上位進出を狙うノジマステラ神奈川相模原と浦和レッズレディースの熾烈な戦い(1)
5月13日(土)と14(日)になでしこリーグ第8節が行われ、ノジマステラ神奈川相模原(以下:ノジマ)は、浦和レッズレディース(以下:浦和)をホームに迎えた。
ノジマは6戦負けなし(2勝4分1敗)で、1部昇格初年度ながら、粘り強い戦いを見せている。7節終了時点で勝ち点は10の6位だが、2位INACとの勝ち点差は「3」。全18節のなでしこリーグ(2回戦総当たり)は、残り2試合で前半戦を折り返すところに来ており、ノジマは上位進出できる位置につけている。
一方、浦和は2連勝でこの試合を迎えた。
年代別代表の経歴を持つタレントを多く抱えながら、同時に得点力不足という課題も抱えてきた浦和だが、今シーズンはジェフユナイテッド市原・千葉レディースから加入したFW菅澤優衣香を軸に、攻撃パターンを着実に増やしている。菅澤自身も調子を上げており、前節のちふれASエルフェン埼玉戦では4得点の活躍で7-0の勝利に貢献。第7節終了時点で、7ゴールは得点ランキング1位である。浦和はノジマと同じ勝ち点10で、上位進出を狙える5位でノジマとの一戦を迎えた。
【拮抗した前半】
朝から降り続いていた大雨の影響で肌寒いコンディションの中、試合は立ち上がりから積極的に攻め合った。
中盤で高い位置からプレッシャーをかけてショートカウンターを狙うノジマに対し、浦和は中盤でボールを回しながら相手を動かし、積極的に前線の菅澤にロングボールを入れた。
その狙いについて、浦和の石原孝尚監督は以下のように話した。
「(第3節の)INAC(神戸レオネッサ)戦と(第4節の日テレ・)ベレーザ戦で、(相手に)カウンターをしてもいいですよ、というサッカーをしていたので、その点は修正して、相手にカウンターのチャンスを与えない攻撃に取り組んできました」(石原監督/浦和)
浦和は、INAC戦とベレーザ戦では中盤でボールポゼッションを高めてゴールを狙うスタイルで、INACに0-2、ベレーザには0-3で敗れた。攻撃面では多くのシュートチャンスを作ったが決めきれず、逆に、前がかりになった際のボールの失い方が悪く、ピンチを招いた。そのため、この試合では前線の菅澤に早めにボールを入れることで、自分たちのゴールに近い位置で相手にボールを奪われるリスクを避けつつ、ゴールを狙った。
一方、ノジマも菅澤に入るロングボールに対するリスク管理は徹底していた。ノジマはDF高木ひかりとDF國武愛美、DF長澤まどかが3バックで菅澤を囲い込んで対応。さらに、両サイドハーフのMF小林海青とMF石田みなみがDFラインに下がって5バックを形成し、ノジマのボランチ、MF田中陽子とMF尾山沙希も含めた総勢7人でブロックを作り、浦和に攻撃のスペースを与えなかった。
ノジマの菅野将晃監督は、
「本来、3バックは攻撃を優位に進めるためにやっています」(菅野監督/ノジマ)
と、3バックは「守備固め」が狙いではないことも強調。また、高い位置でボールを奪えそうな場面ではショートカウンターを狙った。しかし、浦和はセンターバックのDF高畑志帆とDF長船加奈を中心に、3試合連続無失点の堅守が機能しており、ノジマのラストパスはことごとく跳ね返された。
一進一退の展開が続く中、より多くのチャンスを作ったのは浦和だ。
30分、右サイドからMF猶本光の横パスに、ゴール正面から走り込んだMF加藤千佳がダイレクトで合わせたが、シュートはノジマのGKジェネヴィーブ・リチャードが鋭い反応で右に倒れて弾き出した。
さらに、浦和は33分、左サイドバックの木崎あおいがノジマ陣内、右サイドバックの裏のスペースで高畑からのロングフィードを受けてドリブルで仕掛け、角度のない位置からニアサイドを狙って左足を振り抜いたが、シュートはサイドネットに外れた。
試合は時間とともに膠着し、0-0で前半を終えた。
【少ないチャンスを活かした勝負勘と決定力】
後半に入り、浦和が試合を優勢に進めた。
最初の決定機は52分。カウンターから、加藤のスルーパスに抜け出したFW吉良千夏がノジマの長澤を切り返しでかわし、GKの動きを見極めて冷静にゴール右隅を狙ったが、シュートはわずかに右に外れた。
さらに浦和は61分、ノジマのディフェンダーがヘディングで跳ね返したボールにいち早く反応した加藤が、胸トラップからダイレクトで右足を振り抜いたが、シュートはバーに当たって外れた。
一方、ノジマも69分に中盤で良い形でボールを奪うと、FW南野亜里沙がすかさずループシュートを狙ったが、浦和のGK池田咲紀子が的確なポジショニングでキャッチ。
このプレーで流れを得たノジマは、連動したパスワークで攻め込んだ。75分には交代で入ったFWミッシェル・パオがドリブルで仕掛けてゴールを狙ったが、シュートまでは持ち込めず。
均衡が崩れたのは、73分。左CKを得た浦和は、MF筏井りさがゴール前に入れたボールを一度は跳ね返されたものの、再び筏井がダイレクトでゴール前にクロスを入れ、ファーサイドでフリーになった高畑がヘディングで合わせ、ついに先制。
