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小学生の尿から殺虫剤成分を検出 民間団体が50人に調査 対策の必要性訴え

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
有機給食を実践する学校は増えている(福岡県のリンデンホールスクール、筆者撮影)

(お断り この記事は3月19日に公開しましたが、一部読者から「不安を煽るデマ」「農薬は悪という印象操作の記事に見える」との指摘があったとの連絡を受け、事実・データなどを補強した上で、見出しも含め内容を一部改訂しました。出典もできる限りURLを張りました。記事の中の基本的な事実関係は一切変更していませんが、写真も含め初版には入れていなかった様々な情報を新たに入れています)

Published March 19, Revised March 28

生態系の異変や子どもの発達障害などとの関連が疑われている農薬の成分が、多数の小学生の尿から一度に数種類検出されたと、農薬問題に取り組む民間団体が報告した。報告にかかわった専門家は、化学物質の影響を受けやすい子どもの健康を守るために総合的な対策の必要性を訴えている。

ネオニコチノイド系など15種類の農薬を分析

調査を行ったのは元農林水産大臣の山田正彦氏や環境ジャーナリストらでつくるデトックス・プロジェクト・ジャパン(DPJ)。昨年5月から今年2月にかけて小学1年生から6年生までの50人の尿を保護者の協力を得て採取し分析した。分析対象とした農薬の成分はいずれも殺虫剤で、ネオニコチノイド(ネオニコ)系農薬の成分7種類と、類似の成分7種類を含む、計15種類。

ネオニコ系農薬は、標的とする害虫だけを効果的に駆除し、生態系や人には比較的安全との触れ込みで、1990年代から世界各国で急速に普及した。しかしちょうどその頃から、各地でミツバチの生息数が激減するなど生態系の異変が次々と報告されるようになった。

宍道湖のウナギが激減

そこで、各国の研究者がネオニコ系農薬の毒性を改めて調べたところ、ミツバチや野生の鳥類、魚介類などに起きている異変にネオニコ系農薬が関与している可能性があることが次々と明らかになった。さらに、子どもの発達障害との関連の可能性を示唆する論文が発表され始めるに至り、欧米を中心に予防原則に基づいた規制強化の動きが起きた。

その結果、欧州連合(EU)では、ほぼすべてのネオニコ系農薬の使用が実質、禁止された。米国でもネバダ、ニュージャージー、メーンの各州が野外での使用を禁止するなど、規制強化の動きが広がっている。

日本でも、1990年代から宍道湖のウナギの生息数が激減したり、発達障害と診断される子どもの数が大幅に増えたりするなど、海外と似たような異変が報告されている。しかし政府は、欧米とは逆に農産物への残留基準を繰り返し緩和した。

農薬業界は関係を否定

日本政府が残留基準を緩和した理由は不明だが、様々な報道がなされている

農薬工業会は「日本で登録され使用される個々の農薬については、農薬取締法に基づいて国が厳格な安全性の審査を実施し登録され、適正な使用と相まって国民や環境へのリスクは管理されていると考えています」と述べ、ネオニコ系農薬に関する様々な研究論文や報道の中身に反論している。

50人全員から検出、8種類検出の子どもも

DPJの調査では50人全員から農薬の成分を検出。ほぼ全員から2種類以上の成分が検出され、中には8成分が検出された子どももいた。農薬の種類別に見ると、最も多く検出されたネオニコ系農薬の成分はクロチアニジンで50人中39人。次がジノテフランで同38人。アセタミプリドが検出されたのは6人だったが、アセタミプリドの代謝物が43人から検出された。検出上位の農薬は出荷量も多く、農業での使用の多さがそのまま尿からの検出の多さにつながった形だ。

最も高い検出値(クレアチニン補正値)はクレアチニン1グラムあたり33.6マイクログラム(マイクロは100万分の1)だった。大半の子どもは10マイクログラム未満だった。

PFASなどとの複合曝露が原因?

