディッシュ。京都の豆乳を用いた自家製豆腐のレアチーズです。9月15日まではシトラス風味で、16日からが新しくアレンジされたトマト風味に。中にしのばされたトマトの甘味と豆腐の滋味が感じられる一品に仕上げられています。
シャインマスカット 蕪 ライチ
シャインマスカットとカブ、甜菜糖を用いたデザート。カブのムースにはほんのりと甘味があり、ライチとゼラチンによって艶を出しています。シャインマスカット、カブ、ライチのスライスが美しく、様々なテクスチャと味わい。9月になって花や葉が散る様子を描いたという、芸術的な感覚に長けたアッバテマルコ氏らしいアーティスティックな一品。
記念メニューが考案された背景
どれも素晴らしいメニューばかりですが、「est 1周年記念セレブレーションメニュー」は、どのようにして創りだされたのでしょうか。
ブラカヴァル氏はこう答えます。
「9月はまだ暑さが残るので、秋が旬の食材だけではなく、トマトやナスなどの夏野菜やフルーツも入れてメニューを構成した」
旬を意識するので約2か月でメニューが新しくなりますが、ハトの料理は今回が初めて。それだけに、ブラカヴァル氏は今回最もオススメのメニューとしてハトの料理を挙げます。
「ハトは少し癖を感じる方もいらっしゃるが、南高梅の酸味やトウモロコシの甘味を入れることで、旨味を引き出し、味わいを深く感じさせている」
ハトには、ブラカヴァル氏が自身で漬け込んだ南高梅を使ったソースやカカオ、トウモロコシのペーストが一緒に合わせられています。こういった組み合わせを創出したり、沖縄のスジアラをフレンチの一皿に仕上げたりできるのは、日本を知り尽くしたフランス人シェフであるブラカヴァル氏ならでは。
コースを考案して完成するまでにどれくらいの期間や苦労を要したのでしょうか。
「1ヶ月ほどチーム全員で試行錯誤を繰り返した。今回のコースで使用している梅は6月くらいから漬け込んでおり、提供までに2ヶ月を要している」
2年目以降も楽しみなレストラン
2年目を迎えるにあたり、ブラカヴァル氏はこういいます。
「常に旬の食材を用いているので、よい食材を提供いただける生産者に感謝している。日本には本当に様々な食材があるので、いつも新鮮な気持ちで創作に取り込んでいる」
ゲストからの強い要望で復活するメニューもあるということなので、「SAISON 1周年セレブレーション特別メニュー」 はもちろんのこと、新旧の料理で構成された2年目以降のコースに、これまで以上に期待したいです。