新幹線、次はどっちだ~北陸新幹線か四国新幹線か
北陸新幹線敦賀延伸で高まる期待
北陸新幹線の金沢から敦賀への延伸開業予定の2024年春まで、1年と少しとなった。
福井県は、11月1日から6日の期間、東京駅で「北陸新幹線福井・敦賀開業カウントダウンキャンペーン」を開催した。福井県は首都圏で、恐竜をテーマにしたPR活動を繰り広げている。福井県勝山市では、多くの恐竜化石が発見されているため、これまでも福井県と言えば恐竜のイメージが定着するほど、PRに力を入れてきた。福井県立恐竜博物館は、「世界三大恐竜博物館」とマニアからも評されるほどの恐竜化石などの収蔵物を誇り、年間来場者は約80万人だ。
福井県の自治体関係者は、「北陸新幹線の延伸で敦賀まで新幹線が走る。しかし、大阪方面からの特急を福井駅まで延長運転して欲しいという県の要請は断られた。敦賀駅で乗り換えが必要となれば、関西方面からの観光客が減少することは避けられない。一方、首都圏からの観光客には、期待が膨らんでいる」と説明する。
金沢一人勝ちからの脱却
「加賀温泉郷にとっては、最大のチャンスだ。」片山津温泉、山代温泉、山中温泉、そして粟津温泉の四つからなる加賀温泉郷のある旅館経営者は、そう話す。「新幹線金沢延伸開業で観光客が増えるかと期待したのだが、金沢一人勝ちの結果だった。北陸新幹線の敦賀延伸で、加賀温泉駅に新幹線が停まれば、首都圏からの観光客が直接来ることができる」と期待をする。実は、加賀温泉郷は、北陸新幹線金沢開業の2015年には前年と比較して宿泊客は増加したものの、その後、緩やかに減少し続けてきた。
2024年春には、金沢駅以西の石川県に加賀温泉駅、福井県に芦原温泉駅が開業し、富山県の黒部宇奈月温泉駅と合わせて、北陸三県にそれぞれ「温泉」が付いた駅があることになる。新駅開業は、PRにも相乗効果が期待できる。
所要時間が短縮されるだけではなく、在来線に乗り換えず、新幹線でそのまま行けるということが観光客誘致にとっては非常なメリットだ。旅館経営者は、「これまでの金沢一人勝ちから、新幹線の効果が自分たちのところにも拡がってくるはずだ」と言う。
しぼむ大阪延伸への期待
「関西の政財界は、どう考えているのだろうか。北陸側は、北陸新幹線によって首都圏直結となり、正直、関西延伸への関心は醒めてきている」と筆者に北陸地方のある政治家は、以前にそう話したことがある。北陸新幹線を巡っては、以前から北陸地方と関西地方の温度差が目立っていた。
11月16日に、北陸新幹線建設促進同盟会と5団体が、政府与党に対して2023年春の敦賀以西着工を要望した。石川県の馳浩知事と福井県の杉本達治知事は、来年度予算に盛り込むよう発言した。しかし、京都では反対運動も起きており、難工事が見込まれることもあり、政府与党側からは具体的な回答はなかった。
こうした北陸側の熱心さの反面、要望前に東京都内で開催された北陸新幹線建設促進大会に、京都府、大阪府のそれぞれの知事の出席は無かった。馳石川県知事は、11月22日の記者会見で「恩恵を受ける京都や大阪の知事にも理解してもらわないといけない」と発言した。北陸側と関西側の温度差に、いらだつ声も北陸の経営者などと話をすると耳にすることも少なくない。
石川県の中小企業の若手経営者は、「私の周りでも、敦賀から先の延伸にはあまり関心がないという雰囲気ですよ。確かに昔は繊維産業などを通じて、関西方面との繋がりが強かったですが、今はそうでもない。大阪府や京都府が、そんなに熱心じゃないなら、もういいんじゃないのですかね」と言う。北陸地方の中小企業支援団体の職員は「金沢を中心とするエリアは中部地方の影響が強かった面もあるが、急速に薄れている。経営者たちの中には、名古屋市よりもさいたま市に出る方が便利になっているのだから、中部経済産業局よりも、関東経済産業局に替えてもらいたいという声もあるくらい」と話す。一方で、「北陸の温泉地というと、関西の奥座敷などと長年言われてきた。関西の人は、どこかこちらを下に見ている感じがあるんじゃないですか。小浜から山岳地帯を通って、京都市内の真ん中なんて想定されていたルートの中で最も困難でしょ。期待しろと言われてもねえ」と辛らつだ。
「さあ、次は四国の番だ。」
「さあ、次は四国の番だ。」をキャッチコピーにしているのは、四国新幹線整備促進期成会だ。ツイッターやYouTubeを使っての若者層へのアピールなど、活動を活発化している。
北海道新幹線が新函館北斗駅まで開業し、札幌駅延伸が2030年度末に予定されている中、九州、本州、北海道、四国の四島のうち、新幹線が走っていないのは四国だけとなる。
四国新幹線については、何度も計画が浮上しながら、以前として「幻」のままになっている。徳島と淡路島を結ぶ大鳴門橋や、岡山県児島と香川県坂出を結ぶ瀬戸大橋には新幹線のスペースが建設時に設置されていることは有名だ。
四国の政財界にとっては、新幹線によって本州から直行できるようにすることは悲願でもあるし、観光産業などの地域経済振興のためにも重要なことは確かである。しかし、膨大な建設費や採算性、JR四国の経営難など、問題も山積している。
再び盛り上がるか?新幹線計画
国土交通省は「幹線鉄道ネットワーク等のあり方に関する調査について」の中で、在来線を利用したミニ新幹線化を行い、段階的に高速化を進めるという整備方法を提案している。山形県では、10月に山形新幹線の福島・米沢間の新トンネルを200km/h以上で走行するフル規格で整備する方針を発表した。また、秋田新幹線でも2021年に田沢湖線赤渕駅・田沢湖駅間の新仙岩トンネル建設について、JR東日本と秋田県が覚書を交わしている。
今年開業した西九州新幹線では、武雄温泉駅と長崎駅の間だけであり、地元では武雄温泉駅以東の開業が待たれている。このように再び全国で新幹線計画への関心が高まっているように見える。
こうした動きに呼応して、11月には自民党の有志議員が「全国新幹線ネットワーク整備財源を考える会」を発足させた。山陰新幹線や四国新幹線などの計画を推進することを確認したとしている。
現在の新幹線計画の根拠となっているのは、1970年に定められた全国新幹線鉄道整備法に基づく「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」だ。
当時の日本は、高度経済成長期の真っただ中だった。1972年には「列島改造ブーム」を引き起こした田中角栄氏の「日本列島改造論」が発表された。その中に「全国新幹線鉄道網理想図」が掲載されている。新幹線は、日本列島を改造し、地域の経済を成長させる力を持っていると信じられていたのだ。
「次の新幹線はどこか」の綱引きも、その地域にとっては、もちろん重要だ。しかし、人口も増加傾向にあり、経済も急成長していた50年前の理想図を、そのまま現代に適用することが可能なのか。北陸新幹線敦賀以西の延伸問題も、それらを考える材料になるだろう。賛否両論、いずれにしても慎重な議論が必要だろう。