DPJ顧問で医学博士の木村-黒田純子氏は「このような低濃度で悪影響が出ることはないだろうと考えられる」と述べ、検出値自体は高くないと指摘。ただ同氏は同時に、子どもの発達障害が増えている原因として、農薬や有機フッ素化合物(PFAS)、マイクロプラスチックなど様々な有害化学物質への複合曝露が考えられると述べ、ネオニコ系農薬の継続的な摂取を懸念。また、子どもの健康を守るために総合的な対策の必要性を訴えた。

今回調査に協力した家庭は、生活協同組合の中でも無農薬食材の取扱量が多い「コープ自然派しこく」の組合員など、ふだんの農薬の摂取量が比較的少ないと考えられる家庭が多かった。このため、「日本の平均的な子どもの検出値はもっと高い可能性がある」と検査・分析を請け負った農民連食品分析センターの八田純人所長は推測する。

学校給食との関係は?

調査に協力した小学6年の男児の母親は「家では可能な限り有機食材を使うなどしているのに、検出されたという結果を知ってショック。母親としては何が原因なのか知りたい」と感想を述べつつ、学校給食が原因ではないかとの見方を示した。

実際、今回の検査では事前に、50人全員に対し普段の昼食は学校給食かどうか確認。49人が「学校給食」と答えた(1人は不明)。また、採尿は夏休みなど学校が長期休みの時期を外して行われた。

DPJ共同代表で、有機学校給食を全国に広げる活動にも力を入れている元農相の山田正彦氏は、環境団体「地球・人間環境フォーラム」との最近のインタビューの中で、発達障害と診断される子どもが増えていることに触れ、「原因はいろいろ考えられるでしょうが、私には残留農薬、食品添加物等、食がその一つの要因ではないかと思えてならないのです」と有機学校給食の普及活動に取り組む理由を説明している。

スルホキサフロルも38人から検出

報告会では、38人と非常に多くの子どもの尿から検出されたスルホキサフロルについても懸念が示された。スルホキサフロルはネオニコ系と同じ神経毒で、洗っても落ちない浸透移行性の特徴もネオニコ系と同じ。しかし、ネオニコ系には分類されないため、ネオニコ系農薬への消費者の目が厳しくなる中、その代替農薬として急速に使用量が増えている。

EUは2015年にスルホキサフロルの使用を認可したものの、わずか7年後の2022年に、生態系への影響が大きいとして屋外での使用禁止に踏み切った。米国でも、昨年3月にカリフォルニアやニューヨークなど13の州の司法長官が米環境保護庁(EPA)に書簡を送りスルホキサフロルの使用を厳しく制限する施策の導入を求めるなど、規制強化の機運が高まりつつある。

他の調査でも同様の結果

これに対し日本では、2022年、厚生労働省がスルホキサフロルの残留基準を畜産品も入れると60品目以上の農産物で緩和した。例えば、イチゴはそれまでの0.5ppmから8倍の4ppmに緩和、ホウレンソウは6ppmから3.3倍の20ppmに緩和されるなど、緩和幅が大きなものも多い。(1ppmは100万分の1)

実は、今回と同様の調査は他でも行われており、似たような結果が出ている。例えば、静岡県藤枝市の市民グループが昨年、主に保育園や幼稚園児、小学校低学年の子どもの尿を採取して分析した調査では、これまでに分析の済んだ47人のほとんどの尿からネオニコ系農薬の成分が検出され、数種類の成分が検出された子どもも多かった。クロチアニジンとジノテフラン、アセタミプリドの代謝物の検出率が高かったのも同じだ。

世界トップクラスの農薬使用量

尿から多数の農薬の成分が検出される一因は、日本が世界の主要国の中で単位面積あたりの農薬の使用量がトップクラスにあるという事情が考えられる。国連食糧農業機関(FAO)のデータによれば、日本の2021年の推定農薬使用量は農地1ヘクタールあたり11.24キログラム。主要国の中では韓国の同12.29キログラムに次いで多い。他に10キログラムを超えている国はブラジルとオランダくらいだ。「農薬大国」「農薬天国」などと揶揄されるゆえんだ。

農林水産省が2021年に策定した「みどりの食料システム戦略」では、2050年までに「ネオニコチノイド系を含む従来の殺虫剤に代わる新規農薬等の開発により化学農薬の使用量(リスク換算)を50%低減」する目標を掲げている。

だが、DPJ共同代表の安田節子氏は「ネオニコ系農薬の例からもわかるように、農薬の歴史は、最初は安全だと言われても、後から危ないということがわかったという歴史の繰り返し」と述べ、代替農薬への懸念を示す。そして「農毒(農薬を指すとみられる)に頼らない生活」への転換の必要性を強調した。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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