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僅差で3チーム争う。リーグワン・プレーオフ残り1枠の行方は?【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
ヴェルブリッツの茂野共同主将。強気のサイドアタックが際立つ。(写真:つのだよしお/アフロ)

 レベルの高い選手が一丸となったら、いいラグビーをするのは自然な流れか。

 トヨタヴェルブリッツにあって、国代表の選出歴がある選手は計17名。国内リーグワン1部の12チーム中4番目に多い。この数字で上回る3チーム中2つは、第14節までに上位4傑によるプレーオフ行きを決めている。

 2022年4月30日、東京は秩父宮ラグビー場。そのヴェルブリッツは第15節で、簡潔なシステムのもとコリジョンを圧倒。64―17。相手のリコーブラックラムズ東京が故障者続出に泣いていたのを差し引いても、勝者の充実ぶりは光った。

 遠方の会場ながら、スタンドでは控え部員がマスク着用のもと拍手喝采。フランカーの古川聖人は言う。

「自分たちはひとりひとりいい人間、いいプレーヤーが揃っているなか、相手に対して受けてしまう状況が多かった。いまは自分たちからファーストパンチをするよう、マインドセットが変わった」

名将の交通整理

 前身のトップリーグ時代からよく4強争いに顔を出していたヴェルブリッツは、今季、大量補強で話題を集めた。特に南アフリカ代表58キャップ(代表戦出場数)のフランカー、ピーター・ステフ・デュトイは、ワールドカップ日本大会があった2019年の世界最優秀選手だ。いざ来日すれば、巨漢ながらタックルを連発できる運動量で通好みのファンをうならせる。

 ところがチームは、第14節までに9勝5敗で6位。好プレーの直後のエラーも少なくなく、コストパフォーマンスの観点では口惜しく映った。

 戦力の最適化は首脳陣の見せ場とされるなか、サイモン・クロンヘッドコーチが今季限りで退任することがシーズン中盤に発覚。3月下旬頃だった。本人は「選手へは(そのタイミングであった)グリーンロケッツ戦後に伝えました。豪州メディアが情報を出すのが早かったため、そういう結果となったのですが、自分にとってもハードでした」と述べた。

 現役日本代表でナンバーエイトの姫野和樹共同主将は、組織としての血の巡りについてこう吐露したことがある。

「今季は、いままでで一番うまくいっていないシーズンになっています。キャプテンとしての責任も感じています。もっともっとヘッドコーチやスティーブ・ハンセン(ディレクター・オブ・ラグビー=後述)と密にコミュニケーションを取るべきだった。またチームが迷ってしまった時、自分が舵を取って方向性を束ねるということも、もっとうまくできたと自分のなかでは思っています」

 直近の静岡ブルーレヴズ戦では18―15と勝利も、スクラム、陣地の奪い合いでは劣勢に回った。ただ、苦しい季節にしかるべき種がまかれてはいた。

 このチームのディレクター・オブ・ラグビーで元ニュージーランド代表ヘッドコーチのハンセンは、3月上旬頃にチームへ合流した。ここから練習の空気が変わったようで、不完全燃焼に終わったブルーレヴズ戦後も見事に交通整理。現象の奥底にある根本的な改善点を示し、ブラックラムズ戦での働きに繋げた。

 キーワードは「テイク」。その心は。スクラムハーフの茂野海人共同主将はこの趣旨で語る。

「自分たちからゲームを奪いに行くマインドセットです。それを置くことで役割の実行力が上がっていきました。(合言葉は)ブルーレヴズ戦が終わった後のリーダーズミーティングでサイモンヘッドコーチが話すなどして、その後のチームミーティングでスティーブが伝えて、チーム全体に浸透したという感じです」

 かくして暫定で4位に浮上し、4強によるプレーオフ行きの可能性を残したまま5月7日の最終節を迎える。この日欠場のデュトイ、怪我で交代した姫野の出場は流動的ななか、古川は「役割のひとつひとつに価値をもってやり切る」と言い切る。

キャラクターとスタイルのシンクロ

 リーグワン1部のレギュラーシーズンはきょう5月1日に残った試合を含め、あと2節のみを残す。注目のプレーオフ争いではサンゴリアス、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ、埼玉パナソニックワイルドナイツが3枠を埋め、残るひとつの椅子をヴェルブリッツなどの3チームで争う。

 リーグで得られる勝点は「白星=4」「引き分け=2」「黒星=0」「ボーナスポイント(3トライ差以上での勝利、7点差以内での負け)=1」。1試合で最大で得られる勝点は「5」で、第14節の終了時点では「4位=東芝ブレイブルーパス東京=44」「5位=横浜キヤノンイーグルス=41」「6位=ヴェルブリッツ=41」となっていた。きょう5月1日の試合を含めた残り2節の結果次第で、顔ぶれはいかようにもなる。

 直近まで4位にいたブレイブルーパスは、スタンドオフ兼センターの中尾隼太曰く「(中盤戦から)一貫してパフォーマンスを出せています」。昨年のトップリーグでは16強止まりと不振にあえぐも、今季は主力選手のキャラクターと大胆なプレースタイルを絶妙にシンクロさせている。

スタンドオフも務めるブレイブルーパスの中尾
スタンドオフも務めるブレイブルーパスの中尾写真:西村尚己/アフロスポーツ

 主力にはかねてチームを支える元日本代表主将のリーチ マイケル、ニュージーランド代表25キャップのマット・トッドの両フランカー、爆発力ある日本代表ウイングのジョネ・ナイカブラのほか、新加入のジェイコブ・ピアズ、実質ルーキーイヤーのワーナー・ディアンズといったいずれも2メートル超の両ロック、ニュージーランド代表3キャップのスタンドオフであるトム・テイラーらが並ぶ。