「あの場面は、(菅澤)優衣香とフネ(長船加奈)に相手の強いディフェンダー2枚がついていましたし、練習の中では(高畑)志帆がファーサイドに入ることも多いので、あのスペースに入れたら何かが起きると思いました」(筏井/浦和)
ピンポイントで合わせた高畑の決定力もさることながら、一瞬でそれらの情報を処理して判断し、持ち味の正確なクロスでゴールをおぜん立てした筏井の勝負勘と技術も冴え渡った。
1点を追うノジマは、83分にFW南野亜里沙に代えてFW工藤麻未、左サイドハーフのDF石田みなみに代えてDF和田奈央子を投入してゴールを狙いに行った。
浦和もトップの吉良に代えてFW清家貴子、ボランチの猶本に代えてMF塩越柚歩を投入。後半アディショナルタイムにはFW菅澤に代えてFW白木星と、20歳以下の若い選手たちを次々に投入して前線を活性化させ、90分には柴田華絵の左足のシュートがバーを叩く場面も。
結局、このまま攻めきった浦和が1点のリードを守り抜き、1−0で勝利し、3連勝。浦和は第8節終了時点で、勝ち点13の単独5位になった。一方、ノジマは7試合ぶりの敗戦となり、同6位に後退した。
【4試合連続無失点の堅守】
この勝利によって浦和は、勝ち点14で並ぶ2位のINAC神戸レオネッサ、3位のAC長野パルセイロ・レディース、そして4位のマイナビベガルタ仙台レディースに勝ち点1差で追いつき、これらのチームを射程圏内に捉えた。特筆すべきは連続無失点記録を4試合に伸ばしたことである。特に、センターバックの高畑と長船、GK池田を中心に最終ラインの守備は安定しており、この試合ではノジマに決定的なシュートを打たせなかった。
「前からの守備と、最後の場面で守りきるという、チームとしてやるべきことが明確になってきました。まだ課題は多いのですが、一つひとつクリアして、無失点記録を伸ばしたいです」(高畑/浦和)
流れの中では左サイドバックの木崎が激しい接触プレーを惜しまず体を張って奪う場面が何度かあり、中でも、流れを変えた2つのプレーが印象に残った。一つは、決勝点に繋がったCKを獲得する流れを作った72分の場面。もう一つは、試合終了間際に相手のカウンターに繋がりそうな場面で、素早く体を入れてボールを奪い返した場面である。木崎の本職はボランチだが、今シーズンはDF北川ひかるがシーズン前のケガで戦列を離れたこともあり、彼女に代わって今は、サイドバックでプレーしている。球際では体の入れ方がうまく、常に気持ちの入ったプレーは見ていて清々(すがすが)しい。
浦和は、交代で入った塩越や清家、白木が積極的なプレーを見せたことも収穫と言える。5月12(金)には、ドイツ1部のエッセンに所属するFW安藤梢が浦和に復帰することが正式に発表され、前線はより盤石になる。同時に、ポジション争いも、さらに激化する。
「サブの選手がしっかりしているチームは強い」と言われるが、全員が高いモチベーションを保ち続け、戦力の均衡を保つことの難しさも、推して知るべし、である。石原監督は、マネジメントの難しさと手応えを口にした。
「嬉しい悩みですが、だからこそ、サブの選手の強化に力を入れています。今年は(元日本女子代表で浦和のDFだった)柳田(美幸)コーチが来てくれて、メンバー外の選手たちのトレーニングもしっかりやってくれています。90分間×11人をうまく使って、全員で成長していきたいと思っています」(石原監督/浦和)
浦和は次節5月21日(日)にホームの浦和駒場スタジアムにアルビレックス新潟レディースを迎える。
【「負けない」チームから「勝ち切る」チームになるために】
ノジマは連続無敗記録が「6」で途絶えたが、厳しい試合を重ねる中で、昇格1年目の1部での戦いぶりには確かな成長が感じられる。実際、なでしこリーグ1部の常連チームであるベレーザや浦和に対し、守備一辺倒になるのではなく、攻めながらもしぶとく勝ち点を積み重ねていることに手応えを感じている選手も多い。センターバックの高木ひかりは、チームの成長のきっかけとして、開幕戦のINAC戦の敗戦を挙げた。
「3-0でボロボロに負けた(開幕戦の)INAC戦から、学ぶことがたくさんありました。一人じゃ守れない分、みんなでどうやって守るか、とか、一人を潰したら絶対にカバーに入るとか、そういうことをDFラインがみんなで意識してやれていると思います」(高木/ノジマ)
一方で、シュート数の少なさは課題である。この試合も、シュート数は前後半を通じてわずか5本にとどまった(浦和は15本)。今後、上位チームに勝つためには、この課題を早急に解決する必要がある。
「決定的な場面の一つ前(でチャンスを作るということ)をクリアできるようにならないと、シュートまで行く場面は出てこないと思います」(菅野監督/ノジマ)
中盤から前線のゲームメイクを担うFW吉見夏稀も、決定力以前の問題として、シュートまで行く場面が作れていないことを反省点に挙げ、課題の克服を誓った。
「日頃からシュートの練習はしているのですが、その前の段階で考え直さなければいけないですね」(吉見/ノジマ)
ノジマは次節、5月21日(日)にアウェイのフロンティアサッカーフィールドでジェフユナイテッド市原・千葉レディースと対戦する。