【バスケW杯】3ポイントを決めたいなら2点を取れ!男子バスケが98点の高得点で歴史的勝利を収めた理由
フィンランド相手に歴史的な勝利
沖縄アリーナで開催中のワールドカップ。8月27日、格上のフィンランドに対して98-88で逆転勝利を収め、2006年世界選手権でのパナマ戦以来、17年ぶりに世界大会で勝利をあげた日本男子バスケ。これまで、98得点もの高得点を叩き出して世界舞台で勝利した試合など記憶にない。ワールドカップで待望の1勝をあげたこともさることながら、ハイスコアゲームを制するという新しい歴史の扉を開いた価値ある1勝だった。
男子バスケは、東京五輪で銀メダルを獲得した女子同様、3ポイントを主体としたスタイルを目指している。トム・ホーバスHC(ヘッドコーチ)は「3ポイントの試投数を増やして得点効率を上げ、確率は40%を目指したい」と常々語ってきた。しかし、その持ち味である3ポイントが、ワールドカップ前の強化試合から、初戦のドイツ戦まで低迷していた。大会前に河村勇樹とジョシュ・ホーキンソン、渡邊雄太といった軸となる選手が負傷で離脱したことでシュートタッチが戻らなかったのが一因であり、大会に入ってようやく全員が揃い、2戦目のフィンランド戦でシュート率が上がった形だ。
フィンランド戦は、3Q終盤に18点のビハインドを負って敗戦の色が濃くなっていたが、あきらめてはいなかった。4Qに富永啓生が“ゾーン”に入ったかのように、3ポイントを立て続けに決めて流れに乗ると、終盤は河村勇輝がゲームを支配して勝利への扉をこじ開けた。終わってみれば、3ポイントの確率は39.3%。目指している40%近くまで上がっていた。
試合後、「やっとシュートが入りました。僕は我慢強く選手たちのシュートを待っていました」――とホーバスは信じた選手たちを讃えている。ただ、サイズのあるヨーロッパの強豪相手に、シュートの確率が戻ってくるのを待っているだけでは勝ち目はない。フィンランド戦は何が変わったのだろうか。正解を言えば、急に何かを変えたわけではなく、これまで地道に取り組んできた役割を、勇気を持って遂行したのがフィンランド戦だったのだ。
理想は2点と3点の割合を五分に近づけること
フィンランド戦で勝利したあとの記者会見でホーバスHCは、「僕らは日本バスケの新しいスタンダードを作ろうとしている」と発言している。そのスタイルとは、NBAで主流になっている『ペース&スペース』。
サイズがない日本が目指している『ペース』とは、トランジションの速さを武器にテンポを上げ、プレッシャーディフェンスによって相手のミスを誘って自分たちのポゼッション(攻撃回数)を増やすこと。『スペース』は得意の3ポイントを効果的に活用することで、スペースを広げてそこから攻撃に転じることを指す。そのスタイルの土台になっているのが、日本の得意な形を生み出すために、スタッツを分析して期待値(入る確率)の高いシュートを打つ戦法――すなわち、ホーバスHCが標榜する「アナリティック(分析)バスケットボール」だ。女子の場合もアナリティックを重要視しながら『スモールボール』(サイズのなさを運動量と3ポイントで凌駕するスタイル)を極め、東京五輪で銀メダルを獲得したのである。
ワールドカップ予選の最終節「Window6」(2023年2月)では、3ポイントが爆発してイラン(17/37本、54.1%)とバーレーン(16/41本、39%)を突き放している。このときホーバスHCは「このワールドカップ予選を通じて、『日本の3ポイントは怖い怖い怖い…』と相手に思ってもらえる存在になりたかったし、そのイメージはつけられたと思う。相手が3ポイントを警戒してくれればスペースが空くので、そこからペイントエリアにアタックをしたり、速い展開ができる」と確かな手応えをつかんでいた。
こうして、日本が3ポイント主体のチームであることは多くの国に知れ渡った。そして、ワールドカップ前にはさらにステップアップして「理想は3ポイントと2点シュートの割合を同じくらいにしたい」(ホーバスHC)との展望を付け加えるようになっていたのである。それが実現したのが、2点シュートが30本(19/30本、63.6%)、3ポイントが28本(11/28本、39.3%)の試投数でほぼ同じだったフィンランド戦だったのだ。
