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「真実」を知るのは怖いこと。でも私は「真実」が知りたい。『新聞記者』

渥美志保映画ライター

今回は6月28日公開の映画『新聞記者』に主演のシム・ウンギョンさんのインタビューをお届けします。

シム・ウンギョンさんと言えば、大ヒット映画『サニー 永遠の仲間たち』『怪しい彼女』(オリジナルの韓国版)に主演した女優さん。今年から映画や舞台など、日本でも本格的な活動を開始しています。

原案は、東京新聞の望月衣塑子さんの同名著作。もしかしてこれはあの事件?!という具合に現実とクロスオーバーしながら進む物語は、ハラハラドキドキの連続です。日本には珍しい社会派サスペンスを、韓国きっての演技派女優はどんなふうに理解し、演じたのでしょうか?

ということで、まずはこちらをどうぞ!

日本進出の理由を教えてください。

シム・ウンギョン 以前から、俳優として勉強するためには、韓国以外のいろいろな国でも仕事をしたほうがいいなと思っていたんです。そのひとつの国が日本でした。日本の文化にも興味がありましたし、特に多くの日本映画に影響されたところがあります。中学生くらいの頃から是枝裕和監督や岩井俊二監督の作品を見て、こういう映画が(自分で)撮りたいと思ったこともありましたし、いつか日本映画に出たいなあと思っていたんです。中島哲也監督の『告白』の松たか子さんのお芝居がすごく好きで、いつかああいう悪役も演じてみたいです。

この作品に出演することになった経緯は?

シム・ウンギョン プロデューサーさんから「一緒にお仕事がしたい」とオファーをいただきました。でも台本を読み、最初に思ったのは「ハードルが高いな」ということ。作品の内容が社会派だったこともありますが、今の自分の日本語レベルでちゃんと演じられるのかなと。役も、たやすく演じられるとは言い難い役です。今この時代に生きている普通の人の姿をリアルに演じるのは、一番難しいことなので、できるかなあと。

『サニー 永遠の仲間たち』の、”おばあちゃんが憑依”して暴れる場面はものすごくインパクトありました。あの子がこんなに大人の女優さんになっちゃって!
『サニー 永遠の仲間たち』の、”おばあちゃんが憑依”して暴れる場面はものすごくインパクトありました。あの子がこんなに大人の女優さんになっちゃって!

出演を決めた一番の理由はどんな部分でしたか?

シム・ウンギョン 台本が面白かった、感動したというのが一番大きかったですね。ふたりの主人公、私が演じている新聞記者の吉岡エリカと、松坂桃李さん演じる杉原拓海の行動と生き方、そして彼らの周囲にいる登場人物たちは、今の時代に生きている私たちの群像だなと。その部分がすごく印象的でした。

演じた吉岡エリカはどんなキャラクターですか?

シム・ウンギョン エリカはアメリカ育ちで、日韓の両親を持つ女性です。新聞記者だった父親の影響で新聞記者になった人で、表面的には冷静に見えますが、心の中にはすごく熱いものがある人です。

彼女の生き方で一番心に触れたのはどんなところでしょうか?

シム・ウンギョン 彼女は新聞記者だった父親が言っていた言葉をいつも心に刻んでいます。それは「自分自身を信じて、疑え」というものです。自分を信じるけれど、信じすぎてはいけない。これは本当に難しいところで、エリカも迷い悩んでいるところがあるんですよね。私自身、女優業でもそう感じるところがあるし、そうなりたいなと思いますが、まだまだで。彼女はすごいと思います。

シムさん演じるエリカは、このグレーな世界の中で異物のように、赤い色を身に着けています。記事を書くためにキーボードを打つ前に、必ずハンドクリームを塗るのも印象的でした。
シムさん演じるエリカは、このグレーな世界の中で異物のように、赤い色を身に着けています。記事を書くためにキーボードを打つ前に、必ずハンドクリームを塗るのも印象的でした。

エリカは、男社会の新聞業界で生きる女性であり、同時に複雑なアイデンティティを持っていますよね。演じる上で、そうした部分から想像したことはありますか?

シム・ウンギョン もしかしたら彼女は「私は日本人?韓国人?それともアメリカ人?」と悩んだり、自分の出自への複雑な思いがあるかもしれないなと想像はしました。それゆえのバランスのとり方や、自由の大切さを理解しているかもしれないなとも。

新聞業界が男社会であることは特に意識はしませんでしたが、そういう環境だったからこそ、彼女は強い信念をもって頑張ったんじゃないかと思います。彼女も心の中では怖かったかもしれない、でも自分がやらなければと思ったんでしょう。でもそれは性別に関係なく、人間として。人間として、この事件を取材しなければいけない、踏み込むべきだと。そこは家族から与えられた特性ですよね。そういう部分はもともと台本にも描かれてはいましたが、私はもっと彼女の主体性として見えるようにしたい、そういうことを考えながら演じました。

この映画が描くテーマはどんなものだと思いますか?

シム・ウンギョン 結局は「真実」と「選択」の話だと思います。そのふたつってすごく人間的な言葉だと思うんです。「真実」とは何なのか、私たちが真実だと信じている「真実」は、本当に真実なのか。そして人はそれとどう対峙し、それぞれの人生で何を選択してゆくのか。主人公の女性記者と若手官僚は、様々な場面で様々な選択をするのですが、それを異なる角度から見ていくことで、映画の深いメッセージが伝わると思います。

内調で働く若手官僚(松坂桃李)は、自身の信頼する上司の自殺から、何か不気味なものを感じ始めます。
内調で働く若手官僚(松坂桃李)は、自身の信頼する上司の自殺から、何か不気味なものを感じ始めます。

「真実」を知るのは怖いことだなと思いながら見ましたが、ご自身はどう思いますか?

シム・ウンギョン 確かに怖いかもしれませんが、私は真実を知ったほうがいいです。そして向き合って、考えて、前に進むしかないと思います。

現場はすごくシリアスだったのでしょうね…。

シム・ウンギョン 映画の内容もそうですし、他の作品に比べて現場の緊張感は高かったと思います。韓国映画よりずっと短期間で撮ることもあり、よりギュッと集中してやらなければ演じられず、ずっと役のことばかり考えていましたし。でも演じるのはすごく楽しくて、もっとお芝居がしたい!と感じられる現場でした。現場で出た「今半」のすき焼き弁当もすごく美味しかったです(笑)。

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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