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なぜ大雪が降ると電車が止まるのか? 新潟からのレポートです。

鳥塚亮大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長

日本海側を中心に各地で大雪が続いています。

札幌でも一晩に1mを超える雪が降り、JR北海道が2日以上も運転できない状況というニュースが聞こえてきています。

筆者が代表取締役を務める新潟県のえちごトキめき鉄道でも、豪雪地帯と言われる上越地域を走ることから、大雪の影響で列車の運転ができない日が発生しています。

筆者は東京出身で、還暦を超えた年齢で雪国で3度目の冬を迎えていますが、筆者がそうであるように、都会の皆様方は雪が降るとどうして電車が動かなくなるのか、正確にはご存じない方もいらっしゃると思いますので、新潟県のえちごトキめき鉄道を例に、レポートさせていただきたいと思います。

1:線路の除雪

線路に雪が積もると電車の運行に支障をきたします。

そこで、ある一定の積雪があると除雪用の車両を稼働させて線路の雪を除雪します。

通常は除雪作業は夜間に行います。

終電車が出た後、始発電車が走る前の深夜時間帯を利用して行うことで、定期列車の運転を妨げないようにしています。

この車両はえちごトキめき鉄道の投排雪車と呼ばれる大型の除雪用車両ですが、夜間作業で線路の除雪を行い、始発電車の前には車庫に戻り作業を終えます。

これで電車の運行に支障が出ないようにしているのですが、夜間除雪が終わっても明け方から日中時間帯にも雪が降り続けると、朝の通勤通学輸送が終わったころから線路上の積雪が多くなり始めて、電車が走れなくなることがあります。

そうなると日中時間帯に再度出動となりますが、除雪用車は機械扱いですから、そういうものが線路上にある時は線路閉鎖という手法を取るため、除雪が完了するまで電車の運転を取りやめることになります。

日中時間帯に電車を運休させて除雪を行い、夕方の帰宅時間帯には何とか間に合わせるという、深夜作業後に再度日中作業という現場の努力に頼ることになります。

2:ポイント不転換

時折耳にする方もいらっしゃるかと思いますが、線路の分岐器:ポイントが切り換わらなくなる事態が発生します。

豪雪地帯ではポイント部分はこのように雪が積もらない構造になっています。

横にある小屋の中にはボイラーや電気の機械が入っていて、熱風を送り込んだり電熱で常にポイントを温めて、さらに温水スプリンクラーで周囲の雪を解かす構造になっていますから、ポイントそのものは通常であれば稼働します。

ではなぜそのポイントが不転換、つまり切り換えができなくなるかというと、電車が抱えてきた雪がポイントに詰まってしまうことが原因です。

積雪時、電車は線路上に積もった雪を押しながら走ってきます。

この写真のように足元に雪を抱えながら走って来て、駅に進入する際にその雪をポイントに押し込んでしまうと、ポイントが目詰まりを起こして切り換わらなくなります。

これを防ぐために、えちごトキめき鉄道では軌間内消雪装置といって、左右のレールの間に水を流して、その雪を落とす仕組みを持っています。

これがその軌間内消雪装置です。

左右のレールの間に地下水やボイラーで温めた水を流して、電車が抱えて来た雪をここで落としてからポイントに入る仕組みです。

これが意外にも効果が大きいと言われていますが、雪の量が多くなるとやはりポイントに支障をきたす形になります。

ただし、ポイント上に雪が詰まっても、ポイントそのものは温められていますから10~20分もすれば詰まった雪も解けてしまいます。

通常、電車の運転間隔が30分に1本程度であれば不転換は発生しないのですが、えちごトキめき鉄道の妙高はねうまライン(直江津-妙高高原)では、二本木というスイッチバックの駅が存在しています。

スイッチバックというのは、急勾配区間に設けられた駅で、電車が行ったり来たりしながら山を登る構造になっています。

本線上を走ってきた電車が一旦引き込み線に入り、方向転換をしてバックでホームに入り、再度方向転換して発車していく構造になっていますから、今通過したポイントをすぐに切り換える必要が出てきます。こうなると、1~2分ごとにポイントを切り換えることになりますので、抱えてきた雪がポイントの目詰まりを起こした場合に不転換となってしまいます。

上下列車ともに行ったり来たりする二本木駅は多数のポイントが入り乱れていて、このうち1つでも不転換を起こすと列車の運行ができなくなるという、妙高はねうまラインのネックになっています。