さらに言えば、1次ラウンド2試合終了時点で日本のフリースローの試投数は51本を記録しているが、2試合終了時点で50本を超えているのはスロベニア、アメリカ、ヨルダン、スペイン、ドミニカ共和国と日本の6ヶ国のみ。ホーバスHCも「(得点を取るには)バランスが必要で、フィンランド戦ではインサイドをよく攻めた」と勝因にあげたほどだ。
ドイツ戦から兆候があったペイントアタック
これまで、日本はフィジカルの弱さが課題としてあげられ、ペイントアタックが苦手だった。そんな中でこれまでの日本と違っているのは、ゴール下へダイブしたり、レイアップを打つ「ペイントアタック」が仕掛けられるようになったことだ。これは初戦のドイツ戦から兆候が出ていたことで、スペース活用法が徐々に身についてきたのである。
ドイツは予想以上に日本の3ポイントを警戒しており、そこでできたスペースによって、馬場雄大と渡邊雄太がゴール下まで侵入して2点を取りにいっている。勝利には至らなかったが、ペイントへの侵入でその差を18点に縮めたことは次戦へとつながった。そして、フィンランド戦の前半では、ベンチから出てきた比江島慎が3ポイントのバスカンを決めてディフェンスを広げたあと、ドライブを仕掛けて攻めまくっている。こうして、ペイントアタックをすることで今度は外が空き、そのスペースを活用して3ポイントを決めたのがフィンランド戦の後半だったのだ。
4Qに入ると富永啓生がディープスリーの位置まで出たことで相手のダブルチームを引き出し、そこで3ポイントを決めたことで爆発力を生み出している。このとき富永は、スティールを連発していたことで自信が湧き出ていたのだ。そこから終盤は河村もペイントアタックをして、ホーキンソンとの合わせが決まるビッグウェーブを作った。このとき、フィンランドのディフェンスはパニックを起こしていたといっていいだろう。何より、一試合を通してディフェンスリバウンドで体を張り続けたジョシュ・ホーキンソンの献身的なプレーがあってこそ。まさしく、相手が日本の3ポイントを警戒することで生まれた『バランスのいい攻撃』によって勝利を手繰り寄せたのである。
「フィンランド戦はBリーグの河村だった」
比江島と馬場に「2点シュートの割合が増えたこと」、ホーバスHCには「これまでにないハイスコアを叩き出したこと」――について質問すると、以下のような答えが返ってきた。まずは、長年にわたって国際大会を経験しながら、自分が生きる道を探っていた比江島が明かす。
「今までの自分は『よけてよけて』かわすタイプのプレースタイルだったので、国際大会ではタフショットになっていました。それを改善して、今では身体をぶつけながらスペースを確保して打てるようになりました。また、この1年意識していたのはファウルをもらうこと。そういった技術を、Bリーグを通して向上していったのが大きいと思います」
馬場は時折、スペースの確保については戸惑いを見せることもあるが、鋭いドライブとフィニッシュできる力はチームに勢いをもたらしている。
「3ポイントだけだとオフェンスのバランスが悪いので、そこでペイントアタックすることは常に意識していたことで、それが本番の舞台で体現できるようになってきました。やっぱり、僕らの強みは3ポイント。そこでディフェンスが(前に)出てくる分、ペイントアタックができます。フィンランド戦はそのことを再認識した試合でした」
そして、ホーバスHCはハイスコアになった要因をこのように話す。
「3ポイントを入れるためには攻撃のバランスが必要で、フィンランド戦ではペイントでの成功率も高かった。どうやって大きいチーム相手に得点が取れたかというと、ローポストの1対1ではなく、外からのドライブやビッグマンのスリップ(スクリナーがスクリーンにいくと見せかけてゴールへダイブする動き)とか、そういうバスケットがやっとできたからです。後半で62点取ったことはすごいと思います。富永が熱くなって、比江島も熱くなって、モメンタムがウチのものになった。河村もよく頑張りました。今日は3ポイント、ドライブイン、相手のビッグマンの前でフローターを打って、“Bリーグの” 河村だったね」
このワールドカップにおいて、アジアのチームの中で最上位の成績を収めれば、来年のパリ五輪の出場権が与えられる。日本はこの大会でアジア1位になることを目指しているだけに、選手たちも「このあとの試合でさらに勝利することが重要」と意気込む。大会はまだまだ続く。日本のバスケットボールの形を追求しながら、チャレンジを続けていくだけだ。