 何よりジョー・マドックアシスタントコーチの描くプランを、同僚に「プレーするコーチ」と評されるティム・ベイトマン、バイリンガルの中尾隼太といったセンター陣が、それぞれの母国語でプレゼンする。

 段階的なスキルトレーニング、夏から秋にかけての猛練習で個々の資質を高めたこともあり、中尾はかような手ごたえを掴んだ。

「アタックのオプションがたくさんあって、どれを使うかを対戦相手によって組み替えています。今季は(以前よりも)パスやキックの精度、状況判断のレベルが伴ってきたので、その有効的なオプションを、プレッシャー下でも実行できるようになりました」

 クラブの法人化にも踏み切ったブレイブルーパスは、5月1日、味の素スタジアムでサンゴリアスに挑む。

 本拠地の場所にちなんで「府中ダービー」と呼ばれるこのカードに、1位通過を目指すサンゴリアスは概ねベストメンバーと呼べる陣容で臨む。

 60―46と打ち合った第1節の同カードもサンゴリアスが勝っており、ブレイブルーパスでは司令塔のテイラーが今回、メンバーに加われない。ブレイブルーパスの成長度合いが、本当の意味で問われる。

 8日の最終節はブルーレヴズ戦。第5節の同カードではブレイブルーパスが59―26と快勝も、当時の敗戦を機に先方は防御システムを大幅に完全している。

 各クラブが成長物語を紡ぐなか、中尾は「とりあえず、プレーオフに行くことが大事です。そこからは一発勝負(トーナメント)で、僕らには爆発力がある…」と一戦必勝を誓う。サンゴリアス戦の見どころはこうだ。

「チームとしては、接点の部分で、どっちが前に出るかがかなり大切になると思っている。(ポイントは)そこの一点かなと思うくらいです。個人としては、難しい局面もたくさん出てくると思うので、そこで適切な判断を下す。そして精度の伴ったプレーをしたいです」

イーグルスの「愛」

 旧トヨタ自動車、旧東芝府中といったこれら老舗2チームと比べ、新味でファンを沸かせたのはイーグルスだろう。

 就任2年目の沢木敬介監督は、2016年度からの3シーズン、サンゴリアスを指揮してトップリーグ2連覇を達成。いまのサンゴリアスの要職者にも、「優秀な指導者だと思う」と貴ばれる。

沢木監督は毎週、全選手と個人面談。
沢木監督は毎週、全選手と個人面談。写真:西村尚己/アフロスポーツ

 新天地でも前任時代と同じく、組織的にスペースを攻略する意識、セットプレーの安定感、それらを試合終盤まで出力するためのフィットネスを鍛えてきた。

 かねてチームにいた日本代表スタンドオフの田村優を「一番ラグビーがうまいから」と主将に指名し、昨季途中には前所属先を退団した同代表ナンバーエイトだったアマナキ・レレイ・マフィを受け入れる。他国代表歴のある選手を他チームよりも少ない2名としながら、多彩な個性をひとつの生命体に昇華させる。

 グラウンド外では、部内に選手のあるべき姿を定める「ブランドリーダー」という役職を設置。「チーム愛」の重要性を問う。

 かくしていまは、実戦練習で「ライザーズ」と呼ばれる控え組がタフに牙をむく。「ライザーズ」側に好ランが生まれれば、やや辛口で知られる指揮官もこの調子だ。

「…速いじゃん!」

 以前といまとの違いは。入部8年目に突入の主力フランカー、嶋田直人は、戦術を問う以前の領域に触れた。

「いまは、嫌ですもん! ライザーズを相手に練習するの。すごくいいアタックをするし、毎週、毎週、試合と同じ強度でプレッシャーをかけてくる。それで、メンバーは試合でいいプレーができる」

 第14節では優勝候補のワイルドナイツに終盤に突き放され24―33と負けたが、沢木監督はこうだ。

「走れなくて負けたという感じじゃない。自分たちのミスで走らされた、という感じ。ゲームのあやを知っている選手が、ワイルドナイツには多いと思います」

 敵陣深い位置で大きな突破を許したり、空中戦での圧力が鈍った直後に決定的な失点を喫したりしたのを反省した。

 話をしたのは4月29日の練習後。グラウンド脇の雨よけの下で、「自分たちのやれることをやるだけ。それしかない」。コベルコ神戸スティーラーズ、NECグリーンロケッツ東葛との残り2試合で勝点を4~5ずつ得て、果報を待ちたい。指揮官は言う。

「色んなプレッシャーに負けないことだね。プレーオフに行けるかもしれないという状況も、経験のない選手にとってはプレッシャーになるかもしれない。ただ、それを楽しみながら、自分のパフォーマンスに繋げていける選手が、勝てる選手だと思う」

チーム力とは何か

 チーム力を数値化するなら、組織文化の質、指導力、選手個々の能力の掛け算で弾き出すほかないのではないか。

 だから十分な戦力を擁するチームが白星を得られなかったり、代表選手の少ない伏兵がいわゆる「番狂わせ」の主役となったりするのではないか。その普遍はきっと、他競技にも当てはまるような。

 ヴェルブリッツ、ブレイブルーパス、イーグルスのうち、3つの値の積が高いチームは3つのうちどこか。すべてが終わった後の順位表が、それを証明する。

<参考資料>

ディビジョン1年間スケジュール

同順位表

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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