以前はこのような駅にはたくさんの駅員が配置されていて、駅員たちが総出で電車が通るたびにポイントの雪かきを行っていましたが、現在では無人化されポイントは自動で遠隔操作されていますから、大雪にはなかなか対応できないのが現状です。

3:架線凍結

これは雪国のみならず首都圏でも時折耳にする言葉ですが、電車の架線が凍結するとパンタグラフで集電できなくなります。

それどころか、着氷によってパンタグラフが架線から離れてスパークを起こし、その熱で架線を溶断してしまいます。

こうなると大事です。

千葉県の内房線や成田線などでは架線凍結を防ぐために夜間時間帯も回送電車を走らせているところもありますが、前述の通り、雪国では深夜時間帯に除雪作業を行うため、凍結防止用の回送電車を走らせることができません。

そのため、えちごトキめき鉄道では架線凍結対策用に設計された特別仕様の電車を運用に入れて対処しています。

えちごトキめき鉄道のET127系電車ですが、2両1ユニット基本で使用されています。

通常の編成は2両で1つのパンタグラフなのですが、架線凍結対策用に設計された特別仕様車は2つのパンタグラフが取り付けられています。

形の違うパンタグラフがそれぞれの車両についていますが、前のパンタグラフで氷を除去しながら後ろのパンタグラフで集電することで、架線からの電気を確保できる仕組みです。

全部で10編成あるET127系ですが、この2パンタ車両は2編成のみ。その2編成を冬期間は始発電車の運用に充てて架線凍結が発生しても給電でき、運転継続できる体制を取っています。

4:沿線除雪

線路の除雪ばかりでなく、沿線設備の除雪も必要になるときがあります。

この写真は関山-妙高高原間。雪崩や落雪を防ぐための防止柵が斜面に設置されていますが、これもある程度積雪量が増すと雪下ろしが必要になります。

こちらの写真は妙高高原駅でのホーム屋根の雪下ろしの様子です。

ホームの屋根も設計重量を超える積雪があると雪下ろしが必要になりますが、下ろした雪を排雪しなければなりませんので、除雪用の車両も稼働させます。

そうなると前述の通り、線路閉鎖という手法を取りますから電車を運休させての作業となります。このような場合は一番利用者の少ない日時をあらかじめ定めて、計画運休となります。

通常除雪作業は深夜時間帯に行いますが、屋根の雪下ろしといった作業は足場も悪く、夜間では危険が伴いますので、日中時間帯に人海戦術で一気に行うことになります。

以上のように、雪国の鉄道会社では各種の防雪対策を取りながら日々の列車の運行を支えているのですが、ドカ雪のように時間当たりの降雪量があまりにも多くなると、各種事象が複合的に一斉に発生しますので、電車を止めざるを得なくなる状況が発生します。

これが大雪が降ると電車が止まる理由です。

正確に言うと、止まるのではなく「止める」のです。

降雪予報や沿線の積雪状況などを鑑み、今後の状況を見計らって、駅間で乗客を乗せたまま立ち往生することがないように、電車を止めるのが鉄道会社の判断となります。

新潟の雪は湿った重たい雪で、気温も0度前後ですから温水で雪を解かしたりスプリンクラーを稼働させることが有効ですが、地域によってそれぞれの対策があります。

札幌圏で2日以上列車が動かなくなる事態が発生していますが、十分な雪対策をしている北海道の鉄道が動かなくなるということは、相当な降雪があったということは容易に想像できます。

昨年の豪雪で雪に埋もれた車両を救出するえちごトキめき鉄道の職員たち。(2021年1月 直江津駅)
昨年の豪雪で雪に埋もれた車両を救出するえちごトキめき鉄道の職員たち。(2021年1月 直江津駅)

どの地域でも雪国の鉄道マンたちは輸送の安全を確保するために、日夜雪と戦っていることを皆様方にお伝えしたく、ペンを取りました。

運休や遅れ等でいろいろとご不便ご迷惑をおかけすることと思いますが、裏方で昼夜を問わず雪と格闘している多くの鉄道マンたちがいることに思いを巡らせていただければ幸いです。

今週は太平洋側でも雪の予報が出ています。

皆様どうぞお気を付けください。

※写真提供 えちごトキめき鉄道

大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長、2024年6月、大井川鐵道社長。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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